紙以外にも対象用途は拡大中【インクジェットが社会を変える 第1回】
2025/05/29身近なポスターや写真などの印刷物には「インクジェット」と呼ばれる技術が使われています。家庭用プリンターにもこの方式があるのはご存知のことと思います。実は、インクジェット技術の対象用途は「紙以外」にも拡大しており、産業・工業用途として幅広く活用が広まっているのです。エレクトロニクスやバイオテクノロジーなどさまざまな領域で今後さらなる発展が見込まれています。インクジェット技術によるデジタル化は、ものづくりのデジタル・トランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)や、持続可能な社会の実現といった現代の社会的ニーズとも合致し、大いに期待をされている技術の一つでもあります。今回から始まるChematelsの連載「インクジェットが社会を変える」では、インクジェット技術の活用事例と展望を、皆さんに紹介していきたいと思います。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 インクジェット技術
- 第2回 ファッション・テキスタイル市場の変革
- 第3回 デジタルファブリケーション
- 第4回 3Dプリンティングへの応用
- 第5回 電子工学におけるプリンテッド・エレクトロニクス
- 第6回 医療におけるバイオ・プリンティング
※変更となる場合があります
インクジェット技術はデジタル無版印刷の一つ
インクジェット技術の産業・工業用途の活用事例について紹介していく前に、第1回の今回は、インクジェットの他の印刷方法との違いを簡単に説明します。予備知識があることで、第2回以降の理解がより深まると思います。
まず、他の印刷技術と比較しながら、インクジェット方式の位置づけを確認したいと思います。
印刷方式を大きく分類すると、アナログの「有版印刷」と、デジタルの「無版印刷」とに区分することができます。
有版印刷は、名前の通り「版」を必要とし、インクを対象物へと転写することで印刷する手法です。凸版印刷などの手法があります。歴史は長く、大量印刷を行う際にはコスト面で優位性があるため、現在でも多く利用されています。
一方、無版印刷は版ではなくデジタルデータを用いる方式であり、今回フォーカスするインクジェット方式は、無版印刷に含まれます。他にトナー方式などがあります。
インクジェット方式は、「どのように液滴を吐出するか」という点で、図1のようにさらにいくつかに分類することができます。

図1:インクジェット方式の分類
(出所:キーエンス「IJPステーション」サイトのページを参考に編集部作成)
「正確に液滴を飛ばす」を生かせるところに用途あり
インクジェット方式には「どのように液滴を吐出するか」の違いはありますが、「非常に正確に微小な液滴を非接触で飛ばす」という点では共通しており、これこそが従来の印刷と大きく異なる特徴となっています(図2)。また、この特徴から従来の印刷技術の分類を超えて、多くの分野への応用が進められています。

図2:インク滴が飛翔する様子。一つのノズルに対してディレイタイムを変化させながら撮影
(画像提供:マイクロジェット)
インクジェット方式の産業用途としては、フォト・ポスター印刷を始め、大型広告、タイル印刷などがあります(図3)。従来はアナログ印刷が用いられていた領域でもすでに広く活用されているのです。

図3:インクジェット方式の用途拡大
応用領域は今後も広がっていく
一方で、幅広い分野での応用が現在進行形で進められているため、インクジェット技術によるデジタル化の発展途上にある領域や、研究開発がまさに進行中という領域も多くあります。

図4:インクジェット技術の応用の広がり
(出所:エプソン「サステナビリティ」サイトのページを参考に編集部作成)
この連載「インクジェットが社会を変える」では、今後そのような領域にスポットを当てていきます。第2回ではファッション・テキスタイル市場を取り上げ、インクジェット技術がどのように応用・活用されているのかを紹介していきたいと思います。
参考文献
田沼千秋「インクジェット技術とその歴史」(2008)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai/81/12/81_12_508/_article/-char/ja/
林駿佑(はやししゅんすけ)
メーカー勤務。修士(理工学)。大手メーカーに技術職として入社後、物性評価・プロセス開発の業務を行い、開発業務以外にも商品企画や品質保証業務に携わる。画像判定技術の開発を進めていく中で、「ものづくり×デジタル」の領域に強い関心を持ち転職。現在、製造現場のデジタル化とデータ分析・活用に取り組んでいる。
