「石油化学の出発点」といわれるクラッカーとは? 概説編 【石油化学コンサルタントがずばり解説】
2023/05/30
化学関連のニュースなどで「クラッカー」あるいは「ナフサクラッカー」という言葉を聞くことはあるでしょうか。石油化学コンサルタントの柳本浩希さんは、「クラッカー」とはナフサを分解する装置であり、「石油化学の出発点」ともいわれると説明します。今回はこのクラッカーについて、前後編でわかりやすく解説します。前編の概説編では、クラッカーの用途や仕組みをお伝えします。後編のQ&A編では、よくあるクラッカーについての質問に解答していきます。
ナフサを分解し、不飽和炭化水素に
「クラッカー」とは、ナフサを分解する装置のことです。 ナフサに含まれる炭素数の多い飽和炭化水素を、高温高圧な環境に水蒸気と共に送り込むことで、炭素数が少なく二重結合を有する不飽和炭化水素へと分解します。「分解する」という意味の「クラック」(Crack)からこう呼ばれます。
飽和炭化水素は、ペンタン(C5H12)やオクタン(C8H18)などのように、炭素原子(C)の周りに水素原子(H)がびっしり結合している化合物のことを指します。物質それ自体で安定していて他とくっつくことが難しい状態、つまり飽和状態にあるので、飽和炭化水素と呼んでいるわけです。
クラッカーはこれを熱と水蒸気で分解し、炭素数を少なくするだけでなく、炭素同士の結合を一重結合から二重結合へと変化させます。これにより、飽和炭化水素よりも水素の結合が少ないエチレン(C2H4)やプロピレン(C3H6)が生まれます。同じ炭素数のエタン(C2H6)やプロパン(C3H8)よりも、それぞれ水素原子の数が少ないことに注意してください。エチレンやプロピレンなどクラッカーで生産される化学品は、炭素の周りに水素のつながっていない隙間が生まれます。これにより、物性は不安定となり不飽和となるわけです。
物性を不安定化させて、不飽和状態にすることで、いろいろな化合物と結合させ、また新たな物質へと変化させていくことができます。例えば、エチレンとエチレンをくっつけてポリエチレンにしたり、エチレンとベンゼンをくっつけてスチレンモノマーにするといった具合です。飽和と不飽和の違いは図1も参考にしてみてください。

図1:飽和炭化水素不飽和炭化水素
このように、そのままの状態では有効活用しづらかった物質が、クラッカーを経ることにより、いろいろな物質に合成したり変化させたりすることができるようになるのです。だから、クラッカーは「石油化学の出発点」といわれるのです。
軽質から重質まで成分を高圧・高温の環境で分けていく
ここからはクラッカーの仕組みについて見ていきます。
クラッカーは高温高圧な環境を人工的につくり、そこにナフサなどの原料を入れ、分解を促進させます。大きな箱の中に、細いチューブがぐねぐね曲がりながら通っているのを想像してください。細いチューブにはナフサと水蒸気が通っていきます。チューブの直径は数センチメートルととても細いので、高速で流すと圧力が高くなります。水やりのときゴムチューブを指で押すと水の勢いが増すのと同じように、チューブの径が細ければ細いほど、また、流速が高ければ高いほど、圧は増します。
加えて、このチューブの中を高速で通過するナフサを熱するため、周りを囲む大きな箱の壁面からバーナーで炎が勢いよく出ています。ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」シリーズのクッパ城にある火炎放射器を想像してください。これによって800〜900℃もの高温環境が実現され、ナフサの分解を促進します。

図2:クラッカーにより分けられる留分
分解した後はそれぞれの留分、つまり、分別蒸留したとき得られる各成分に分けていきます。まず、分解されたガスは冷却されます。次に、一番重質なものを、ボトムから比重の差を利用して下から引き抜きます。そのあとは軽質なものから順番に取り出していくのですが、ここがなかなか難しく、水素を添加したり、温度や圧力を変えたりしながら、軽質なC1留分から重質なC5留分まで分けていきます。なお、C1留分とは炭素原子が1個の留分のことでメタン(CH4)を指します。同様にC2留分では炭素原子が2個、C3留分では炭素原子が3個、と続きます。C6以降の留分はアロマに改質して活用されます。図2のとおり、炭素数の違いできちんと分けることで、それぞれの誘導品へとバリューチェーンがつながっていくわけです。
次回では、後編として、よくあるクラッカーについての疑問・質問に解答していきます。
柳本 浩希(やなぎもとひろき)
1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。
