「三重苦」でクラッカー低稼働、副産品供給に影響懸念 【石油化学コンサルタントがずばり解説】

2023/09/28

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前回の「『石油化学の出発点』といわれるクラッカーとは? Q&A編」では石油化学の出発点ともいわれるナフサクラッカーについて、Q&A形式で解説しました。今回は、足元で続いているクラッカーの低稼働、つまり減産について、現状を分析したうえで、その影響について解説していきたいと思います。

ナフサクラッカー稼働率は右肩下がり

まず、図1のグラフをご覧いただくと、日本のナフサクラッカーの稼働率は2022年の初めから右肩下がりになっていることが分かります。

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図1:日本のナフサクラッカー稼働率
⁠(出所:石油化学工業協会発表データより作成)

稼働率の目安としては93%以上で「ほぼフル稼働」と見なせる水準です。この水準を割り込むと、経済的な要因などによるなにか別の事情が生じていると考えられます。

もちろんトラブルで停止してしまっているケースもありますが、2022年以降に80%台そして2023年に入って70%台まで稼働率が低下しているのは、トラブル要因ではなさそうです。これは、経済的な要因、つまり販売価格から原料費を差し引いたマージンの変化が関与する採算面の要因で減産しているということになります。

では、マージンとはどのように算出するのでしょうか。

輸出採算割れと国内消費悪化に燃料費高騰が追い打ち

前回の「『石油化学の出発点』といわれるクラッカーとは? 概説編」に載せた、クラッカーから生産される製品のフローを図2として掲げるので見てください。

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図2:クラッカーから生産される製品のフロー

クラッカーから生産される石油化学製品は、実に多岐にわたります。また、クラッカーによって保有している誘導品群も変化します。マージンということを考えるとき、どこまでの採算ということで考えればよいのでしょうか。単純にエチレンやプロピレン、アロマといった直接的に生産される石油化学原料の費用だけ算出すればいいのでしょうか。

結論から申し上げますと、これはクラッカーの誘導品装置のラインナップや各製品の需給状況によって変わります。例えば、オレフィンを誘導品で消化できないため輸出しているような地区における「輸出ポジションでのクラッカー」では、マージンは誘導品の需要というよりは、直接生産される石油化学原料のマーケット価格とナフサ価格との値差だけで判断されます。しかし、輸入ポジションが通常であったり、オレフィンの需給が釣り合ったりしているような地区では、マージンは誘導品の採算や需要状況によって決定されます。

このように、地区によってクラッカーの採算に対する考え方は違ってきます。ともあれ、石油化学原料のアジア相場とナフサ相場との値差から算出したクラッカーマージンが、アジアで参考指標として採用されているものになりますので、これを図3として示したいと思います。ご覧いただくと、右軸の「クラッカーマージン」は2022年から80ドルの損益分岐点をほとんど常に下回っていることがわかるかと思います。

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図3:エチレン・プロピレン価格とクラッカーマージン

さらに追い打ちをかけているのが、国内の石化誘導品需要の低迷です。ポリオレフィン、塩化ビニール樹脂、ポリスチレンなどの需要は、ほぼすべての合成樹脂の分野で縮小している状況です。こうなると、「輸出採算割れ」と「国内消費悪化」という二重苦の状況となり、稼働率を引き下げざるを得なくなるというわけです。これに加えて、燃料代や電気代の上昇などを考慮に入れれば、もはや「三重苦」といえるかもしれません。

副産品のアロマやC9の供給に懸念も

サプライヤーの減産は、需要の減少に見合って実施されていますが、それでも副産品の一部、特にアロマやC9とよばれる留分などの供給が減りますので、国内の流通量が限定的となるケースも見受けられます。

特にアロマはガソリンの原料にも用いられ、アジア相場も高値で取引されているので、ロットをまとめられる船での輸出に回されることもあるようです。しかし、足元では製油所が高マージンを背景に稼働率を高めていることから、枯渇しているような状況とまではいえません。

一方、C9などのようにクラッカーからの生産が大部分で、代替品がないような分野では国内減産のあおりを受け、需給がタイトになっているケースもあります。

このように、足元のクラッカーの継続的な減産は石油化学原料のマーケットが悪いことも一因ですが、それ以上に中国の景気低迷やナフサ価格の高止まりをベースに国内の合成樹脂需要が低迷していることが要因となっています。また、クラッカーが減産することで、副産物の需給に影響を与えている点も見過ごせません。

「再編」もにらみ、クラッカーの動静に要注意

今後、国内ではクラッカーをめぐる「再編」も視野に入るでしょう。

しかし、足元は前述の「三重苦」の要因がすべて重なっている稀有な状況ですので、いずれどれかの材料は好転していくことが見込まれます。また、日本の石化コンビナートの歴史はアジアで最も古く、多様な持ち味を生かした誘導品群を保有していることから、単純な統合は難しいといえます。さらに、製油所と一体運営されているクラッカーは単味でというより、製油所も含めた巨大な「一貫生産装置」の一部として扱われています。そのため、そのようなサプライヤーにとってはいくら赤字でも地区全体で黒字であればよいと考えられるのです。

このような複雑な環境のなかで、クラッカーに対して今後どのような決定が下されるのか。もしくは「様子見」が続くのか。引き続き、注視が必要です。

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。