エネルギー「次」の担い手へ高まる期待【注目のアンモニアを徹底解説 第1回】
2025/03/11Chematelsの新連載「注目のアンモニアを徹底分析」をお届けします。アンモニアは次世代エネルギーの有力候補の一つに位置づけられており、今後ますます利用に向けた動向が注目されます。そこで今回から6回にわたり、多面的かつ詳細に、アンモニアをめぐる現状を解説していきます。第1回は、アンモニアが注目されている背景を取り上げます。
目次
本連載で扱う項目
CO2排出、製造時に伴い、燃料としての使用時に伴わない
アンモニアは、肥料、冷媒、工業プロセスで一般的に使用されている重要な化学製品です。特に、生産量の約8割を肥料の用途に占めています。
しかしながら、アンモニアは近年、別の意味で大きな話題となっています。それは、アンモニアが温暖化防止のために対策の欠かせない物質であるというものです。現状のアンモニア生産プロセスでは、大量のエネルギーを消費し、温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)を発生させており、アンモニアを1トン生産すると1.6トンのCO2を排出するといわれます。2023年の世界のCO2排出量は約380億トンでしたが、アンモアニア産業全体で1.1%に当たる約4.2億トンを排出しました。このためCO2排出量削減のためのさまざまな技術開発や実証実験が行われています。
他方、アンモニアは、使用時にCO2を発生しない燃料として注目と期待を集めています。重要なのが水素との関係です。アンモニア(NH3)は、水素原子(H)と窒素原子(N)で構成される化合物です。水素(H2)も燃焼時にCO2を出さない点では地球に優しいエネルギーといえますが、運搬や貯蔵するとき液化などで大きなエネルギーを要し、結局CO2を発生させています。一方、アンモニアは比較的容易に液化するため、運搬・貯蔵しやすく、水素の効果的な運搬媒体「水素キャリア」としての開発も推進されています。
政府がアンモニアのエネルギー利用を後押し
日本でアンモニアが注目されている背景はどういったものでしょう。
一つは、前述の「アンモニア生産プロセスのCO2削減」という課題対応の面でも、「アンモニア燃焼」や「水素キャリア」という利用の面でも、日本は技術で優位に立っている現状があります。日本のメーカーにも商社にも、世界的に大きなビジネスチャンスがあるといえます。

図1:水素・アンモニア利用の概略
(出所:資源エネルギー庁 2024年9月3日記事「目前に迫る水素社会の実現に向けて~『水素社会推進法』が成立 (前編)」より)
さらには、政府の後押しもあります。図1にあるように政府は水素とアンモニアの利用の概略を描いています。
そして、次のように法整備も進めています。
「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(水素社会推進法)が2024年5月17日に成立し、同年10月23日から施行されました。製造時のCO2排出量が一定の値以下などの要件に当たる水素およびその化合物のアンモニアなどを「低炭素水素等」と定義し、その活用促進を掲げるものです。
関連して、先行して施行されている法律には、次のものがあります。
「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(エネルギー供給構造高度化法)が2009年に施行されました。この法律では、2030年度に販売する電力量の44%を「非化石電源」にすることが目標に定められています。つまり、火力発電所におけるアンモニアの混焼や専焼技術の開発・展開が期待されているわけです。
また、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)が 1979年に施行され、時代状況に応じて改正されてきました。2023年4月の法改正により、原油換算で年間1500kl以上のエネルギーを使用する事業者を対象に、アンモニアや水素を混焼させる石炭火力発電での発電効率算出時において、アンモニア混焼分が控除されることになりました。
一方で国内の生産体制は衰退
アンモニアの世界の生産量は2023年で約1億5000万トン、また生産能力は約2億4000万トンです。一方、日本の生産能力はピーク時には456万トンでしたが、1973年の石油危機を契機に競争力を失って減少を続け、2023年には約80万トン、生産能力は約90万トンとなっています。輸入量は約28万トンです。つまり、日本の年間消費量は約108万トンとなっています。
図2に、国内アンモニア生産体制の推移を示します。なお、UBEはアンモニアの国内生産を、2028年度をめどに停止することを検討しています。

図2:国内アンモニア生産体制の変化。2025年現在はUBE、三井化学、レゾナック、日産化学の4社体制
一方、経済産業省の計画では2030年に20%混焼で年間300万トンの需要、さらに2050年には専焼や高混焼の混合で年間3000万トンの需要を想定していますが、これらは現状からすれば桁違いの規模といえます。実現させるには、大部分を輸入に頼るしかなく、海外とのサプライチェーンと、国内での受け入れ体制の確立が大手商社を中心に計画されています。
次回は、アンモニアの基本的知識についてお伝えする予定です。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
