深くて遠い?「海底熱水鉱床」資源化への道【知られざる海底資源を掘り起こす 第2回】
2022/12/15連載の目次
- 第1回 金属、石油、メタン…日本のEEZは宝の海
- 第2回 深くて遠い?「海底熱水鉱床」資源化への道
- 第3回 深海に転がる謎の球群「マンガン団塊」は宝の塊
- 第4回 「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地
- 第5回 国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート
- 第6回 日本が産油国に? 変わりつつある石油と天然ガスの世界図
- 第7回 鉱山採掘から発電、都市建設まで! 海のビジネスは技術力次第
Chematelsの連載「知られざる海底資源を掘り起こす」をお届けしています。今回から、海底資源の種別ごとに、「どんなものか」「どうやって採掘するのか」といった具体的な解説をしていきます。最初は、海底ににょきにょきと生える不思議な「金属タワー」の話です。
金属鉱床をつくるのは地中の超熱水
新潟・佐渡島の金山跡に行ったことがありますか。訪れた多くの人が驚くのは、山の中央部が、まるで鉈で割ったかのように鋭くえぐれていることです。つまり、金や銀を多く含んだ石があったのはその薄い層だけであり、掘り尽くした結果、鋭くえぐれた姿になりました。
図1:佐渡島の金山跡
資源として利用できる鉱物などの物質が濃縮されている場所を「鉱床」と呼びます。金鉱石や銀鉱石などが集まっているところですね。金属の場合、もともとは地中に広く存在しているケースが多くあります。その辺で拾ってきた石にも微量ながらさまざまな金属成分が含まれています。
ところが、そこに、ある条件を備えた地下水が流れ込んでくると、おもしろい現象が起きるのです。
火山の源になるマグマは、噴火などがなければ地下5〜10kmに留まり、「マグマ溜まり」をつくります。すると、その周囲の地下水や、マグマから放出された水分が高温・高圧の状態になり、岩の割れ目などに侵入していくのです。圧力がかかり沸騰できない水は、400℃くらいになると超臨界流体というスーパーエキセントリックな物質になってしまいます。説明するのが難しいのですが「気体と液体の区別がつかない状態」だそうで、うーん、まったく想像できません。とにかく、この状態になると、ふだん穏やかな水も凶暴になり、あらゆる金属を溶かしてしまうのです。
そのとき、金を割と多く含む場所を通り、マグマ溜まりから離れた岩の隙間に入り込むと、そこで冷やされて金鉱床のできあがりとなります。つまり、佐渡金山の掘り跡は、超臨界流体が行き着いた先だったのです。このようにして、さまざまな金属の鉱床*1がつくられるため、掘り出すときは「元の隙間」の薄い層に沿って掘削していきます。
貴重な金属資源がにょきにょきと
佐渡島の場合は金の鉱床が形成されたあとに土地が隆起して地上に現れたため、発見・採掘につながったのですが、これはかなりのレアケースです。ほとんどの鉱床は地下深く沈んだままで、見つけるのは容易ではありません。このため、「日本列島には、まだまだ多くの金鉱が眠っている」と断言する専門家もいるくらいです。
ところが、そんな難しい金属鉱床の探査を勝手にやってくれる頼もしいやつがいます。それが海底から噴き出してくる熱水で、火山帯の上にある日本列島の周囲ではめずらしくありません。しかも、金属成分が多く含まれる場合には海水と反応して黒い煙のようになるため「ブラックスモーカー」と呼ばれ、ひと目で有望だとわかるのです。
図2:海底熱水鉱床
(写真提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)
ブラックスモーカーとなって海中に噴出した熱水は、冷やされた瞬間に固形物となり、にょきにょきと生えるように「チムニー」と呼ばれる数十cmから数mもの煙突状の構造物をつくります。しかも、含まれる金属成分はかなり濃い、高品位な鉱床です。従って、それらをポキリと折って持ち帰れば、地下深く掘らなければならない地上の鉱山より、かなり楽に資源が手に入るのです。めでたしめでたし。
……とは、いきません。海の中では水深70mを超えると届く光は地上の約0.1%以下になり、何も見えないからです。探査艇を潜らせても照明が届く範囲しか調べられません。もちろん、水圧が高くなれば移動にも制限が加わりますし、海の底はさまざまな沈殿物で覆われた「色もコントラストもない世界」なので、よほど近くにチムニーが出現しない限り、発見は難しいでしょう。また、現状では、海底熱水鉱床が多くあるとされる水深500〜3000mの海底から大量の物質を安全かつ安価に採取してくる技術は確立されていません。
図3:海底熱水鉱床と陸上鉱床の品位例比較
(出所:資源エネルギー庁2008年10月公表「『海洋エネルギー・鉱物資源開発計画』のうち海底熱水鉱床等海底鉱物資源に係る開発計画」を参考に編集部作成/写真提供:Se James St. John、Te W. Oelen、As Tomihahndorf)
図4:日本周辺の主な海底熱水鉱床分布領域
(出所:資源エネルギー庁/石油天然ガス・金属鉱物資源機構 2021年3月公表「海底熱水鉱床開発計画にかかる第1期中間評価報告書」)
そういうわけで、いますぐとはいかないものの、日本の周囲の海底下にはマグマ溜まりが多くあり、金・銀・銅・亜鉛・レアメタルなどを豊富に含んだ海底熱水鉱床が大量にあることは確実です。今後、探査・採掘の技術が進歩すれば、海底火山の多い伊豆諸島や小笠原諸島、南西諸島などの周囲は「宝の海」になるかもしれません。
次回は第3回「深海に転がる謎の球群『マンガン団塊』は宝の塊」の予定です。
【注釈】
*1:さまざまな金属の鉱床
超臨界流体に寄らない金属鉱床もあります。例えば、鉄鉱床の場合は、20億年以上前の海に多くいたシアノバクテリアが光合成により酸素を吐き出し、海水中に含まれる鉄分を酸化・沈殿させたものが多いようです。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
