「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地【知られざる海底資源を掘り起こす 第4回】

2023/01/19
【知られざる海底資源を掘り起こす】第4回 「最終地点」の日本近海はコバルト・リッチ・クラストの大産地

連載の目次

Chematelsの連載「知られざる海底資源を掘り起こす」の第4回をお届けします。今回の主役はコバルト・リッチ・クラスト。第3回「深海に転がる謎の球群『マンガン団塊』は宝の塊」で取り上げたマンガン団塊と同様、海水に含まれる金属成分が固形化したものです。成長には長い時間がかかりますが、実はそのことが、日本にとってとてもラッキーな事態をもたらしました。ヒントは、「海洋プレートの沈み込み」です。

貴重なコバルトやレアアースの宝庫

図1:海底に分布するコバルト・リッチ・クラスト ⁠(写真提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)

図1:海底に分布するコバルト・リッチ・クラスト
⁠(写真提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)

マンガン団塊が海底に転がっていた小さな岩石やサメの歯などを核にして層を重ね、球状に成長していくのに対して、海底に点在する海山と呼ばれる山の頂や斜面を覆うように形成されるのがコバルト・リッチ・クラストです。成長スピードはマンガン団塊と似ていて、100万年で1〜6mm程度と遅いものの、それでも厚いところになると20cmほどの層になっているといいますから、なかなか有望な鉱床です。

組成もマンガン団塊に近く、マンガンや鉄の酸化物が主であることから二つを区別しないケースもあるのですが、詳しく分析してみるとコバルトの含有率が3〜5倍の数値を示したことから、この名前が付きました。コバルトは需要が高まっているものの、紛争の絶えないアフリカのコンゴ民主共和国が産出量の6割近くを占めるという特殊な供給状況です。「リッチ」が呼び名に含まれるのは「海の中からも採掘できる!」という期待感が反映*1された結果でしょう。

他にも、微量ではあるもののプラチナや多様なレアアースを含むのも特徴的です。このため、「レアアース泥」とも呼ばれます。どちらも産地が限られる貴重な金属だけに、コバルト・リッチ・クラストの発見は大きなニュースになったのです。

絶海の孤島に注目が集まる理由

コバルトは、硬度や耐熱性に優れた合金やリチウムイオン電池の正極材料として欠かせません。日本は世界の生産量の約4分の1を輸入している大消費国です。

ところが、前述したように産出国が限られる上、埋蔵量も約70年分*2ほどしかなく、枯渇の可能性を考えておかなければなりません。そこで、新たな供給元の開拓が急務になっていました。そんなときに、南鳥島付近の海底で大量のコバルト・リッチ・クラストが発見されたものですから、大ニュースになったのです。

ここで、わが国の置かれた地理的な幸運について解説します。コバルト・リッチ・クラストの成因は完全に分かっているわけではありませんが、海水中に溶け込んでいる金属成分がなんらかの条件によって固形化し、沈殿したものだと考えられます。あとは海山の高さや周囲の波などの状況によって特定の場所に集まり、層をつくるのでしょうが、環境条件として「沈殿物がたくさん降ってきた海底」ほど厚くなりやすいはずです。

そこでプレートの話になります。地球の表面を覆うプレートは内部のマントルの動きによって移動しており、そのことが大きな地震の原因になるという話はよく聞きます。特に太平洋プレートは日本列島の東側で他のプレートの下に沈み込むことから、大きな地震が絶えません。これは非常に不運な地理的条件ではあるものの、一方で、日本は地球最大の海洋プレートの末端近くにいるという事実でもあるのです。

図2:プレートの動きと沈殿物 ⁠(筆者作成)

図2:プレートの動きと沈殿物
⁠(筆者作成)

図2とともに説明します。海洋では常に金属成分の沈殿があり、その下をプレートはベルトコンベアのように移動していきます。太平洋プレートの場合は北米のカリフォルニア沖から南米のイースター島まで連なる東太平洋海嶺で誕生し、地球半分ほどの距離を移動したあと、北方では日本海溝に沈むのです。

このため、最終地点こそが世界でいちばん古い海底となり、年代は約1.9億年前、恐竜たちが元気だったジュラ紀のものになります。それなら、厚さ20cmの球もあるコバルト・リッチ・クラストがあってもおかしくないでしょう。

太平洋プレートが沈み込む西側の海溝付近は当然ながら海が深く、陸地が誕生する条件は厳しくなります。そこにぽつんとあるのが南鳥島*3で、1898年に日本の領土として編入されました。そのため、周囲200カイリ(約370.4km)は排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)として認められており、独占的に資源の調査や採掘ができるのです。

図3:コバルト・リッチ・クラストの調査状況。エネルギー・金属鉱物資源機構の調査より。(左)探査鉱区の位置 (右)コバルトリッチクラストが分布する海山イメージおよび調査状況 ⁠(資料提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)

図3:コバルト・リッチ・クラストの調査状況。エネルギー・金属鉱物資源機構の調査より。(左)探査鉱区の位置 (右)コバルトリッチクラストが分布する海山イメージおよび調査状況
⁠(資料提供:エネルギー・金属鉱物資源機構)

2020年7月、経済産業省の委託を受けたエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC:Japan Organization for Metals and Energy Security)が、南鳥島南方のEEZ内にある水深約930mの拓洋第5海山平頂部において649kgのクラスト試料を採取しました。成分を分析したところ、コバルト、ニッケル、銅を個別の金属として回収できることがわかり、重要な国産資源となることが期待されています。

ちなみに、2020年8 月21日のニュースリリース発表当時のデータに基づく算出によれば、このエリアでは日本の年間消費量約88年分のコバルトと、約12年分のニッケルの存在が確認されており、さらに周囲の海山を合わせると、かなりの資源量になりそうです。並行して公海におけるコバルト・リッチ・クラストの探査も続けており、近い将来、これらの金属は海底資源で賄えるようになるかもしれません。

次回は第5回「国産燃料の可能性を秘めて眠るメタンハイドレート」の予定です。

【注釈】

*1:期待感が反映
⁠主成分がマンガンであることから、冷静に「マンガン・クラスト」と呼ぶ人もいます。ちなみに「クラスト」(crust)は地学用語では「地殻」を指し、地球の固体部分の最外部をなす層を表します。もともとは「堅くなった表皮」という意味の言葉で、パンの耳もクラストです。

*2:埋蔵量も約70年分
⁠あくまで現在の技術および経済条件のもとで確実に採掘できる確認埋蔵量と、使用量に基づく数値であって、状況によって変わります。また、コバルトは単体で採掘するものではなく、「銅やニッケルのついでにちょっとだけ採れる」金属なので、金などに比べると埋蔵量の数字はあいまいです。

*3:南鳥島
⁠本州から1800km離れた日本の最東端の領土で、唯一、太平洋プレート上にあります。一辺が1.5kmほどの三角形をした小さな島ですが、戦前には71人ほどが暮らして肥料の原料となる鳥の糞の化石「グアノ」の採掘をしていました。現在は自衛隊の基地と気象庁の観測所などがあり、職員が交代で常駐するのみで、一般人の立ち入りは、ほぼ許可されません。なお、周囲にはいくつも海山があり、水中ではあるものの群島を形成していることが分かります。

石川 憲二(いしかわけんじ)

ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。

公式サイト http://www.ne.jp/asahi/happy/golucky/