製油所閉鎖でも石化製品への影響は小さいと予想【石油化学コンサルタントがずばり解説】

2024/01/10

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前回の記事「『三重苦』でクラッカー低稼働、副産品供給に影響懸念」では、日本のナフサクラッカーの稼働低迷について説明した上で、今後の注目ポイントについて解説しました。今回は、ナフサクラッカーと同様に石油化学産業にとって「重要な装置」といえる、製油所の動向について説明し、それがどのように石油化学のサプライチェーンに影響をあたえうるか見ていきます。

国内の原油処理能力は削減の一途

日本の人口減少、グリーンエネルギーへの移行、ハイブリッド自動車の普及などに伴い、ガソリンの需要が減少していることは聞き及んでいることかと思います。これらを背景に、ガソリンをはじめ軽油や重油などを含め、石油需要全体が中長期的に減少していくことが見込まれています。石油需要の減少に合わせるように製油所も閉鎖や能力削減が実行されていますが、これによるナフサへの影響については、Chematelsの姉妹サイトPlabaseへの寄稿「国内のナフサ需給、これからどうなる? :ガソリン車廃止により、石油や石油化学の世界はどう変わる?(3) 」をご覧ください。製油所の減少でナフサがなくなってしまうという心配は必要なく、輸入の増加で対応できると解説しました。

今回はナフサでなく製油所から生産される石油化学製品に注目したいと思います。製油所では原油からガソリン、ナフサ、ジェット燃料、灯油といったさまざまな石油製品を生産します。そのため、ナフサが石油化学業界にとって最大の懸念材料と思われがちですが、実はそれ以外にベンゼン、トルエン、キシレンなどを指すアロマも多く生産されています。ですから、製油所の動向は石油だけではなく石油化学業界にもダイレクトに影響するといって過言ではないのです。

図1に示したのは日本の製油所の能力一覧です。ご覧いただくと、2008年から比べると2024年3月には日量176万バレルもの原油処理能力が削減されることがわかります。直近の2020年以降もENEOSの和歌山製油所、出光興産の山口製油所が閉鎖されたほか、ENEOSの根岸製油所も処理能力を大幅に減らしました。これは日本の石油需要が想定通り減少しているのに合わせた動きで、今後も石油需要は減少することから、製油所の閉鎖は続くものと見込まれます。

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図1:日本の製油所の能力一覧。ENEOSグループのうち鹿島は鹿島石油が、また千葉と大阪は大阪国際石油精製が運用

製油所の地区を示した部分を色分けしていますが、緑色が当該地域に一つしかない製油所で存続が想定される地区、オレンジ色がナフサクラッカーとの密接な関係が認められる地区、赤色はナフサクラッカーとの関連性が一定程度認められる地区です。緑色>オレンジ色>赤色>黒色の順で、閉鎖が難しい、つまり存続の可能性が高いと想定されます。

2022年の石油需要は約1億5000万kℓです。これは日量260万バレルの需要に相当し、足元の製油所の原油処理量である日量約300万バレルにマッチします。製油所はメンテナンスなどで常に10〜15%は稼働が停止している状況にありますので、足元は適正な生産能力といえるでしょう。

石油全体で年率1~2%の需要減

しかし、図2にある見通しのとおり、今後、年率1~2%の水準で減少していきますので、さらに需要は減少していきます。2026年に燃料油計つまり石油の需要が約1億4180万kℓということは、さらに日量15万バレル相当の製油所の能力が削減されると想定されます。2030年まで引き伸ばせば、さらに日量20万バレル相当が減少せざるをえないのです。

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図2:石油化学製品の需要実績と見通し。2020年度は実績、2021年度は見込み、2022年度以降は見通し
⁠(出所:経済産業省石油製品需要想定検討会燃料油ワーキンググループ2022年3月30日公表「2022~2026年度石油製品需要見通し(案) 」を元に編集部作成)

ナフサ・アロマとも製油所閉鎖の影響はそれほど大きくない

このように製油所の能力が減少していく中、アロマ留分の生産も当然ながら減少していくことが想定されます。そのため、国内のアロマのバランスは引き続きタイトとなることが想定されます。

しかし、足元ではナフサクラッカーも減産している状況ですから、この想定はやや特殊といえるかと思います。製油所の能力削減は着実に行われるものの、ベンゼンのスチレンモノマー・ポリスチレン向け需要などのようなアロマ留分の需要そのものも減少していくと想定されます。そのため、国内需給が今後もずっとタイトで推移するとは想定しづらい状況です。

ナフサと同様に、アロマ留分についても製油所が閉鎖した場合の影響はそれほど大きくないというのが私の見立てです。製油所は年率2%程度の需要減少に歩調を合わせてじわじわと能力を削減していくに留まります。また、アロマの一つであるパラキシレンは戦略的な販売品目、つまり収益基盤となる品目の一つとして石油会社も考えていますので、大幅に減少することも現時点では想定しづらいといえます。あるとすれば、国内のみで石化誘導品向け需要も大きくないトルエンのような製品においては、生産が減少する分を輸入することによってバランスするようなことがあるかもしれません。

なお、2030年代後半になると今度は炭素税も絡んだ議論となりますので、精査するにはもう少し時間と追加情報が必要です。

以上、今回は日本のガソリン需要減少、ひいては製油所能力の削減によって石油化学産業にどのような影響を及ぼすのか考察しました。

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。