「石油化学の出発点」といわれるクラッカーとは? Q&A編 【石油化学コンサルタントがずばり解説】
2023/06/06
石油化学コンサルタントの柳本浩希さんが、「石油化学の出発点」ともいわれるクラッカーについて解説します。前半の概説編では、ナフサを分解して不飽和炭化水素にするといったクラッカーの用途や、留分ごとに軽質なものから重質なものまで分けていくといった仕組みを説明しました。今回はQ&A編として、皆さんが抱くであろうクラッカーをめぐる疑問に柳本さんが解説していきます。
Q. クラッカーは一つの装置なのですか?
A. 一つの工場をイメージするとよいでしょう。
クラッカーには分解する装置のイメージがつきものです。けれども、分解する分解炉だけでなく、その後のプロセスを扱う多くの反応塔がそびえ立っており、それら全体でクラッカーを形成しています。ですので、一つの大きな工場をイメージするとよいと思います。停止したり稼働させたりする際は、各プロセスを段階的に止めたり動かしたりしますので、少なくとも1日以上は時間を要します。

図1:京浜工業地帯のプラント群
Q. よく「定修」という言葉を聞くのですが、なんですか?
A. 定期修理や定期修繕のことです。
高圧ガスを取り扱う装置は、高圧ガス保安法により定期的な開放点検が求められています。どこか異常がないか確認する人間ドックみたいなものです。通常2年から4年おきに2カ月程度、装置を停止させて点検するのですが、このことを「定期修理」や「定期修繕」といい、略して「定修」と呼んでいます。この定修で事前に分からなかった大きな異常が発見されると、代替の機械の発注などが必要となるので、定修期間が延びることもあります。クラッカーを運営する企業にとって定修期間は、完了後の再稼働期間まで含めて気が抜けないものとなります。
Q. クラッカーで扱う原料はナフサだけなのですか?
A. いいえ。より軽質なガスや、より重質な灯油なども原料にすることができます。
クラッカーでは、プロパン・ブタンなどの総称である液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)、それにエタンといったナフサより軽質なガスや、より重質な灯油などを原料に扱うことができます。ナフサとLPGは比較的置換が可能で、同じ仕様の炉で分解することができます。しかし、ナフサよりもLPGのほうが軽質なので、生産できる品目はエチレンやプロピレンが主となり、アロマなど重質留分はほとんど得られません。
エタンや灯油については専用の炉を構える必要があるため、簡単に置き換えることはできません。いずれにしても、原料によって生産される品目のランナップや比率が変わりますので、下流の装置構成も当然変わってきます。
このように、原料構成がクラッカーの仕様を規定することから、「ナフサクラッカー」「ガスクラッカー」「エタンクラッカー」といったように、クラッカーを原料別に呼ぶことがあります。日本の多くのクラッカーでは、分解原料の最大25%程度までLPGを使用することが可能です。
Q. 日本のクラッカーはどこにあるのですか?
A. 太平洋ベルト地帯を中心に各地にあります。
地図をご覧ください。基本的には太平洋ベルト地帯を中心に瀬戸内海や伊勢湾、東京湾などの内海に所在しています。特に東京湾での集積が顕著で、日本の生産量の半数を担っています。

図2:日本におけるクラッカー所在地
(出所:石油化学工業協会「石油化学コンビナート所在地およびエチレンプラント生産能力」を参照に編集部作成)
Q. ナフサはどうやって調達されるのですか?
A. 国内ではパイプライン、海外からは船で調達されます。
日本のクラッカー向けナフサは、その半数が隣接する製油所からのパイプラインで供給されます。しかしそれだけでは足らないので、輸入船で中東から輸入されます。石油タンカーで中東から23日程度かけて運ばれてくることになります。国産パイプラインと輸入船の比率は約1:1となっています。
国産ナフサの処理数量は製油所の稼働状況によって大きく変化します。また、輸入ナフサは中東からの航路において悪天候やトラブルなどによって遅延することも少なからずあります。調達の担当者は在庫切れの不安を抱えながら仕事をすることになります。
Q. バイオナフサは普通にクラッカーで処理できるのですか?
A. 処理できます。
不純物が多かったり、パラフィンと呼ばれる飽和炭化水素の割合が低かったりしない限り、その原料が何であれ同じナフサです。よって生物由来のバイオナフサを処理することもできます。バイオナフサの分解に特別な設備などは不要です。ただし、タンクや受け入れ設備などは必要に応じて整備する必要があります。また、国際持続可能性カーボン認証(ISCC:International Sustainability and Carbon Certification)を取得しておくことも求められます。
日本では、三井化学や出光興産がすでにバイオナフサの輸入を開始しています。三井化学の取り組みを取材した記事がありますので参考にしてください。
Q. クラッカーが減産されるとどのような影響がありますか?
A. 需給がタイトになるおそれがあります。
ナフサクラッカーからは、目的生産物であるエチレンやプロピレンの他に、芳香族を指すアロマや石油樹脂原料となるC9留分なども生産されます。このような副産物は稼働率が低下すると生産量が減少しますので、需給がタイトとなることがあります。このような石油化学製品の供給に頼る企業は、クラッカーの稼働状況を注視しておきたいところです。
今回はクラッカーについての解説でした。今後も「ずばり解説」にご期待ください。
柳本 浩希(やなぎもとひろき)
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
