深海に転がる謎の球群「マンガン団塊」は宝の塊【知られざる海底資源を掘り起こす 第3回】
2023/01/11連載の目次
- 第1回 金属、石油、メタン…日本のEEZは宝の海
- 第2回 深くて遠い?「海底熱水鉱床」資源化への道
- 第3回 深海に転がる謎の球群「マンガン団塊」は宝の塊
- 第4回 「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地
- 第5回 国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート
- 第6回 日本が産油国に? 変わりつつある石油と天然ガスの世界図
- 第7回 鉱山採掘から発電、都市建設まで! 海のビジネスは技術力次第
Chematelsの連載「知られざる海底資源を掘り起こす」の第3回となります。今回は「マンガン団塊」に光を当てます。これまで発見されてきた金属系の海底資源の中で、最っとも奇妙なものといえるが水深4000m級の深い海の底に転がるマンガン団塊です。その名の通り、マンガンや鉄、ニッケル、コバルトなどの重金属成分を多く含みますが、生成過程はよくわかりません。そんな不思議な資源の話です。
深海の底に「ごろごろ」とあったもの
「深海」とは、一般的には水深200mより深い海を指し、分かりやすくいえば「大陸棚の外側」になります。しかし、地球の海の平均水深は3729mですから、実際はこのくらいでは、まだ浅瀬にすぎません。
1960年代になると、人類はようやく平均より深い4000m級の海底を探査できるようになります。そして、そこには驚くべき光景がありました。野球のボールほどの球体がたくさん沈んでいたのです。
図1:太平洋の沖ノ鳥島海盆の海底に転がるマンガン団塊
(写真提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)
採取して成分を分析してみると、マンガンを15〜25%、鉄を5〜15%も含む金属酸化物の塊でした。さらに調べていくと、銅、ニッケル、コバルトなどの貴重な金属成分も発見されたのです。「これは大発見だ!」となり、すぐさま、日本、米国、カナダ、英国、当時の西ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギーなどによって採掘に向けての研究が始まります。
核となったのは海の生き物の一部
その後の経緯は後に回すとして、「マンガン団塊」(manganese nodule)と呼ばれることになるこの物質がどんなものか、もう少し詳しく説明しましょう。直径は最大でも20cmほどで、きれいな球体をしているものもありますが、多くはジャガイモのように少し潰れた形状をしています。多いところでは、それこそ「八百屋の店頭のジャガイモ」くらいマンガン団塊がごろごろ転がっている*1というのです。
気になるのは、「どうしてそんな純度の高い金属の塊が深海にあるのか」です。採取したマンガン団塊を切断してみると、断面には年輪のような模様が見られ、少しずつ層を重ねて成長してきたことがわかります。そして中心部には、小さな岩石やサメの歯、魚の骨の一部などが見つかりました。それらを核にして団塊ができたと想像できるのです。
図2:マンガン団塊の断面。中央に「<」の形をしたサメの歯が見える 🄫JAMSTEC
(画像提供:海洋研究開発機構)
それでは、何が核の周りにまとわりついたのか。最も有力な候補は、海水中に微量ながら存在する金属成分です。海水中には酸化物やイオンなどの状態で多くの金属分子が存在します。あの金ですら1トンあたり1000分の2mgほど溶け込んでおり、その総量は地上の埋蔵量の何万倍にもなるのだとか。マンガンや鉄はもっと多いので、これらの金属成分が少しずつ核の周囲に固形物の層を形成していったのではないかと考えられています。
ちなみに、年代測定の手掛かりとなる放射性同位体元素の分析により、マンガン団塊の層が1cm成長するには数百万年かかることがわかっています。この「遅さ」も、先ほどの説を裏付ける根拠の一つです。
海水中の金属成分としてはナトリウムやマグネシウム、カルシウム、カリウムなどのほうが圧倒的に多いのに、下位グループであるマンガンが多く含まれるのはどうしてか。これについては、マンガン酸化バクテリアという微生物が関わっているのではないかという説があります。この微生物は地球上のどこにでもいて、マンガンを酸化させて沈殿物にしてしまうのです。それが長い時間かけて海底に溜まり、なんらかの要因で*2塊になったのではないでしょうか。
「銅」の動向が運命を決める?
マンガン団塊に含まれる金属で最も多いマンガンは電池の正極や磁石の材料として使われます。最近のマンガン相場を見ると、1トンあたり2800〜3000ドルといった高値で取り引きされており、おそらく、ハイブリッドカーや電気自動車の市場拡大による需要増加が原因でしょう。
図3:マンガン団塊の成分重量比
(出所:各種情報より筆者計算)
マンガンの産出国は限られる*3ため、日本では国内消費量の60日分以上を国家備蓄することが定められているほどの貴重品です。また、マンガン団塊に同じく含まれる銅やニッケルも金属としては高値のほうです。鋼材を強化するのに欠かせないコバルトも高騰すると1トンあたり1000万円くらいします。
以前、さっくり計算してみたのですが、1トンのマンガン団塊から生産できる金属には3万円以上の価値があります。さらに、地上で高品位な鉱石が見つかりにくくなっている銅やニッケルの価格上昇が見込まれます。そうなると、「マンガン団塊で一山あてよう」という動きは活発になるかもしれません。
発見当初は有望な資源として、先述した国に加え、ロシアや中国なども積極的に開発の意思を示しました。ハワイの南東沖に「マンガン銀座」と呼ばれるほどの密集地が見つかったことから、国連の管理下で国ごとの鉱区が設定され、調査が始まっています。日本も鉱区をもっています。
図4:日本が保有するマンガン団塊の探査鉱区
(出所:エネルギー・金属鉱物資源機構サイト「マンガン団塊」を参考に編集部作成)
ただし現実的には、埋蔵量の多いとされる水深4000〜6000mの海底から重量物であるマンガン団塊を引き上げるのは簡単ではありません。事業化へは、まだ様子見といった段階です。
とはいえ、電気製品には絶対に欠かすことのできない銅が地上で採れなくなってきたら一気に状況は変わります。そういう意味では、どの国も「うちはいつでもやりますよ」という姿勢を崩せないのです。
次回は第4回「『最終地点』の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地」の予定です。
【注釈】
*1:ごろごろ転がっている
多い場所では海底の70%をマンガン団塊が占めているそうです。
*2:なんらかの要因で
強い水圧や、深海にも及ぶ波など。このあたりは再現実験をしようにも、「数百万年で1cm」という成長速度なので、想像するしかありません。
*3:産出国が限られる
マンガンの生産量は、南アフリカ、オーストラリア、アフリカのガボンの3カ国で全体の約7割を占めます。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
