低コスト化へ新触媒を開発中、「ホワイト水素」活用につながる研究も【注目のアンモニアを徹底解説 第6回】

2025/06/19
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お届けしてきたChematelsの連載「注目のアンモニアを徹底解説」はいよいよ最終回。今回は、アンモニアの普及を担う新技術を紹介します。大きな二つの鍵は、アンモニア製造を担う触媒の開発と、燃料としてのアンモニアを使いやすくする技術の開発にあります。資源エネルギー庁が2024年7月に公表した「グリーンイノベーション基金事業『燃料アンモニアサプライチェーンの構築』プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画」をベースに解説します。また、海外では「ホワイト水素」をアンモニア生成に利用するための研究成果が出てきたので、この革新技術の可能性も解説します。

目次

2030年「10円台」に向け、新技術のプロジェクトが立ち上がる

経済産業省の計画では、目標として、アンモニアの供給コストの低減に必要な技術、具体的には2030 年に1ノルマル立方メートル当たり10 円台後半の実現に必要な技術の確立を挙げています。この目標の下、アンモニアの利用拡大と製造の高効率化・低コスト化などの各要素での技術的課題を解決する「新技術」を基金事業として採択しています。その「新技術」は、次の二つに集約されます。

安価なアンモニア製造法へ、新触媒の開発が複数進行中

一つ目は、アンモニア製造における新触媒の開発に関わる新技術です。400〜500℃・10〜30MPaという高温・高圧のハーバー・ボッシュ法に代わる、低温・低圧、および常温・常圧でのアンモアニア合成技術を新開発の触媒を用いて確立するというものです。

低温・低圧プロセスの開発では、東京工業大学(現・東京科学大学)が先行し、その成果は2017年に同大学発ベンチャーとして設立された「つばめBHB」に引き継がれています。また、日揮ホールディングスや産業技術総合研究所なども低温低圧プロセス開発に取り組み、福島県に実証設備を設置し、2018年にアンモニアを製造し、発電も成功しました。

ただし、これらはいずれも高価なルテニウム系触媒を用いての反応条件で行われたものであり、燃料用の量産設備に適しているとはいえません。低コストでのアンモニア製法の開発に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2022年1月、次の2件の事業を採択しています。

千代田化工建設、東京電力ホールディングス、JERAが共同で受託し、その下に名古屋大学東京科学大学、京都大学をそれぞれリーダーとする3チームが、新触媒の開発に取り組んでいます(図1)。「安価な金属触媒を用いての300~400℃・5~10Mpa」がプロセス開発目標であり、2030年にはパイロット設備での実証を終える構想で進行中です。

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図1:アンモニア製造新触媒の開発・実証
⁠(出所:NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」資料/画像提供:JERA、東京電力ホールディングス、千代田化工建設)

また、出光興産、東京大学、大阪大学、産業技術総合研究所は2024年7月、常温・常圧でアンモニアを合成する新たな反応系で、世界最高の反応速度を達成したと発表しました。東大の西林仁昭教授らが開発したモリブデン触媒を用い、水と窒素を原料に電解合成するというものです。電源に再生可能エネルギーを用いれば理論上、連続的にグリーンアンモニアを製造できます。燃料や水素キャリア用にアンモニアの需要増加を見込み、2032年に年産数万トン、2040年頃に現状国内需要規模に匹敵する100万トン規模での事業化を目指しています(図2)。

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図2:グリーンアンモニア電解合成
⁠(出所:NEDO「グリーンイノベーション基金事業/燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」資料)

グリーンアンモニア電解合成ではこれまで、水を電気分解して水素を製造し、その後ハーバー・ボッシュ法でアンモニアを製造していましたが、新たな方法では、水から直接アンモニアを製造する電解合成技術により工程を大幅に簡略化できます。この電解合成技術開発により、水素タンクやアンモニア合成プロセスの省略できれば、従来法に比べて25%程度のコスト低減を達成しうる試算になります。

このほか新触媒をめぐっては、東京科学大学が2025年1月、従来法より低温かつ低圧でアンモニアを製造できる「ヒドリド*1鉄触媒」を開発したと発表しました。アンモニア製造に使うアルミニウムヒドリドは、もともと複雑な手順で合成される材料ですが、今回、簡単な方法で金属鉄粒子の表面にヒドリド鉄触媒を構築することに成功しています。ヒドリド鉄触媒では、50℃の低温からアンモニアを製造でき、既存のアンモニア製造工場で使用すると従来の280%以上エネルギーリターン*2を増幅できることも確認されました。ヒドリド鉄触媒の量産化はすでに目算がたっており、同触媒による安価なアンモニア製造は今後5年以内に実現する見込みだといいます。

燃料としてのアンモニア利用を促進する技術、万博でも実証

二つ目は、燃料としてのアンモニアの利用技術です。目標は、アンモニアの発電利用における高混焼化・専焼化で、2050 年に国内年間導入量3000 万トンを実現するのに必要な技術の確立が目指されています。主にバーナーの開発や窒素酸化物(NOx)対応技術の実現になります。

具体的には、石炭火力発電の実機における50%以上のアンモニア混焼技術の確立や、ガスタービンの実機におけるアンモニア専焼技術の確立が目指されています。詳しくは、第3回「混焼火力に向け、利点も課題も進展も」で、燃料としてのアンモニアの現状を述べたのでご参照ください。

なお、大阪・関西万博では、2MW級ガスタービンによるサイト実証試験を実施し、万博会場の電力の脱炭素化を行うとともに、2020年代後半以降のアンモニアの燃料利用の実用化を見据えた、サプライチェーンのモデルを形成するとしています。実施主体はIHI 、東北大学、産業技術総合研究所、JERAです。

「ホワイト水素」にアンモニア生成の新たな可能性

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トルコ・キマイラにおける天然水素。北半球を中心に天然水素の分布が観測されている
⁠(出所:William Neuheisel from DC, US - Chimaera, CC BY 2.0)

最近、世界の研究者や企業は、「地下に自然に存在する水素」を発見しており、「天然水素」あるいは「ホワイト水素」と呼んで注目しています。ホワイト水素は、鉄を多く含む岩石による反応促進で生成されたもので、こうした天然の水素資源は、低コストかつ低CO2排出の水素供給源となる可能性があります。

そして、この天然水素を原料とすれば、地上施設での水素生成の工程を省けるため、現状より低負荷でアンモニアを生成することができます。2025年1月、米国マサチューセッツ工科大学のチームは、地下の一般的な温度と圧力の下で岩石からアンモニアを生成できることを明らかにしたと、学術誌『ジュール』に発表しました。このアンモニア製造プロセスの商業化を目的とした新会社「アディス・エナジー」も設立されたと、『MITテクノロジーレビュー』が報じています。

天然水素の産業利用はまだ発展途上ですが、地下での水素生成を促進することで、このプロセスを加速させようとする研究者や企業もいます。日本ではHydrogen Technology社(山梨県)に実績があります。なお、天然水素の埋蔵量は天然ガスの最大で約12分の1程度と推測されますが、相当な量になり期待が持てます。 

「注目のアンモニアを徹底解説」は今回で終了です。最後までお読みいただきありがとうございました。

注釈

*1:ヒドリド
⁠水素化物イオンで、H-を指します。

*2:エネルギーリターン
⁠製造したアンモニアの総エネルギーを、消費したエネルギーで割ったもの。

鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net

1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。