化学メーカーの先進事例に学んで自社に生かす【これだけは知っておきたい「脱炭素経営」 第4回】

2025/08/28
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脱炭素経営をテーマに、製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者がお届けするChematelsの「これだけは知っておきたい『脱炭素経営』」。第4回のテーマは「実践する企業の成功事例と教訓」です。脱炭素経営を進める上では、業界や取引先の動向を把握することが重要です。自社の取り組みの参考になるだけでなく、今後のサプライチェーン全体への影響を見極める上でも役立ちます。今回は、化学業界の大手企業が進める脱炭素経営の事例を紹介します。

目次

業界や取引先の動向を自社の脱炭素経営の参考にする

温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出削減の対象は、自社だけでなく、サプライチェーン全体へと広がりつつあり、大企業を中心にその動きが加速しています。その中で、業界や取引先の動向を把握することは、脱炭素経営を進める上で重要です。

環境省は、脱炭素経営の先進事例を業種別に多数、紹介しています。その中から、化学業界の大手である信越化学工業と三菱ガス化学の取り組みを紹介します。

再エネ・省エネに注力、燃料転換も視野に ― 信越化学工業

信越化学工業は、再生可能エネルギーの導入をはじめ、脱炭素の取り組みを経営の重要課題として推進しています。

電力使用者が発電事業者から一定期間、単価を固定して電力を販売してもらう契約を電力販売契約(PPA:Power Purchase Agreement)といいますが、同社の群馬事業所は、県営水力発電所の電力を活用する「地産地消型PPA」に参加し、工場のGHG排出量を約90%削減できるとしています。さらに、天然ガスを用いて電力と蒸気を同時に生み出す「コージェネレーションシステム」の導入により、年間約2万4000トンの二酸化炭素(CO2)排出削減が可能であるとしています。

同社はほかに、高効率冷凍機の導入や工場屋根への遮熱塗装といった省エネ対策も進めています。こうした取り組みはサプライチェーン全体のGHG排出削減にも貢献するものといえます。

本連載の第2回「『スコープ1・2・3』の具体例を知って温室効果ガスの“見える化”を!」で、サプライチェーン全体のGHG排出などを指す「スコープ3」について取り上げました。このスコープ3への対応としては、カテゴリ4「輸送、配送(上流)」に該当するモーダルシフト、つまり製品輸送のトラックから鉄道への切り替えを実施。また、カテゴリ12「販売した製品の廃棄」関連では、製品廃棄物の削減にも取り組んでおり、今後は顧客と連携した取り組みがより一層重要になると見込まれます。

同社は水素など次世代燃料への転換も検討しています。こうした燃料転換の動きは今後、業界全体に広がると見込まれ、特に高温の熱源を必要とする製造プロセスなど、電化による脱炭素化が難しい分野で有効な手段となるでしょう。

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図1:信越化学工業の温室効果ガス削減策の例
⁠(出所:信越化学工業「サステナビリティレポート2024」を参考に作成)

CO2を原料としたメタノールで化石資源からの転換へ ― 三菱ガス化学

三菱ガス化学は、中期経営計画「Grow UP 2026」で、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの加速を掲げています。2023年度は、冷凍機などの大型設備の更新や廃熱回収の効率化により、CO2換算で9800トンの削減を達成。さらに、再生可能エネルギーの導入拡大により、2万6000トンの削減も実現しています。

特に注目されるのは、基礎化学品であるメタノールの脱化石燃料化です。CO2やバイオマス、廃棄物を原料とするメタノール製造に取り組み、2030年以降には最大100万トンの規模での商業化を目指しています(図2)。

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図2:三菱ガス化学の環境循環型メタノール構想
⁠(画像提供:三菱ガス化学)

また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画し、東ソーなどと連携して、CO2を原料としたポリカーボネートやポリウレタンの製造技術の開発も進めています。

こうした二酸化炭素回収・利用(CCU:Carbon dioxide Capture and Utilization)*1やカーボンリサイクル*2の取り組みは、経済産業省も推進しており、今後さらに拡大すると見込まれます。

GHG削減効果を「価値」と捉えて製品への反映を

化学産業は、燃料だけでなく製品の原料にも化石資源を使うため、脱炭素化が難しい産業です。燃料や原料の転換には、製造技術やコスト面での課題があり、その影響はサプライチェーン全体に波及すると考えられます。

こうした中で、GHG削減効果を環境価値として製品に反映させることが、脱炭素経営を進める上での重要な鍵となるでしょう。

次回は、企業が脱炭素経営に取り組む意義とメリットについて解説します。

注釈

*1:二酸化炭素回収・利用(CCU:Carbon dioxide Capture and Utilization)
 ⁠
・発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、有効利用することを指します。

*2:カーボンリサイクル
 ⁠
・CCUのうち、CO2を燃料やプラスチックなどに変換して利用することを指します。

和地慎太郎(わちしんたろう)

ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。