フルカラー造形も! 3Dプリンティングへの応用【インクジェットが社会を変える 第4回】

2025/07/15
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Chematelsの連載「インクジェットが社会を変える」をお届けしています。第3回「デジタルファブリケーションで新次元のものづくり変革!」で紹介したデジタルファブリケーションの中核技術の一つに3Dプリンティングがあります。試作品から最終製品の製造まで、ものづくりのあり方を大きく変える技術として注目されています。さまざまな方式が存在する中で、本連載のテーマであるインクジェット技術を応用した方式は、「フルカラー」や「マルチマテリアル」といった独自の強みを持ち、他にない表現力で製造業に革新をもたらしています。第4回の今回は、代表的な3Dプリンティング方式と比較しながら、インクジェット方式の特徴と応用事例、そしてそれらを支える化学・材料技術の重要性について解説します。

目次

試作品から最終製品まで、用途を広げる3Dプリンティング

3Dプリンティングは、3次元の設計データをもとに材料を積み重ね、立体物を造形する技術です。積層造形とも呼ばれます。金型が不要で、データさえあれば複雑な形状でも迅速に造形できます。

当初、3Dプリンティングの主な用途は、製品開発の試作品を高速に作るラピッドプロトタイピングにありました。しかし、近年は造形精度や速度の向上、そして利用可能な材料の多様化により、治具・工具や最終製品などの製造へと用途を広げています。

3Dプリンティングには、熱で溶かした糸状の樹脂を積み重ねる「熱溶解積層(FDM:Fused Deposition Modeling)方式」、液体樹脂に光を当てて硬化させる「光造形(VPP:Vat Photopolymerization)方式」、粉末状の樹脂や金属にレーザーを照射して焼き固める「粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)方式」、そして以降で詳しく紹介する「インクジェット方式」など、さまざまな方式があります。

インクジェット方式ではマテリアル噴射とバインダー噴射の主に2種類

多様な3Dプリンティングの方式がある中、インクジェット方式は第1回「紙以外にも対象用途は拡大中」で紹介した「微小な液滴を対象物に非接触で飛ばす」という印刷方法に由来する技術が活用され、進歩を遂げてきました。3Dプリンティングで用いられる方式は次の2種類に大別されます。

「マテリアルジェッティング方式」は「材料噴射方式」とも呼ばれ、インクジェットヘッドから光硬化性樹脂の微小液滴を噴射し、紫外線光で硬化させながら積層する方式です(図1)。マテリアルジェッティング方式は非常に高精細な造形を得意とします。フルカラー表現や、硬軟の異なる材料を同時に使えるマルチマテリアル造形も可能にし、他の方式にはない表現力を実現します。

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図1:マテリアルジェッティング方式
⁠(出所:ShareLab記事を参考に作成)

「バインダージェッティング」方式は、「結合剤噴射方式」とも呼ばれ、敷き詰められた粉末材料にバインダー、つまり結合剤を選択的に噴射して固める方式です(図2)。造形後に焼結などの後処理を行い、強度を高めます。

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図2:バインダージェッティング方式
⁠(出所:ShareLab、ものづくりエンジニアのためのはじめの工作機械など各種記事を参考に作成)

企画・設計・営業などでの「コミュニケーション手段」に

これら「高精細」「フルカラー」「マルチマテリアル」といった特徴を生かし、ものづくりの現場でインクジェット方式の3Dプリンティングの活用が急速に進んでいます。

イスラエルのストラタシス社や米国の3D システムズ社、また日本のミマキエンジニアリング(本社長野県東御市)などが代表的なメーカーです。これら企業の装置は、自動車業界における機能試作段階の内装部品の検証や、最終製品の製造の場面で活用されています(図3)。

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図3:インクジェット方式3Dプリンティングの応用例
⁠ (画像提供:左ストラタシス/右 ミマキエンジニアリング)

また、そのリアルな表現力は、関係者間の認識を合わせるコミュニケーション手段としても有用です。製品の外観モデル、つまりモックアップとして、企画・設計・営業など複数の場面で円滑な伝達を可能にします。

こうした活用は医療現場にも広がっています。コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)のデータからリアルな臓器モデルが造形され、手術シミュレーションや患者への説明に役立てられているのです(図4)。

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図4:医療模型による臓器内部の構造の可視化。ストラタシス社の3Dプリンターによる造形
⁠(画像提供:丸紅I-DIGIO)

なお、このようなモデル製作にとどまらず、インクジェット技術のより直接的な医療分野への応用も進められています。本連載の第6回で詳しく紹介します。

こうした3Dプリンティングの応用を支えるのが、化学メーカーなどによる材料開発の発展です。インクジェット方式で用いるインクは、精密かつ安定に噴射できる低粘度と、造形物としての「機能や強度」という、両立が難しい特性を求められます。吐出制御に関わる部品・装置メーカーとインク開発に関わる化学業界、さらには大学などの学術領域を含め、複数の業界・領域からの技術革新が、3Dプリンティングの進歩を推し進めています。

トレードオフ的な課題の克服が普及の鍵

大きな可能性を秘める一方、インクジェット式3Dプリンティングのさらなる普及には課題もあります。技術的課題としては、材料物性の向上、造形速度の高速化、装置本体と材料のコスト低減が挙げられます。また大量生産に不向きな点の克服も課題です。

これらが単独の課題とならないところに、この技術特有の難しさがあります。例えば、装置の吐出制御と材料設計の関係では、造形物の強度を高めるため分子量の大きい樹脂成分を配合すると、材料全体の粘度が上昇し、液滴の安定吐出性が低下する可能性があります。また、高精細造形を目指すほどノズル径が小さくなり、吐出できる液滴量が減少するため生産性が低下したり、ノズル詰まりのリスクが増加したりすることから、小径ノズルでは使用できる材料の粘度範囲や粒子径に厳しい制約が課され、材料設計の自由度が制限されるのです。

このような、複数の制約とトレードオフ状況が複雑に絡み合っています。こうした技術的なジレンマの最適解を追い求めることは、まさに開発者にとって永遠のテーマといえるでしょう。

一方で、その社会的意義は非常に大きいものといえます。インクジェット式3Dプリンティングは、第3回「デジタルファブリケーションで新次元のものづくり変革!」で説明した「分散型生産」の実現や、一人ひとりのニーズに合わせたカスタム製品の提供を容易にする「ものづくりの民主化」を後押しする、変革の中核技術の一つとなっています。

インクジェット技術と材料科学という両輪の進歩は現在進行形で続いています。これからも3Dプリンティングは、私たちの社会に大きな変革をもたらしていくでしょう。

次回は、精密デバイスの製造プロセスを変革する「プリンテッド・エレクトロニクス」の世界を紹介します。

参考文献

  1. ShareLab「3Dプリンターの造形方式を解説!FDM?MEX?PBF?DEDってなに?」 
    https://news.sharelab.jp/study/am-tech/
  2. ストラタシス・ジャパン「PolyJet™ 3Dプリンタとは」
    https://www.stratasys.co.jp/guide-to-3d-printing/technologies-and-materials/polyjet-technology/
  3. ストラタシスジャパン「3Dプリンタ活用事例 Audi ロングVer」
    https://www.youtube.com/watch?v=cEpg1efvYas
  4. ストラタシスジャパン「試作から生産補助、量産まで 製造の加速をサポート 積層造形・3Dプリンタのパイオニア『ストラタシス』」
    https://go.stratasys.com/2025-5-NA-JP-NUR-IBU-ATEGEY_Automotive-Engineering-EXPO-2025.html
  5. モノト ものづくりエンジニアのための はじめの工作機械「3Dプリンタの常識を覆す
    – 高精度・高解像度の光造形技術」
    https://monoto.co.jp/sp-3dprinter-vol1/
  6. ミマキエンジニアリング「製品情報 3DUJ-553」
    https://japan.mimaki.com/product/3d/3d-inkjet/3duj-553/#prettyphoto[gallery]/2/
  7. 丸紅情報システムズ「3Dプリントサービス for メディカル」
    https://www.marubeni-sys.com/3dprinter/service/3dprinting/medical/
  8. 山形大学インクジェット開発センター「山形大学インクジェット開発センターについて
    https://inkjet.yz.yamagata-u.ac.jp/yu-ijc/

林駿佑(はやししゅんすけ)

メーカー勤務。修士(理工学)。大手メーカーに技術職として入社後、物性評価・プロセス開発の業務を行い、開発業務以外にも商品企画や品質保証業務に携わる。画像判定技術の開発を進めていく中で、「ものづくり×デジタル」の領域に強い関心を持ち転職。現在、製造現場のデジタル化とデータ分析・活用に取り組んでいる。