デジタルファブリケーションで新次元のものづくり変革!【インクジェット技術が社会を変える 第3回】

2025/07/01
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近年、デジタル技術の進展により「デジタルファブリケーション」と呼ばれる新しいものづくりの形が注目されています。デジタルデータをもとに創造物を制作する技術を指します。インクジェット技術は従来の大量生産型から多品種・小ロット生産への転換を支える重要な役割を果たしていますが、デジタルファブリケーションにも貢献しています。Chematelsの連載「インクジェット技術が社会を変える」第3回では、デジタルファブリケーションの概要とその事例を、次回以降の内容も見据えながら紹介します。

目次

デジタルデータをもとに設計から製造まで行う

「デジタルファブリケーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。インクジェット技術はこのデジタルファブリケーションにおいて重要な役割を担っています。

さまざまな側面からの説明が可能ですが、総務省によると、デジタルファブリケーションは、「デジタルデータをもとに創造物を制作する技術」や「デジタルデータから紙や木、樹脂、金属等の各種素材を使って即時的に『もの』を印刷ないし造形加工すること」と説明されています。なお「ファブリケーション」は「制作」や「組み立て」を意味する言葉です。

従来の手段と比較した際のメリットは複数ありますが、設計段階だけでなく製造プロセスまでデジタル化することにより、より柔軟かつ短い時間でものづくりが可能となります。

インクジェット技術もデジタルファブリケーションに貢献

デジタルファブリケーションを実現するための要素は、幅広い技術によって成り立っています。技術的な側面から整理すると、ソフト・ハードおよび材料系の技術の発展によりその活用領域が拡大しています。

ソフトウェアの観点では、コンピュータ支援設計(CAD:Computer-Aided Design)などのほか、近年では生成型の人工知能(AI:Artificial Intelligence)の発展により、イメージ画像や3次元モデルを作りやすくなっていることも追い風となっています。

ハードウェアとしては3次元プリンターやレーザーカッターが挙げられます。また、金属材料や特殊なインクなど、材料系の技術革新もプロセス技術の一環として非常に重要な役割を果たしています。

本連載のテーマであるインクジェット技術については、第1回「紙以外にも対象用途は拡大中」で解説したように、「正確に微小な液滴を非接触に飛ばす」印刷技術として、ものづくり領域で拡大しています。デジタルファブリケーションという文脈においても、従来では実現できない製造プロセスの革新に貢献しています。

2次元と3次元の「間」を表現! 絵画立体複製や構造色インクジェット印刷も

インクジェット技術を活用したデジタルなものづくりにおいて、学術領域を含め、高度で最先端な研究開発として取り組まれているものに、「3Dプリンティング」「プリンテッドエレクトロニクス」「バイオファブリケーション」があります。これらについては第4回以降のテーマとして個別に紹介していきたいと思います。

今回はそれ以外の領域として、従来的な印刷を発展させた表面加飾のほか、少し変わった特徴的な表面加飾にインクジェットを利用している事例を紹介したいと思います。

表面加飾とは、この記事では、表面の意匠性・外観を改良することを指しています。第2回で「アパレルは環境配慮の時代、染色法に変革」で紹介したファッション業界におけるDTF(Direct to Film)やDTG(Direct to Garment)も、表面加飾としてのデジタルファブリケーションの一例といえます。

従来的な印刷を発展させた表面加飾として、質感を表現した印刷技術があります。2次元の平面と3次元の立体の「間」を表現でき、特徴的な印刷物を作ることができます(図1)。

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図1:質感を表現した印刷によるカレンダー。佐川印刷(本社愛媛県松山市)が「2.5D リアルプリンティング」により制作
⁠(写真提供:佐川印刷)

屋内用建材向けの表面加飾では、タイルへのインクジェット技術の利用が普及しており、今後は壁紙や床材への普及・拡大も期待されています。小物・雑貨としてはノベルティグッズやスマホケース、ネイルなどを挙げることができます。

より高度な表面加飾としては、インクの厚塗りによる立体複製画制作技術や、特殊インクによる構造色の加飾技術(図2)などが挙げられます。

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図2:高度な表面加飾の例。富士フイルムの構造色インクジェット技術による作品
⁠(CC BY 2.1 by JDP)

ビジネスモデル自体の変革も

デジタルファブリケーションの普及は、ものづくりの現場だけでなく、ビジネスモデルそのものにも大きな変革をもたらし始めています。実際の企業やサービスを事例に、その変化を紹介します。

ユーザーが自分でデザインしたイラストや写真をさまざまなグッズに印刷し、1点から注文・販売できるサービスをピクシブ(本社東京都渋谷区)が「ピクシブファクトリー」として、またGMOペパボ(本社東京都渋谷区)が「SUZURI」で、それぞれ提供しています。必要な時に必要な分だけ生産する少量多品種対応の特徴を生かしたサービスといえます。在庫リスクや廃棄ロスを大幅に削減でき、個人クリエイターが自分のブランドを簡単に立ち上げ、グッズ販売を始めることを可能にしています。

また海外の事例として、米国の3次元印刷サービス企業シェイプウェイズが、ユーザーが3次元デザインデータをアップロードし、それを基に製品を製造・配送するサービスを提供しています。このプロセスにより、設計データを世界中で共有し、各地の製造拠点で製品を生産する「分散型生産」が可能となっています。このモデルには、輸送コストの削減やリードタイムの短縮、環境負荷の低減といった利点があります。

このように、デジタルファブリケーションとインクジェット技術は、ものづくりの現場だけでなく、流通や販売、さらには個人の働き方やビジネスのあり方そのものにも大きな変革をもたらしています。今後も新たなサービスやビジネスモデルの登場が期待されています。

次回は、3Dプリンティングへの応用について紹介する予定です。

参考文献

1. 総務省「平成28年版 情報通信白書」 
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc141330.html

2. 総務省 2015年7月公表「ファブ社会の基盤設計に関する検討会報告書」 
https://www.soumu.go.jp/main_content/000361195.pdf

3. 産経新聞2016年10月1日付「『触れる絵画』で自宅が美術館に変身する? リコーが『巨匠たちも真っ青』の印刷技術を実現した!」 
https://www.sankei.com/article/20161001-GLVZZVV77VIYRB6NDWUKL7D27E/

4. グッドデザイン賞「受賞ギャラリー2023インクジェットインク 構造色インクジェット技術 富士フイルム」 
https://www.g-mark.org/gallery/winners/18907

5. Shapeways Blog「3D PRINTING INDUSTRY, SHAPEWAYS Need an Alternative for Critical Parts or Production Capacity? Shapeways Can Help — Fast」 
https://www.shapeways.com/blog/additive-manufacturing-supply-chain-resilience?

林駿佑(はやししゅんすけ)

メーカー勤務。修士(理工学)。大手メーカーに技術職として入社後、物性評価・プロセス開発の業務を行い、開発業務以外にも商品企画や品質保証業務に携わる。画像判定技術の開発を進めていく中で、「ものづくり×デジタル」の領域に強い関心を持ち転職。現在、製造現場のデジタル化とデータ分析・活用に取り組んでいる。