アパレルは環境配慮の時代、染色法に変革【インクジェット技術が社会を変える 第2回】

2025/06/12
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ファッションが好きな人は多くいます。他方、環境問題やエコに興味を持つ人も増えました。ですが、ファッションを環境との結びつきで考える人はまだ少数派ではないでしょうか。同時にファッション市場では、多様な個性へのニーズが高まり、大量生産でなく小ロット多品種生産が求められています。さらに簡便な製作プロセスによる作業者たちの負荷低減という課題もあります。Chematelsの連載「インクジェット技術が社会を変える」第2回では、ファッション市場におけるこれらのニーズに答える技術として、近年インクジェット技術が活発になっていることを、事例とともに紹介します。

目次

「ファッション業界は世界で2番目に汚染が多い」との指摘も

ファッション市場において、インクジェット技術の対象となるのは「テキスタイル」つまり生地です。テキスタイル産業は業界の川上に当たり、繊維や染料・顔料を扱います。川中のアパレルメーカーがそこから衣服の製造を行い、川下の小売業を通して衣類が流通します。

ファッション市場が抱える大きな課題に「汚染」があります。環境問題への関心が高まる中、この業界は世界で2番目に汚染が多いという指摘*1があります。綿花の製造や染色といったプロセスにおける水の大量消費、それに生地や衣類の大量廃棄が大きな要因です。

フランスは2020年2月に循環経済法を公布*2し、アパレルの売れ残り商品の廃棄を禁止しました。業界の企業はデザイン向上や価格調整に加え、環境配慮も求められています。

インクジェット方式は環境面で優位な染色法

そこで、テキスタイルの染色法として、インクジェット技術が使われるようになりました。捺染*3を取り上げます。

従来の染色法としては、職人が手作業で染料を生地にすり付ける「手捺染」があり、工芸品で多く用いられてきました。また機械式では、スクリーン印刷やローラー印刷があり、大量生産に向いていますが、どちらも柄を作るための版の作成やそのメンテナンスが必要です。

これらの従来法に対し、インクジェット技術は第1回「紙以外にも対象用途は拡大中」で解説したとおり、デジタルで印刷し、染色液を直接印刷面へ飛ばします。データさえあれば版が要らず、小ロット対応や短いリードタイムで生産可能です。また、染色液の利用効率が高い、版の洗浄が不要、印刷後の洗浄をなくすことも可能である点から環境面で優位といえます。

テキスタイルにおけるインクジェット技術としては、布全体にデザイン柄を直接印刷するデジタル捺染機のほか、印刷した柄を布に転写する昇華転写プリンタ、Tシャツなどに直接印刷するDTG(Direct to Garment)プリンタ、フィルムに印刷を行いTシャツなどに熱圧着するDTF(Direct to Film)プリンタなどがあります。

国内外メーカーが特長うたうシステム・機器を販売

ここからは4年ごとに開催され、世界で最も影響力のある繊維・衣料の技術展である国際繊維機械展示会(ITMA:International Textile Machinery Association exhibition)などから具体的な事例を紹介します。

ミマキエンジニアリングの「TRAPIS(トラピス)」*4は、「環境と人に優しい次世代捺染システム」というコンセプトの捺染顔料転写プリントシステムです。顔料インクを用いることで排水を少なく抑え、環境負荷を小さくしています。

転写方式は、転写紙にプリンタを用いて印刷した後、熱を加えて布へ転写するという方式です。そのため、専門的な知識や技術を持たない作業者でも簡便に扱えるという利点もあります。

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図1: TRAPIS(トラピス)
⁠(画像提供:ミマキエンジニアリング)

京セラの「FOREARTH(フォアレス)」*5 は、同社の2020年からの新規事業において開発されたデジタル捺染機です。水の使用が少ないこと、染料が顔料であるため多彩な生地に印刷可能なこと、そして洗浄工程が不要な分スピーディーに生産できることをコンセプトとしています。

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図2:FOREARTH(フォアレス)
⁠(画像提供:京セラ)

コーニットデジタル(イスラエル)の「Apollo」*6は、Tシャツ向けのDTGプリンターシステムです。同社の推進するこの生産システムは、高い生産性を持ちつつ、専門的な技能が不要な一人の作業者によって稼働できる点を特徴とし、近年拡大中です。ITMA2023でも賑わっている様子でした。

図3:Apollo

品質や価格の面に残る課題も

さまざまな利点がある一方、インクジェット技術には課題も残っています。

一つは、顔料インクの使用に伴う課題です。生地にごわつき感が生じる、発色が劣る、染料と比較して高価になるといった課題があります。ただし、近年は改善傾向にあります。

また、インクジェット技術は小ロット・多品種の対応が可能ですが、一方で大量生産の場合は従来手法のほうが安価になりやすく、一長一短があります。

装置の投資コストが大きくなりやすい点も課題です。染色整理業界には中小企業が多く、新規の大型装置を導入しにくく、インクジェット技術を導入・拡充しにくい面があります。

こうした課題も併せ持つものの、近年の社会動向から今後さらなるインクジェット技術のファッション市場での利用拡大が予想されています。一方で、インクジェット技術と従来技術相互に補完しあう関係が続くとも推察されます。

皆さんもぜひ、地球環境と技術の将来に思いをはせつつ、お店で服を見るときは、それが従来技術によるものかインクジェット技術によるものか確かめてみてください!

次回は、デジタルファブリケーションという技術について紹介する予定です。

注釈

*1:世界で2番目に汚染が多いという指摘
⁠国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)が、“UN launches drive to highlight environmental cost of staying fashionable”という記事で触れています。
https://news.un.org/en/story/2019/03/1035161

*2:循環経済法を公布
⁠日本の消費者庁が、「事例 フランスのファッション業界の取組」という情報を発信しています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2022/white_paper_example_13.html

*3:捺染
⁠染料を含んだ色糊、または顔料を印捺し、単色または多色の柄を印刷する染色法。捺染を含む染色について、ニッセンケン品質評価センターが詳しく解説しているのでご参照ください。
https://nissenken.or.jp/2022/04/01/sanpomichi39/

*4:ミマキエンジニアリングの「TRAPIS(トラピス)」
⁠製品情報や技術情報は同社の下記情報をご覧ください。
⁠製品
https://japan.mimaki.com/news/product/entry-411429.html
⁠水と二酸化炭素(CO2)の各排出量比較
https://japan.mimaki.com/news/product/entry-403950.html
⁠従来プロセスとの比較
https://japan.mimaki.com/news/product/entry-411429.html

*5:京セラの「FOREARTH(フォアレス)」
同社の下記情報もご覧ください。
⁠製品
https://www.kyoceradocumentsolutions.com/ja/our-business/industrial/textile-printing/index.html
⁠開発経緯など
https://fashiontechnews.zozo.com/research/forearth?page=6
⁠開発技術など
https://www.kyocera.co.jp/newsroom/news/2023/002184.html

*6:コーニットデジタル(イスラエル)の「Apollo」
同社の下記情報もご覧ください。
⁠製品
https://www.kornit.com/printer/kornit-apollo-printer/
⁠動画紹介
https://www.youtube.com/watch?v=Wuhuvfn_uXg

林駿佑(はやししゅんすけ)

メーカー勤務。修士(理工学)。大手メーカーに技術職として入社後、物性評価・プロセス開発の業務を行い、開発業務以外にも商品企画や品質保証業務に携わる。画像判定技術の開発を進めていく中で、「ものづくり×デジタル」の領域に強い関心を持ち転職。現在、製造現場のデジタル化とデータ分析・活用に取り組んでいる。