金属、石油、メタン…日本のEEZは宝の海【知られざる海底資源を掘り起こす 第1回】
2022/12/13「海底資源」という言葉が時々、ニュースに登場します。貴重な金属から大量のエネルギーまで、海の底にはさまざまな資源が眠っているのですが、発見や採掘の難しさもあって、実態はあまり知られていません。しかし、技術や政治・経済の動向によって、その価値は大きく上下するもの。Chematelsの本連載「知られざる海底資源を掘り起こす」では、海底資源の基礎から将来展望まで、わかりやすく解説します。
連載の目次
- 第1回 金属、石油、メタン…日本のEEZは宝の海
- 第2回 深くて遠い?「海底熱水鉱床」資源化への道
- 第3回 深海に転がる謎の球群「マンガン団塊」は宝の塊
- 第4回 「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地
- 第5回 国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート
- 第6回 日本が産油国に? 変わりつつある石油と天然ガスの世界図
- 第7回 鉱山採掘から発電、都市建設まで! 海のビジネスは技術力次第
主な海底資源は金属とエネルギー
海の底に沈んでいる資源としてどんなものがあるのか。大きく分けると、金属系とエネルギー系の2種類になります。他にも、砂や砂利を海中から採掘して利用できないわけではありませんが、価値はかなり下がるのでここでは触れません。また、詳しい説明は次回以降に行い、今回は概要だけお伝えします。
表1:主な海底資源
金属資源である「海底熱水鉱床」は、海底で噴出する熱水によってつくられるものです。多くの金属成分が含まれていた場合、海水で冷やされることによりパイプ状に固まっていくのですが、貴金属からレアメタルまで、多様な有用金属を含むことがあります。なおマンガン団塊とコバルト・リッチ・クラストは海水中の微量成分である金属類が特別な条件のもとで凝集・堆積したもので、同種に分類されることもありますが、この連載では別の資源として扱います。
海底のエネルギー資源で、すでに利用されているのは石油と天然ガスです。石油についていえば、最低でも地球上の埋蔵量の4分の1は海底下にあるといわれており、おそらくはもっと多いことでしょう。原油価格が上昇傾向になると積極的に開発が始まります。すでに水深2000mほどの深い海底に5000m以上の油井を掘って採掘する技術が確立されており、需要次第で生産量も大幅に増えるでしょう。
そしてもう一つが、よく話題になるメタンハイドレートです。海底下にあるシャーベット状の水の層にメタン分子が閉じ込められているもので、採掘は大変ですが、日本の近海に大量にあることが知られており、未来のエネルギー資源として期待を集めています。
領海、EEZ、公海で異なる開発事情
海底資源の開発や利用を考える上で重要になってくるのが、水域における権限の問題です。世界中の海は沿岸国、つまり接続する国との距離により、次のように分類されます。なお、測定の基準となる「基線」とは、原則として大潮における干潮時の海岸線を示しますが、群島などの場合は、まとめて一つの陸地のように扱われることもあるので注意してください。
図1:日本の排他的経済水域(EEZ)など
(出所:海上保安庁ホームページ「日本の領海等概念図」を一部加工)
1. 領海
基線から最大12カイリ(約22.2km)までの水域で、沿岸国の主権が及びます。つまり、領土と同様、他国が無断で侵入することは許されません。また領海の外縁に当たる基線から24カイリ(約44.4km)までを接続水域とし、専門家の見解では「国家は通関・財政・出入国管理・衛生に関する法令の違反について防止や処罰を目的とした措置をとることができる」とされています。つまり、準領海のように扱えるのですが、他国籍船を排除することはできません。
2. 排他的経済水域
EEZ(Exclusive Economic Zone)という呼び名のほうが一般的で、基線から200カイリ(約370.4km)以内の海域に沿岸国が設定することができます。設定水域の海上・海中・海底、および海底下に存在する水産・鉱物資源や自然エネルギーに対して、探査・開発・保全・管理を行う排他的な権利、つまり独占権を有します。
3. 公海
いずれの国の権限も及ばない水域のことです。逆にいえば、すべての国が使用できる「公海自由の原則」があります。
つまり、海底資源の開発と利用は領海とEEZ内であれば独占的に行えます。一方、公海では国際法に従う必要があり、関連諸国との交渉が必要です。もっとも、公海の多くの部分は深い海であるため、資源ビジネスを成功させるのは簡単ではありません。
境界線の解釈をめぐり国際論争も
さて、ここまでの説明はかなり「はしょった」ものです。実際はいろいろ利権が絡むだけあって、いくつかの難しい問題も起きてきます。例えば、海を隔てて隣接する国の距離が400カイリ以下の場合、どこに境界線を引くか、明確な規定がないのです。
従来は、両国の基線の中間を境界とするという等距離中間線論が慣例的に採用されてきました。ところが、東シナ海の海底資源が注目されるようになってくると、中国や韓国が「EEZの境界は大陸棚の切れ目に当たるトラフで決めるべきであり、中間線で分けるのはおかしい」と言い始め、大陸棚自然延長論*1を拡大解釈*2するかたちで自国に有利な境界線を主張するようになったのです。この説に賛同すれば得をする国も多いことから、一時期「中間線か、大陸棚か」といった国際論争になりました。当然、損をする国も同じだけあるわけですが……。
図2:排他的経済水域(EEZ)の異なる主張。A国とB国の基線からの中間線を境界とする主張とトラフを境界とする主張がある
(筆者作成)
その後、国際海洋法裁判所が「境界は中間線を基本とする」という判決を下したことから、現在、少しずつ問題は収束に向かいつつあります。それでも、「国際関係よりも自国に利益を」と考える国々が完全に納得するまでには、まだ時間がかかるかもしれません。
日本は膨大なEEZを抱えているのですから、東シナ海では正当な権利を国際社会の訴え続けながら、他の、もっと開発がしやすい水域でさまざまなプロジェクトを進めればいいのではないかと思っています。
次回からはいよいよ詳しい説明に入っていきます。第2回は「深くて遠い?『海底熱水鉱床』資源化への道」の予定です。
【注釈】
*1:大陸棚自然延長論
大陸棚は大陸に続く比較的なだらかな傾斜の海底部分を指しますが、島の周囲にも「棚」はあり、ここではどちらも大陸棚と称します。地形的、地質的、そして生物相などにおいて連続したエリアであることから、基線から200カイリを超えた部分に関しても「延長大陸棚」としてEEZに加えることができるとされており、日本を始め多くの国が同様の主張をしてきました。ただし、それはあくまで公海に向けての延長であって、中国や韓国のような等距離中間線を否定する考え方ではありません。
*2:(大陸棚自然延長論の)拡大解釈
本格的に海底資源の開発を行うには高い技術力と豊富な資金力が必要であり、現実的には欧米日企業の協力なしに事業化を進めるのは不可能です。従って、中国や韓国のアピールは「国力を高めるのに貢献した」と喧伝するための国内向けの政治パフォーマンスという意味合いが強く、本気で資源ビジネスを展開したいわけではないように思います。そもそも、採算が合わないはずです。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
