国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート【知られざる海底資源を掘り起こす 第5回】
2023/01/26連載の目次
- 第1回 金属、石油、メタン…日本のEEZは宝の海
- 第2回 深くて遠い?「海底熱水鉱床」資源化への道
- 第3回 深海に転がる謎の球群「マンガン団塊」は宝の塊
- 第4回 「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地
- 第5回 国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート
- 第6回 日本が産油国に? 変わりつつある石油と天然ガスの世界図
- 第7回 鉱山採掘から発電、都市建設まで! 海のビジネスは技術力次第
Chematelsの連載「知られざる海底資源を掘り起こす」をお届けしています。今回のテーマはメタンハイドレート。分類からいえば天然ガスの一種に当たります。海底や永久凍土の下などの低温・高圧環境においてはメタンの分子が氷状の水分子に囲まれた状態で蓄積されたものです。日本周辺の海域に大量に存在することが確実視されており、今後の動向に注目が集まっています。
天然ガスが保存されるには訳がある
10年ほど前までは「知る人ぞ知る」エネルギー資源だったメタンハイドレートですが、最近では注釈なしにニュースに登場するほど、一般的な存在になりました。しかし、その実態については、まだまだご存じない人が多いのではないでしょうか。
石油や天然ガスは、比較的、浅い海で大量に発生した藻類やプランクトンなどの遺骸が海底の泥と混じり、微生物による分解や地熱・地圧の影響を受けて燃料になったものです。生物由来でないものも含まれると主張する学者は少なくないのですが、ここでは起源について細かく詮索せず、話を先に進めましょう。
地中で生成された油やガスは周囲の岩石や地下水に比べると軽いので、何もなければそのまま上昇し、地上や大気中へと逃げていってしまいます。しかし、たまたま上に「ボウルを伏せたような」形の硬い岩盤層があると、そこで堰き止められて溜まります。これが在来型*1の油・ガス田です。
その後、このような条件を満たさない状況であっても石油や天然ガスが存在できると分かってきました。頁岩層に閉じ込められているシェールガス・オイル、重質油が砂岩に染み込んだオイルサンドなどがそれにあたり、これらは非在来型化石燃料と呼ばれます。そして、メタンハイドレートもそんなニュータイプの一つなのです。
図1:メタンハイドレートの構造と生成過程 ©産総研
(出所:産業技術総合研究所「産総研マガジン “メタンハイドレート”とは?」)
メタンハイドレートは海底や永久凍土の下といった低温・高圧の環境で生成されます。そういった場所に地下水と天然ガスがあると、格子状に凍った水分の中心にメタン分子が閉じ込められ、固定されるのです。このため、成分比は決まっていて、「水85%、メタン15%」となります。「ずいぶん水増しされた燃料だなあ」と感じるかもしれませんが、採掘して地上にもってくれば氷は自然に溶けるので、労せずにメタンガスが取り出せるのです。
図2:メタンハイドレートがある海底の状態。存在する場所は表層と砂層に分かれる ©産総研
(出所:産業技術総合研究所「産総研マガジン “メタンハイドレート”とは?」)
事業化は簡単ではないものの……
そんな貴重なエネルギー資源が日本近海に膨大に眠っていると分かったのは1990年代のことでした。しかも、よくいわれる高知県沖だけでなく、静岡県から鹿児島県まで連なる南海トラフ周辺や常磐沖、富山・新潟県沖、北海道南部沖など列島周囲の多くのエリアに存在の可能性が指摘されており(BSR分布図参照)、「日本にはエネルギー資源がないから」といわれ続けてきた世代としては、もう、びっくりです。
図3:メタンハイドレート埋蔵の可能性を示す海底疑似反射面(BSR)の分布。BSRは、Bottom Simulating Reflectorの頭文字をとったもので、音波を使った探査により地層中のメタンハイドレートの存在を推定できる。赤・青のエリアには埋蔵の可能性があり、緑と水色では調査の続行が期待されている
(出所:MH21-S研究開発コンソーシアム「メタンハイドレート探査と資源量評価」)
ただし、採掘して事業化するとなると、残念ながらまだ目処は立っていません。なにしろ、海底面下500〜1000mのところに氷状のまま埋まっているのです。そこまでボーリングするだけでも大変ですし、到達したからといって、手に入れられるのはわずかな量でしょう。例えるならカップアイスの蓋に小さな針穴を空けて食べようとしているのと同じで、全部取り出すのは至難の業です。「加熱して溶かしながら回収」という方法も検討されましたが、効率が悪いと得られる燃料以上にエネルギーを使ってしまうかもしれません。また、メタンは二酸化炭素よりも強力な温室効果ガス*2ですから、採掘中の漏出事故は絶対に防がなければなりません。
ただし、石油メジャーなどの巨大なエネルギー企業は「ビジネスになる!」と信じるととんでもない金額の投資をし、採掘や流通のための技術を開発してきました。その結果、深海の油田やシェールガスの事業化に成功したのですから、今後の展開はなかなか読めません。化石燃料への依存が続き、なおかつ石油価格が1バレル100ドル以上で推移するならメタンハイドレートの開発も進むでしょう。
そしてもう一つ、メタンハイドレートが「従来、大規模な油田やガス田がない場所」で次々と見つかってきたことから、エネルギー資源の世界地図が大きく塗り替えられてきたのです。その話は、次回、詳しくしたいと思います。
次回は第6回「日本が産油国に? 変わりつつある石油と天然ガスの世界図」の予定です。
【注釈】
*1:在来型
在来型と非在来型の区別は必ずしも明確ではなく、「地上にあって既存の技術により採掘できる油・ガス田を在来型」というなら、海底から産出した石油や天然ガスも非在来型になってしまいます。枯れかけた油田に水を注入して石油を浮き上がらせる二次採取や、化学薬剤で石油の粘度を下げて根こそぎ吸い取る三次採取などがどちらに入るのかは、人によって異なるようですが、筆者は非在来型に入ると思っています。
*2:強力な温室効果ガス
メタンは二酸化炭素に比べて25倍もの温室効果を発揮します。何千倍クラスのフロンよりは少ないとはいえ、「家畜である牛や羊のげっぷに含まれるメタンですら温暖化を早める」と指摘する研究者もいて、侮れません。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
