石油化学品の値上げで話題のベースアップとは?【石油化学コンサルタントがずばり解説】

2023/03/14

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あらゆる石油化学品において「ベースアップ」なる値上げが叫ばれています。そもそも、「ベースアップ」とは何を指しているのでしょうか。石油化学コンサルタントの柳本浩希さんは、製造コストや付加価値の部分の値上げがベースアップと説明します。Chematels初登場の柳本さんに、詳しく解説してもらいます。

ナフサ価格関連以外の部分の値上げに着目

2022年に勃発したウクライナ戦争以降、原油やナフサ価格が高騰し、それに連動してあらゆる化学品が値上がりしています。そのなかで、ナフサ価格の値上がりだけではない、「ベースアップ」という値上げを耳にされたことがあるかもしれません。今回はこのベースアップという値上げについて解説したいと思います。

国内で取引される化学品の多くの売買価格は、ナフサの価格に連動したものとなっています。その売買価格は、次の式で決定されます。

(国産ナフサ価格(円/KL)×α)÷1000+β=γ円/kg

化学品の中で、オレフィン系誘導品は国産ナフサ価格を2倍して1000で割った価格に、製造コストや付加価値のβを足し合わせた価格で決定されます。例えば、2022年の第4四半期である10~12月の国産ナフサ価格である7万2500円/KLを式のナフサ連動の部分のみ表してみましょう。

7万2500円×2(α)÷1000=155円/kg

この155円が、ナフサ連動の部分です。ここに製造コストや付加価値をβとして足し合わせます。例えば、βの部分が40円/kgとすれば、155+40=195円/kg(γ)となるわけです。

いま、国産ナフサ価格を2倍しましたが、これはオレフィン系の場合です。アロマ系になると、国産ナフサ価格の1トンあたりの価格(円/MT)をベースにして、一定の係数1.0~1.4を掛け合わせた上で、βを足すという式で算出されます。いずれにせよ、βはナフサがいくらであっても変動しない、サプライヤーの製造コストやマージンの源泉となっています。

では、昨今、話題になっている「ベースアップ」の「ベース」とは、どこを指すのでしょうか。

それは、上記のβの部分となります。ナフサの市況によって変動する国産ナフサ価格×αの部分ではなく、製造コストや付加価値が上乗せされているβの部分を値上げするのがベースアップです。

なぜ、この部分が「ベース」なのでしょうか。それは、このβをいったん値上げすれば、国産ナフサがたとえいくらになってもサプライヤー、つまり売り手としてはその分の利益を確保できるからです。売り手としては、売値における変動部分ではない固定部分の「ベース」を引き上げられるから、「ベースアップ」と呼んでいるわけです。

それでは、なぜこのような「ベースアップ」が、いまサプライヤーによって行われているのでしょうか。

燃料代・電気代高騰の反映は妥当か、過去との比較で確かめる

第一に、多くの読者が想像されている通り、サプライヤー側が装置を動かすための燃料代や電気代が高騰していることが挙げられます。これらは目に見えるコストとしてサプライヤー側にのしかかります。

しかし、一方で買い手には、実際、燃料代や電気代の高騰がどの程度、値上げに反映されているのか判断することは、直近の状況だけ見ても不可能です。そこで、過去の相場と比較してみます。これにより、直近の値上げに電気代や燃料代の高騰が本当に反映されているのか、されているとすれば妥当な反映のされ方なのか、確かめることができます。少しデータを見ていきたいと思います。

まず、燃料代からです。基本的に重油の価格は原油にリンクしますので、原油価格を見ていきたいと思います。日本は資源を輸入に頼っていますから、ドルベースの原油相場に円ドルの為替をかけた数値をグラフにしました。ご覧いただくと、高値の原油相場と円安の影響で2022年4月、紫円内の時点で過去最高値を更新していることがわかります。ここから足元では下落していますが、依然として高値圏にある状況ですから、サプライヤーにとってのコスト増加は明らかだと理解できます。

図1:ブレンド原油の価格推移

図1:ブレンド原油の価格推移

一方、もう少し視野を広げて過去20年で見てみると、同様に高値で推移していた時期が見えてきます。それはリーマンショック前の2008年、そして「アラブの春」で中東の地政学が意識された2013-14年頃。オレンジ円の期間です。実はこの期間も、ベースアップや燃料調整費の値上げがなされていました。当時の資料をまだお持ちでしたら、一度確認されてみてはいかがでしょうか。

電気代も、この原油に石炭や天然ガスの相場を加味して決定されますが、同様に2013-14年ごろに高値を付けています。東京電力の家庭向け電力料金で見てみると下図の通りです。

平均モデルの電気料金

図2:平均モデルの電気料金
⁠(出所:東京電力ホールディングス「数表でみる東京電力」)

つまり、買い手にとっては、昔の、特に2013-14年頃の値上げ事例が、今回の値上げ幅の妥当性を検証できる一つの方法といえるでしょう。

変動費悪化の影響も過去の事例を参照に

一方、目に見えないコストも当然ながら存在します。それはサプライヤー側の装置に関わる変動費の悪化によるものです。当該装置の稼働率が低いと変動費は悪化することになります。この変動費の悪化分も、ベースアップとしての値上げに反映されるわけです。日本では多くの石油化学品がナフサクラッカーという装置から生産されます。このナフサクラッカーの稼働率を見ていくことで、どのくらい変動費が悪化しているのか検証することができます。下図に示したのは、石油化学工業協会が発表している稼働率のデータをグラフ化したものです。

日本のナフサクラッカー稼働率

図3:日本のナフサクラッカー稼働率
⁠(出所:石油化学工業協会の資料をもとに作成)

直近での稼働率は80パーセント台前半を推移していることがわかります。基本的に90パーセント以上で稼働してきていた近年では、最低の水準です。低水準の背景にはマージンの悪化や石油化学製品の需要減少がありますが、この点はまた別の機会に解説するとして、ここでは客観的に日本の装置稼働率が低下している点を押さえておきます。

では、稼働率の悪化が、どの程度ベースアップに反映されているのでしょうか。買い手が探るのは難しいですが、これも過去の事例を見ることが重要です。実は、燃料代や電気代が高騰していた2013年、同時にナフサクラッカーの稼働率が80パーセント台へ引き下げられていました。ですから、ここでも過去の値上げ事例を参考に、買い手は今回の値上げの理屈の妥当性を検証することが可能なのです。例えば、2013年に大幅な値上げを実施していたにもかかわらず、その後、値下げがなされず、再び今回、値上がりしているようなケースでは、売り手にしっかりとした論拠の提示を求めることが有効です。

買い手と売り手の意思疎通が大切

このように、過去の事例を見ながら当時の状況やその理由を把握しておくことは極めて重要です。それでも、結局どの程度のベースアップが妥当なのか、買い手にとってわからないことが多いと思います。そのため、買い手はサプライヤーに数値化できる一定の基準を要求し、市況と値上げ幅との関係を明示してもらうことが有効でしょう。

サプライヤー側も基準を提示しないかぎり、買い手に納得してもらいにくいわけですし、競合をぶつけてこられるなど、バーゲニングパワーを示されてしまうリスクもつきまといます。そうなれば需要が減少して、さらに低稼働率に陥り、一段と製造費を引き上げざるを得なくなり、さらなる値上げ、ひいては客離れを引き起こすという悪循環に陥ってしまいます。そのため、サプライヤーも一定の情報開示をしながら買い手に納得してもらった上で、どこまで許容されるか、つまりアフォーダビリティを見ながら、慎重にベースアップをする必要があります。

昨今の「ベースアップ」を手掛かりに、その意味や構造、対応方法について解説しました。商売はお互いいなくなっては困るものがほとんどです。相互の存在を尊重した、建設的な話し合いが求められます。

柳本 浩希(やなぎもとひろき)

1985年生まれ。大学卒業後、総合化学メーカーに就職し、石化コンビナートの現場、ナフサの調達、合成樹脂の営業を経験。その後、ナフサ取引の仲介や情報誌の編集責任を務め、2026年5月に炭化水素リサーチ株式会社を創業(https://hc-r.co.jp/)。ナフサと石油化学業界必携のNaphtha Portalを立ち上げる。