鉱山採掘から発電、都市建設まで! 海のビジネスは技術力次第【知られざる海底資源を掘り起こす 第7回】
2023/02/09連載の目次
Chematelsの連載「知られざる海底資源を掘り起こす」はついに最終回となります。今回は番外編として、海底だけでなく海洋全体から得られる価値について考えてみます。広い領海や排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)をもつ日本だからこそ、「海という資源」の可能性をもっと追求していくべきなのです。
海水には塩だけでなく金も溶けている
第3回「深海に転がる謎の球群『マンガン団塊』は宝の塊」でマンガン団塊の成因について説明したとき、海水には多くの金属成分が含まれるからだと書きました。金ですら1トンあたり0.00002mgほど溶け込んでいるのですから、手間やコストをかけずに抽出できれば、新しいビジネスにつながるかもしれません。
もちろん、道はかなり険しそうです。計算してみれば分かるように、1gの金を得るのに必要な海水の量は数千万トンになります。これでは、膨大な処理の手間を考えれば、まったくコストに合いません*1。そこで、次のような作戦を考えます。
- 砂金が流れ込むなどして金の濃度が高くなる海域を探す
- 海水が流れ込む低地に貯水池を造り、太陽光で蒸発・濃縮 → 低エネルギー化
- 濃縮された海水から塩化ナトリウム(食塩)を生産して販売 → 安定収益の確保
- 副産物である塩化マグネシウム(にがり)も販売 → 安定収益の確保
- 残った濃縮海水から、金などの資源を回収し、商品化 → さらなる収益の確保
つまり、できるだけエネルギーを使わすに濃縮工程を進め、実績のある製塩業で売り上げを確保しながら、海水中のさまざまな有価資源を抽出して多角的なビジネスに育てていこうというアイデアです。
海水からの金の生産については、これまで何度か挑戦した例があるものの、やはり、コスト的に厳しいという結論に至っています。しかし、希少資源であるウランやリチウムの回収を目指した研究は続けられており、生産・販売できる商品の種類を増やしていけば、「海洋鉱山ビジネス」も成り立つのかもしれません。
海水からの資源の生産は海に面した国ならどこでも可能です。とはいえ実際には海洋開発の実績があり、なおかつ国内にそれなりの規模の化学産業が育っていなければ参入は難しいでしょう。現状では、日本、米国、フランス、英国、北欧あたりが有利です。中でも触媒や浸透膜などの技術に優れている日本は、間違いなくこの分野のトップランナーなのです。
海は「エネルギー」に満ちている
海洋から得られるエネルギーは海底資源である石油や天然ガスだけに留まりません。その一つが海流です。黒潮とも呼ばれ、日本列島の南方を流れる黒潮日本海流は南極環流やメキシコ湾流と並ぶ世界最大規模の海流であり、このエネルギーを発電に利用できれば、国内の電力をすべて賄えるといわれているほどです。
海流を利用した発電は小さいものであればいくつか実用例があるものの、規模を拡大していくには、まだ解決できない課題がいくつかあります。
一つは、塩分などによる腐食をどう防ぐかです。空気の1000倍近い密度を持つ海水の流れに耐えるには、タービンなど発電装置の多くを金属製にするしかないのですが、すぐに錆びてしまうため、厳重に塗装する必要があります。そしてもう一つ、フジツボや藻類など海洋生物の付着*2も激しく、場所によっては数カ月で性能が落ちてしまうでしょう。
これらの対策としては、船舶をドック入りさせるのと同様に海流発電装置も定期的に陸揚げし、再塗装や清掃などのメンテナンスを続けるしかありません。しかし、そうなると設置できる場所は「クレーンが届く範囲」などに限られ、海流のパワーを十分に活用することはできなってしまうのです。
それでも、莫大な潜在エネルギーを持つ海洋は魅力的であり、さまざまな方式の発電方法が考えられています。いくつか紹介しましょう。
潮力、波力、塩分差も温度差も、あの手この手で発電
図1:潮力発電
(筆者作成)
潮力発電は、海の干満の差で得られる海水の位置エネルギーを利用した発電方式です。図のように外海と内海を堰で分け、水流の通路にタービン発電機を設置します。
内海にできるだけ多くの海水を貯め込める構造にすれば長時間にわたり安定した発電が可能で、川の河口を700mも堰き止めて造られたフランスのランス潮力発電所は世界最大です。しかも、建設されたのは1966年と半世紀以上前。最大定格出力24万kWは黒部川第四発電所(黒四ダム)の3分の2くらいの規模になるのですから、すごいですね。
残念ながら、日本国内では、環境破壊なしに大規模な潮流発電所を造るのは難しいのですが、港湾施設などをうまく利用すれば、数百世帯分の電力は生み出せると思います。
図2:波力発電
(筆者作成)
波力発電は、波の力を利用した発電方式で、小規模のものであれば港湾内で航路を示すブイの照明用に広く使われています。仕組みは図のようになっており、波による水面の上下運動を空気圧に替え、発電機を回すのです。空気タービンなので強化樹脂製で済み、海洋生物が着きにくい利点もあります。
他にも、水面上の浮きを海底とケーブルでつなぎ、上下運動で発電するものなど、さまざまな方式*3が考えられています。現状では波のエネルギーは「堤防などの港湾施設を少しずつ壊す」のに使われているだけで、もったいないどころか、マイナスの価値しかもたないのです。それだけに、海沿いの施設の電源など利用しやすいところから積極的に導入していくべきではないでしょうか。
図3:塩分濃度差発電
(筆者作成)
塩分濃度差発電もおもしろい発想によるものです。約3.5%の塩分を含む海水と淡水の間の浸透圧は25気圧ほどあり、浸透膜で分けると理論上は海水の水面を250m上昇させることができます。つまり、これだけの高さのダムがあるのと同じわけで、ということは、川の水が海に流れ込むたびに私たちは大きな価値を失っているのですから、実にもったいない話です。
そうした理由から、効率的な浸透圧ユニットをつくり、水車を回して発電をしようというのが塩分濃度差発電になります。他にも、塩分濃度の差を利用して電池の方式で電力を取り出す方法も研究されており、将来は多くの川の河口で発電が行われるようになるかもしれません。
これら他に海洋温度差発電もあります。海水の温度は深さによって大きく変わり、海水面と水深1000mの深海とでは20℃以上の差があります。そこで、沸点の低い媒体であるアンモニアなどを「表層の暖かい海水で気化」「深層の冷たい海水で液化」させることにより発電用のタービンを回すのです。効率が悪そうに思えますが、研究機関の試算では発電コストは既存の火力発電や原子力発電に匹敵するとされており、今後の成果に期待したいですね。
海中に都市を造るという夢を描く
図4:清水建設の「深海未来都市構想 OCEAN SPIRAL」
(図版提供:清水建設)
海洋利用の最後に、清水建設の掲げる「深海未来都市構想 OCEAN SPIRAL」を紹介しましょう。これは、海上から深海まで垂直につなぐ巨大な海中施設を建設することで、食糧・エネルギー・淡水・資源の開発を進めながら、地球温暖化ガスである二酸化炭素の処理も行おうという壮大な計画です。関心のある人は公式サイトでご確認ください。
人類は地球上のあらゆるところに居住地を広げてきましたが、海中への侵出はあまり進んでいません。しかし、高い水圧に耐えられる構造物を造る技術はすでに確立されているのですから、これからは「もっと深い海」を目指していってほしいものです。
連載「知られざる海底資源を掘り起こす」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。
【注釈】
*1:コストに合いません
金の価格は、現在、グラムあたり8000円を超えていますが、これはかなり異常で、数年前までは1000~5000円で推移していました。意外と安く、何千万トンといった膨大な海水を工業的に処理する方法では絶対に赤字です。
*2:海洋生物の付着
ノリの養殖期間が約半年、カキが1~3年であることを考えると、海洋生物の繁殖の速さが分かります。
*3:さまざまな方式
ユニークなのは英国のボンボラ・ウェイブ・パワーが開発している「膜型波力エネルギー変換方式」で、巨大なゴムの風船を海上や海中に設置し、波でたわむことにより生じる空気圧でタービンを回します。最近、日本の商船三井が出資して事業化を進めると発表し、話題になりました。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
