150兆円の官民投資! 脱炭素化で調達も規制も価値観も変わる【これだけは知っておきたい「脱炭素経営」 第1回】
2025/07/08近年、脱炭素への取り組みが「企業の経営課題」として位置付けられるようになってきました。かつては企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の一環として捉えられていた環境問題への取り組みも、いまでは経営に深く関わる重要なテーマとなりつつあります。今回からお届けするChematelsの連載「これだけは知っておきたい『脱炭素経営』」では、地方公務員として環境行政に携わってきた筆者が、脱炭素経営に関するテーマを全6回にわたってやさしく解説していきます。第1回のテーマは「脱炭素経営の基本的な考え方と重要性」です。脱炭素経営とは何か、そして自分の仕事とどう関わってくるのか。その全体像を分かりやすくお伝えします。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 脱炭素経営の基本的な考え方と重要性
- 第2回 「スコープ1・2・3」の基礎知識
- 第3回 脱炭素経営のための初めの一歩
- 第4回 実践する企業の成功事例と教訓
- 第5回 企業が取り組む意義とメリット
- 第6回 脱炭素経営の今後の展望と課題
※変更となる場合があります
中小企業にも脱炭素への取り組み広がる
脱炭素経営とは、気候変動対策、つまり脱炭素の視点を織り込んだ企業経営のことをいいます。二酸化炭素の排出削減を経営全体に組み込み、重要課題として全社で取り組むことが特徴です。
近年、脱炭素経営は大企業だけでなく中小企業にも急速に広がりつつあります(図1)。脱炭素への対応は、もはや環境問題への社会貢献という枠を超え、企業の成長戦略や事業継続に深く関わるテーマへと変わりつつあります。

図1:中小企業の脱炭素に関する取り組み状況
(出所:東京商工会議所2024年6月25日公表「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」を基に作成)
政府は官民のGX投資を後押し
こうした背景には、日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標があります。その達成には、国や自治体だけでなく、各企業での排出削減の努力が欠かせません。
国内の二酸化炭素排出量では、産業部門が全体の3割超を占め、その9割以上が製造業によるものです(図2)。

図2:国内の二酸化炭素排出量(エネルギー起源CO2、電気・熱配分後)
(出所:環境省「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量」/「温室効果ガスインベントリ」を基に作成)
特に化学工業は、鉄鋼業に次いで産業部門で2番目に多い排出量があり、脱炭素への対応が喫緊の課題となっています(図3)。

図3:産業部門の二酸化炭素排出量(エネルギー起源CO2)。四捨五入の関係で合計値が一致しない場合がある
(出所:環境省「2022年度(令和4年度)温室効果ガス排出・吸収量」/「温室効果ガスインベントリ」を基に作成)
一方で、脱炭素の取り組みには、省エネルギー設備の導入や新事業の創出など、一定の投資が必要となる場合も少なくありません。そこで政府は、脱炭素と経済成長の両立を目指す「グリーントランスフォーメーション」(GX:Green Transformation)を推進しており、今後10年間で官民あわせて150兆円規模のGX投資を行う方針を示しています(図4)。

図4:GXを実現する官民の投資額
(出所:関東経済産業局 2024年5月発表「カーボンニュートラルと地域企業の対応<事業環境の変化と取組の方向性>」を加工して作成)
このように、脱炭素社会への移行が加速する中で、企業には、事業活動全体を見直し、脱炭素を前提とした経営への転換が求められています。
脱炭素化のなかで企業の事業環境が多岐に変化していく
では、脱炭素社会への移行のなかで、企業の事業環境はどのように変化しているのでしょうか。その変化は多方面にわたり、例えば、エネルギー調達のあり方、国際的なルールの整備、制度・規制の見直し、取引ルール、投資基準、消費者の価値観、技術革新と産業構造の転換などで変化が進んでいるとされています(図5)。

図5:脱炭素化における事業環境の変化
(出所:関東経済産業局 2024年5月発表「カーボンニュートラルと地域企業の対応<事業環境の変化と取組の方向性>」を基に作成)
これらの変化は、グローバル企業を中心にすでに始まっており、サプライチェーン全体へと波及しています。中小企業にとっても、こうした外部環境の変化を見極めた対応が、リスク回避や事業成長の鍵を握るようになっています。
脱炭素経営であなたの仕事も変わりうる
さて、「脱炭素経営の重要性は分かるが、自分の仕事とどう関係するのか」と感じる方もいるのではないでしょうか。
実際には、部門や職種に関わらず、さまざまな業務が二酸化炭素の排出に関わっており、各業務で脱炭素の視点を取り入れることが求められています。
例えば、製品開発では、原材料の選定、製造プロセス、製品の使用や廃棄まで、排出量を考慮した設計が重要になります。営業職であれば、製品のカーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)を顧客から問われる機会も増えるでしょう。また、人事や総務部門では、社員の通勤や出張に伴う排出量の把握や、脱炭素に関する人材育成など、関わる場面は多岐にわたります。
次回は、脱炭素経営の基本となる二酸化炭素排出量の把握について、「スコープ1,2,3」の基礎知識を解説します。
和地慎太郎(わちしんたろう)
ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。
