混焼火力に向け、利点も課題も進展も【注目の燃料アンモニアを徹底解説 第3回】
2025/04/24Chematelsの連載「注目のアンモニアを徹底解説」をお届けしています。第3回は、燃料としてのアンモニアの現状について解説します。アンモニアを燃料とした火力発電の利点と課題などを示した上で、国内で進んでいる実証試験の実例を示したいと思います。
目次
本連載で扱う項目
政府はアンモニア燃料の利用を推進
アンモニアは、化石燃料を代替するクリーンな燃料として期待を集めています。日本は2020年12月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、アンモニアを水素と並ぶ次世代燃料と位置づけました。「燃料アンモニア産業の成長」が脱炭素の重要な戦略の一つに数えられています。
すでに、政府の燃料アンモニア利用推進方針が以下のように、いくつか示されています。
まず、2021年6月、政府は上記の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を具体化しました。2030 年までに石炭火力へのアンモニア混焼を20%とすること、長期的に混焼率を向上させ専焼化技術の開発を目指すこと、また、東南アジアをはじめ世界的な脱炭素化に向けた燃料アンモニア利用の拡大とサプライチェーンを構築することなどを打ち出したものです。
その4カ月後の2021年10月には「第6次エネルギー基本計画」を閣議決定しました。この計画でも、2030 年までに石炭火力へのアンモニア混焼を20%とすることが盛り込まれています。ほかに、アンモニア・水素で 2030 年に電力構成の1%に、また参考値として2050年に10%とすること、アンモニア国内需要を2030年で300万トン、2050年で3000万トンにする計画を立てること、2050 年に国内を含む世界全体で約1億トンの日本企政府による調達サプライチェーンを構築することを含めました。さらに、アンモニアの製造時や発電時に排出される二酸化炭素(CO2)を回収・貯留・再利用することで脱炭素化を図ることも計画に入れています。
政府はまた2020 年12月、「2050年カーボンニュートラルを目指す」と宣言した際、2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)を通じて、10 年間にわたり研究開発・実証・社会実装を支援することにしました。このうち燃料アンモニアのサプライチェーン構築事業に最大 688 億円 を充て、約 598 億円の拠出が確定しています。さらに、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オーストラリア、北米などからの商用サプライチェーンを構築し、2030 年までに 300 万トンのアンモニア供給を見込んでおり、20年間のプロジェクトに対する総コストは2兆1400 億円とされています。
アンモニアの燃料利用方式、進んでいるのは火力発電用途
アンモニアが燃料として扱われる方法には、大きく分けて次の3種類があります。
- 火力発電用として、そのまま燃焼(専焼)もしくは石炭と混焼して電力化する
- 水素キャリアとして貯蔵・運搬し、その後分解して水素発電する
- 直接的に、固体酸化物形燃料電池用の燃料として使用し発電する
この中で、最も大規模でかつ実用化が進んでいる1の火力発電に絞って説明します。
アンモニア火力、利点はあるが実用化が進まない理由も
アンモニアの燃焼反応式は次の通りで、CO2を出しません。そのため、石炭の代替品もしくは、混焼用燃料として研究開発され、すでに実用化の実証試験が始まっています。
4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O 窒素酸化物(NOx)が出る場合
4NH3+ 3O2 → 2N2 + 6H2O
CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O メタンの燃焼式。CO2が生成する
こうした活用への期待は昔からあったのに、なぜ実用化が遅れていたのでしょうか。
理由の第一は、燃料としてのアンモニアは、燃焼速度が遅く発熱量も低級なものであることです。しかし、日本の企業は、欠点をカバーした独自の燃焼法を開発し、燃焼発電を実現しました。また、ガスバーナーの改善で効率を向上させています。なお、アンモニアの燃焼速度や低位発熱量は、図1に示すように微粉炭に近く、混焼であっても問題ありません。

図1:アンモニア・水素・メタン・プロパン・微粉炭の比較。メタンは液化天然ガス
(LNG:Liquefied Natural Gas)相当
理由の第二は、アンモニアは窒素を含むため、有害物質のNOxを発生させる点です。ただし、石炭が燃焼してもNOxを発生させるので、日本の石炭火力発電所では、二段燃焼法によるサーマルNOxの抑制や新型低NOxバーナーおよび脱硝装置により、フューエルNOxの発生を抑制しています。これらを適用すれば、同レベルの抑制が可能なことが実証されています。
図1の物性比較から分かるように、アンモニアは比較的低温で液化でき、輸送、貯蔵では液化ガスとして液体燃料に近い利便性をもっています。また、すでに大量に流通しており、インフラストラクチャーも整っていて、燃料として活用することには、まったく問題がありません。
理由の第三は、コストの問題です。2018年当時の経済産業省の試算では、石炭火力発電に20%のアンモニア混焼を行った場合の発電価格は、石炭火力の発電価格の1.2倍程度となっています。現状の液体アンモニアの市場価格は1ノルマル立方メートル当たり約150円です。一方、液化天然ガス(LNG)価格は変動的ですが、現状で同約60円です。発熱量換算すれば差はもっと拡大します。市場の拡大を図るためには、サプライチェーン全体のコストダウンが必須です。
そして第四の理由は、生産量の少なさです。世界全体でのアンモニア生産量は年間約2億トンに対して貿易量は約2000万トンとなっており、ほとんどが自国消費されています。日本のアンモニア消費量は、第1回「エネルギー『次』の担い手へ高まる期待」で述べたとおり、約108万トンであり、そのうち2割をインドネシアやマレーシアなどからの輸入に頼っています。
一方、20%の混焼発電だけでも出力100万kWの火力発電1基当たり、約50万トンのアンモニアが必要になり、150基の需要を賄おうとすれば消費量は約2000万トンに上り、世界の貿易量に匹敵します。100%アンモニア発電を実現しようとすると、約1億トンが必要で、世界生産量の半分を一国で消費してしまう計算になります。
アンモニア燃焼でCO2削減を目指す
「第6次エネルギー基本計画」では、約32%を占めている石炭火力の割合を2030年に19%ほどまで減少させることが明記されており、全発電量の1%相当を水素・アンモニアで賄う計画となっています。
燃焼のケース別のCO2排出削減量については、次の図2を参照してください。

図2:アンモニア燃焼方式とCO2排出削減量。国内大手電力事業所が保有する全石炭火力発電設備で試算*1。日本のCO2排出量は年間約12億トン。うち電力部門は年間約4億トン
(出所:資源エネルギー庁資料に基づき作成)
アンモニア火力の実証試験では一定の成果も
エネルギー事業を営むJERAが、碧南火力発電所4号機の出力100 万kWの大型事業用ボイラーにて、IHIおよびNEDOとともに、NEDO助成事業「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業」に取り組みました。この事業における実証試験のイメージを図3に示します。

図3:実証試験のイメージ
(出所:IHI技報Vol.63 No.1(2023)記事を参照に作成)
実証試験の結果、2024年4月10日、定格出力100万kW運転において燃料アンモニアの20%転換を達成するとともに、燃料アンモニア転換前(石炭専焼)と比較して、NOxは同等以下、硫黄酸化物(SOx)は約20%減少したことを確認しました。
同事業では2025年3月までに、社会実装に向けた火力発電における燃料としてのアンモニア転換技術の確立を目指しています。営業運転中の大型発電設備を用いた実証試験は世界初となるため,国内外から注目を集めています。
次回は第4回。世界および日本の市場動向と技術開発動向について解説します。
注釈
*1:試算
一例として図内「20%混焼」のCO2排出削減量の計算法を示します。
アンモニア需要量2000万トン × アンモニア発熱量22.4MJ/kg × 石炭火力発電効率40% ÷ 単位換算3.6(MJ/kwH) × CO2排出係数0.82 CO2/kwh ≒ CO2排出削減量4000万トン
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
