エネルギー利用への計画が続々…市場は拡大中【注目のアンモニアを徹底解説 第4回】
2025/05/22Chematelsの連載「注目のアンモニアを徹底解説」をお届けしています。第4回は、世界および日本の市場動向に目を向けてみます。アンモニアの主要な用途である農業肥料用からすると小規模ながら、エネルギー利用向けのアンモニア需要動向は注目に値するものといえます。日本企業からもビジネス化への戦略が次々と打ち立てられています。
目次
本連載で扱う項目
温暖化対策へ、火力の「混焼」めぐり世界と日本で考えに溝も
国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29:the 29th Conference Of the Parties)が、アゼルバイジャンのバクーで2024年11月に開催されました。合意文書では、途上国への温暖化対策資金について、2035年までに官民あわせた総額で年間1.3兆ドルの投資を呼びかけるとしました。また、先進国の政府が主導しつつ、年1000億円の資金を2035年までに年3000億ドルに増やすことも目標としています。この会議では、前回の大統領任期中、米国をパリ協定から離脱させたドナルド・トランプ氏の再選が金額決定に影を落としたといわれ、途上国の不満はあるものの、それなりの金額に落ち着きました。

図1:JERA碧南火力発電所。左から2棟目の4号機で燃料アンモニア20%転換の実証試験が終了している
会議の開催に際し、日本で進められているアンモニア混焼による火力発電も話題も上りました。化石燃料の発電施設などについて廃止の対象を「排出削減対策がないものに絞る」という条件がついている点について、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の議長が、記者のインタビューに次のような趣旨のコメントをしたのです。
「日本は石炭などとアンモニアを一緒に燃やす『アンモニア混焼』は『対策済み』と見なしているが、IPCCは『対策がある』の定義を『発電所から排出される温室効果ガスの90%以上を回収する』としている。温暖化の上限1.5℃目標の達成には、温室効果ガスを2019年比で2035年までに世界で60%削減する必要がある。日本にもそれを求める」
石炭にアンモニアを50%混焼させた場合でも、CO2排出量は日本の天然ガス火力発電を上回ると見られ、「90%以上を回収」とはなりません。日本とIPCC議長の考えにはギャップがあり、この点は日本の今後のアンモニア混焼の動向における不透明な要素といえます。
世界的な需要・生産・投資はいずれも拡大傾向
世界のアンモニア市場は、2028年までの予測期間に5.6%の年平均成長率として、2022年の682億5000万ドルから2028年には934億4000万ドルに成長すると予測されています。一方、第2回「ブルーも、グリーンも…環境配慮型の製造法」で紹介した、二酸化炭素(CO2)の貯留や有効利用でCO2排出量を削減できるブルーアンモニアの市場規模は、2023年は7500万ドルと推定されています。年成長率3.1%として、2030年には14億2000万ドルに達すると予測されます。
これらから計算すると、ブルーアンモニアは全体の約0.1%から1%以上に急成長する見込みですが、それでも1%程度という比率は微々たるものといえます。
世界のアンモニア生産量そのものに目を向けると、拡大傾向ながら近年かなり安定しています。2023年は約1億5000万トンでした。そのうち貿易量は約2000万トンにとどまり、ほとんどは自国で消費されています。
なお、世界の生産能力は2023年の約2億4000万トンから2030年には2億9000万トンに拡大する見込みですが、主に人口増加に対する農業の肥料用です。従って、第3回「混焼火力に向け、利点も課題も進展も」で説明したエネルギー用とは見られないことに留意が必要です。
投資額の動向は、前述の温暖化施策や、CO2低排出アンモニアの市場、また、技術開発などの動向に大きく依存します。従って、調査機関などのデータもまちまちです。
データの一例を挙げると、2050年にグリーンアンモニアとブルーアンモニアを50%ずつの比率で供給するには、生産向けの投資に加え、脱炭素化された電力とCO2インフラへの8500億ドル以上の投資が必要とされます。8500億ドルは、前述した2022年のアンモニア市場規模682億5000万ドルの約12倍に相当します。
日本政府は燃料利用拡大へ「壮大な目標」掲げるが…
2023年の国内のアンモニア年間生産量については、経済産業省の統計では、原料用アンモニアの消費量は約108万トンであり、国内生産は約8割、輸入は約2割となっています。世界の生産量の約1億5000万トンからみれば、微々たる量です。
しかし、資源エネルギー庁を含め官民からなる燃料アンモニア導入官民協議会は2021年2月の中間とりまとめで、「2030年に300万トン、2050年に3000万トンの燃料アンモニアの国内需要を想定するとともに、2050年に世界全体で1億トン規模の日本企業によるサプライチェーン構築を目指す」との目標を示しました。
この目標が実現すると、なんと計算上、世界の現在の生産量の約半分を日本が扱うことになります。2050年のカーボン・ニュートラル達成のため、2030年単年で約17兆円、10年間で約150兆円を投資する計画です。その中で水素・アンモニアへの投資は、2030年度の約300億円とされています。
あわせて第1回「エネルギー『次』の担い手へ高まる期待」で示したアンモニアのエネルギー利用促進に関わる法整備の状況や、第3回「混焼火力に向け、利点も課題も進展も」で示したアンモニア燃料の利用推進に向けた状況も参照ください。
国内生産は衰退も、供給拠点整備計画は商社を中心に続々
まず、国内のアンモニア製造の現状を、第1回で図示した「国内アンモニア体制の変化」を図2として再掲し、振り返ります。

図2:国内アンモニア生産体制の変化(再掲)
1970年代には11グループ(14工場)で、生産能力が376万トンあったものが、現状では4社(4工場)で生産能力は90万トンに減ってしまいました。しかも、そのうちのUBE(旧宇部興産)は2028年度をめどに撤退する予定です。
一方、経済産業省の計画では、前述の「中間とりまとめ」にあるように、燃料用として大きな需要を想定していますが、今後とも国内への工場の新設計画はなく、ほとんど全てを輸入に頼るほかなさそうです。
では、どうするか。このような状況でビジネスを組み立てられる「有力供給源」と見られているのが商社です。特に三菱商事と三井物産は、アンモニア原料である天然ガスの関連の経験が豊富である、大規模ビジネスの経験がある、二酸化炭素フリーのアンモニアを大量生産する技術検証をしている、という共通点があり優位です。
こうした総合商社のアンモニア・サプライチェーン構築の主な例を以下にいくつか示します。
三菱商事は、エクソンモービルと組み、米テキサス州で年間100万トンのブルーアンモニアを製造し、日本に輸出すると発表しました。実現すれば世界最大規模の製造拠点になります。2025年の最終投資決定、2029年の製造開始を目指し、検討を進めています。
三井物産は、アンモニア国内輸入の最大手です。同社はアラブ首長国連邦のアブダビ国営石油会社などと共同で2027年から、ブルーアンモニアの製造を同国内で始め、年間100万トン生産する予定です。総事業費は500億円以上と見られます。船舶燃料や発電用途向けに日本を中心にアジアで供給する計画です。
伊藤忠商事は2026年から、マレーシアの国営石油大手ペトロナスのカナダ子会社などとカナダで年産100万トンのブルーアンモニアの生産を開始する計画を立てました。投資額は約1400億円です。さらに同社は、ドイツ企業などとアンモニア燃料船を開発中で、船舶燃料の重要拠点のシンガポールでアンモニア供給施設を開発する予定です。
その他、丸紅や住友商事なども海外でのアンモニア事業を活発に展開中です。アンモニアの国内生産については衰退の一途といえますが、供給に向けた拠点づくりは商社を中心に進んでいます。主な拠点計画を図3に示します。

図3:大手商社の主なアンモニア拠点整備計画
海外サプライチェーン構築へ、日本のプラント各社も活発化
こうした大型の海外サプライチェーン構築をめぐり、プラント各社も活動を活発化させています。2021年以降の動向を紹介します。
三菱重工は、グリーンアンモニアの電解装置、CO2回収装置、圧縮機、アンモニア製造装置などの供給を中東、オーストラリア、カナダ、チリで目指しています。
東洋エンジニアリングは、アンモニア設備コントラクターとして世界有数の存在で、多くの実績があり、世界で100件超のプロジェクトの引き合いがあります。
日揮ホールディングスは、中東、オーストラリアにおいて豊富なプロジェクト実績に強みを持っています。燃料アンモニアの設計・調達・建設で、東洋エンジニアリングと提携しており、共同で事業を進めています。
IHIは、オーストラリアのタスマニア州で丸紅および現地企業との共同による水力発電を利用したアンモニア製造を検討しています。また、クイーンズランド州で太陽光発電により水素を製造する水素実証プロジェクトに参加し、アンモニアにしてアジアに輸出する計画です。
アンモニア燃料化は世界的に大きな商機
アンモニアの燃料化事業は、大きなビジネスチャンスといえます。例えば、石炭火力が多い東南アジアで、1割の石炭混焼技術が導入されれば、5000億円規模の投資が見込まれます。
三菱パワーは2021年にアンモニアをガスタービン発電の燃料として100%直接利用する4万kW級発電システムの開発に着手しました。2025年以降の実用化を目指しています。
また、JERAは、第3回「混焼火力に向け、利点も課題も進展も」で、アンモニア燃焼法の進展の例として示したように、石炭の20%をアンモニアに置き換え転換する世界初の実証試験を成功させました。2030年代に50%、さらに2040年代には100%へと段階的に高めていく予定です。
次回は第5回。「アンモニア政策のロードマップ、将来方向」を取り上げます。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
