コスト減、競争力向上、人材獲得など利点は多いが響かぬ企業も【これだけは知っておきたい「脱炭素経営」 第5回】

2025/09/11
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脱炭素経営をテーマに、製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者がお届けするChematelsの「これだけは知っておきたい『脱炭素経営』」。第5回は「企業が取り組む意義とメリット」がテーマです。脱炭素の重要性が叫ばれる中でも、実際には「まだ取り組めていない」「取り組む必要性を感じにくい」という企業も少なくありません。今回は、そうした企業の実態を整理しつつ、脱炭素経営がもたらす五つの利点を紹介します。

目次

脱炭素経営に取り組んでいない理由は「メリットを感じられない」など

日本商工会議所と東京商工会議所が2024年に実施した調査*1によると、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入など、何らかの脱炭素の取り組みを実施している中小企業は71.4%に上ります。一方で、残りの3割弱は、まだ具体的な行動に移していないのが現状です(図1)。

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図1:中小企業が考える脱炭素に取り組むハードル
⁠⁠(出所:東京商工会議所2024年6月25日公表「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」を基に作成)

脱炭素の取り組みを実施しない理由として、「メリットや意義が感じられない」「専門用語が多く理解できない」「何が排出量算定の対象になるのか分からない」など、“入口”である「知る」段階に高いハードルを企業が感じている点を挙げることができます。なかでも「取り組むためのマンパワー・ノウハウが不足している」は、すでに取り組んでいる企業にも共通する悩みです。

一方、脱炭素対応はすでにサプライチェーン全体の要請として広がっています。調査では25.7%の企業が、排出量の算定や削減目標の設定、再エネ導入、また中小企業版の科学的根拠に基づく目標(SBT:Science Based Targets)*2の取得など、何らかの要請を取引先から受けていると回答しています。特に製造業では、その割合がより高い傾向にあります。

こうした要請が拡大するいま、脱炭素への対応は「選択」ではなく「前提」になりつつあります。ただし、外部からの圧力だけで動くのではなく、自社にとっての意義やメリットを見出せるかどうかが、継続的な取り組みの鍵となります。

取り組む利点はエネルギーコスト削減、競争力強化、知名度向上など

環境省と経済産業省は、企業がカーボンニュートラルや脱炭素に取り組む利点として、次の五つを示しています(図2)。

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図2:政府がうたうカーボニュートラル取り組みの利点
⁠⁠(出所:環境省・経済産業省 2025年5月公表「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」を参考に作成)

一つ目は、エネルギーコストの削減です。高騰する原料費への対策としても有効で、成果が見えやすい点も特徴です。省エネ診断*3や補助制度*4の活用により、自社では気づかなかった無駄の発見につながることもあります。

二つ目は、競争力の強化です。脱炭素社会では、製品の品質や価格に加え、二酸化炭素(CO)排出量が重要視されます。取引先の要件を満たす製品を提供するだけでなく、その製品のCO2の排出量を抑えることが、新たなビジネスチャンスにもつながります。

三つ目は、知名度や認知度の向上です。脱炭素の取り組みを社外に発信することで、企業の姿勢が注目されやすくなり、自社のブランディングの効果も得られます。

四つ目は、資金調達における優位性です。近年では、環境・社会・企業統治(ESG:Environment・Social・Governance)*5の観点から融資条件に脱炭素の取り組みが反映されるケースが増えています。早めの対応が、資金調達における安心感にもつながります。

五つ目は、人材のモチベーションや採用力の強化です。会社として気候変動に取り組む姿勢は、社員の共感ややりがいを生み、人材の定着を促します。また環境意識の高い人材からの応募が増えるなど、採用面でも好影響が期待できます。

このように、カーボンニュートラルや脱炭素の取り組みには、多くの利点があります。これらの取り組みを始めるには、まず、経営層が全社として取り組む姿勢を示すことです。国の支援策や外部との連携を活用し、できるところから一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

現場の一人として、脱炭素を始めることもできる

自社がまだ本格的に脱炭素経営に取り組んでいない場合でも、一人の社員としてできることはあります。

例えば、自分の業務の中でCO2排出につながる要素を見つけたり、取引先や顧客から脱炭素に関する調査やヒアリングを受けたりした際は、社内で情報を共有することが重要です。

また、業界動向や法制度、他社事例を日頃から情報収集しておくことも大切です。自身のキャリア形成にもつながり、環境省認定の「脱炭素アドバイザー」といった資格取得に挑戦するのも有効です。

次回は最終回。脱炭素経営の今後の展望と課題について解説します。

注釈

*1:日本商工会議所と東京商工会議所が2024年に実施した調査
2024年3月・4月に実施し、6月に公表した「「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」集計結果」。

*2:中小企業版の科学的根拠に基づく目標(SBT:Science Based Targets)
科学的根拠に基づく目標(SBT)は、パリ協定と整合する温室効果ガス削減目標を企業が設定するための国際的な枠組み。中小企業版のSBTは、その簡易版として、従業員250人未満の企業を対象に申請手続きを簡略化したもの。

*3:省エネ診断
工場・ビル・店舗などのエネルギーの使用状況を把握し、省エネルギーへの改善項目をあげること。省エネお助け隊や登録診断機関による診断や、省エネセンターによる診断があります。

*4:補助制度
カーボンニュートラルや脱炭素経営に取り組む企業に対し、補助金や融資などのさまざまな制度があります。経済産業省・環境省が公表する「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」などに各種補助制度が掲載されています。

*5:環境・社会・企業統治(ESG:Environment・Social・Governance)
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉で、投資家や金融機関が企業を評価する際の重要な基準。

和地慎太郎(わちしんたろう)

ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。