メトリクスの活用で改善を確実なものに【設備老朽化の心得と管理 第5回】

2022/09/20
Image

連載の目次

Chematelsの連載「設備老朽化の心得と対策」をお届けしています。前回の第4回「分析手法を使って老朽化対策の立案を!」では、老朽化対策の具合的な立案のしかたについて話しました。今回は、老朽化対策がきちんと実行されているかを測る「メトリクス」について説明します。経営者・上司の皆さん、そして従業員の皆さんとも、設備・機器の老朽化管理で必要なメトリクスというのがどんなものであるか知ることができるでしょう。

メトリクスは、測定のための定められた方法

「メトリクス」(Metrics)という言葉について、まだ耳慣れない方も多いでしょう。また、「指標」(Indicator)と混同されている方もおられると思いますので、これらの言葉の意味から説明します。

「メトリクス」は、「測定のための定められた方法」であり、「測定基準」とも呼ばれるものです。例えば、物の長さを「メートルを基準として測定する」といったことです。長さは「フィートで測定する」ことも可能ですが、そうすればメートルを基準とした場合と測定値は異なります。あるいは体温を「摂氏(℃)で測る」こともメトリクスとなります。測り方をきちんと決めておかないと、出てきた数値が何を意味するのか分かりません。

一方、「指標」は、「測定により得られた数値」、またはその組み合わせにより「判断基準になるもの」です。例えば指標として、昨年と今年で同じ町の同じ月で発生した交通事故の件数を比較し、「昨年より交通事故が増加しているから対策が必要だ」などと判断するわけです。体温を摂氏(℃)で測って「37.5℃以上の場合はワクチン接種ができない」などといったように、何かと比較して判断する材料になります。

Image

図1:メトリクスと指標

メトリクスには「先行」と「遅行」がある

では、設備の老朽化管理におけるメトリクスにはどのようなものがあるかを見てみましょう。

管理をするときは、何か決め事があるはずです。例えば、第4回「分析手法を使って老朽化対策の立案を!」では、老朽化対策の必要な設備・機器のリストを作成することを説明しましたが、それに基づいて行動を起こす必要があります。各設備・機器の点検・補修・更新をスケジュールに入れて、誰がいつ行うかを決めて実施します。点検の結果、補修や部品交換が必要であることが判明すれば、それを実行に移さなければなりません。

メトリクスには二通りのものがあります。「先行メトリクス」と「遅行メトリクス」です。プロセス安全における遅行メトリクスは、起きてしまった事故や出来事を対象とするものです。ただし、これらにも、より大きな事故に対する先行メトリクスとしての意味合いもあります。米国の化学プロセス安全センター(CCPS:the Center for Chemical Process Safety)の考えに基づいたプロセス安全では、重大な結果をもたらした事故を「Tier 1」、そこまでひどくはない事故を「Tier 2」、ニアミスやヒヤリハット、防護層の働きでTier 2に至らずに済んだ出来事を「Tier 3」、事故やニアミスにはなっていないが、やるべきことができていないので、このままではいずれ事故になると考えられることを「Tier 4」として、4段階のランクに分けています。

Tier 3以上は何かが起きていますので、それ自体は遅行メトリクスの対象となります。一方でTier 2はTier 1の先行メトリクス、Tier 3はTier 2の先行メトリクスでもあるわけです。そして、まだ出来事になっていないTier 4はTier 3の先行メトリクスです。

Tier 4 の見方は二つあります。一つが「やるべきことが、どれだけできているか」で、もう一つが「やるべきことが、どれだけできていないか」です。例えば、この1か月の間に実施した点検の件数を、この1か月に実施する予定だった点検数で割れば、点検の実施率となり、メトリクスになります。

Image

また、実施できなかった点検の件数や平均遅延日数もメトリクスになります。

Image

今月の平均遅延日数を先月の平均遅延日数と比較すると、管理状態の変化が分かり、なぜそうなっているかを考える材料になります。

データを残すしくみづくりを

これらを機種別に調べたり、担当者別に調べたりすることで、何が問題であるかを把握し、改善につなげることが可能となります。これらの元となる数値を把握していなければ計算はできないので、確実にデータを残すためのしくみをつくる必要があります。

ここに挙げたのは、ごく一部の例です。管理者や経営者は、何を測定し、どのような改善につなげるかを決め、データを保管するシステムを構築しなければなりません。メトリクスのためのデータ保存システムは、設備保全だけでなく、多くのプロセス安全のエレメント改善に役立ちます。メトリクスを活用して、効率のよい改善を進めましょう。

次回のテーマは、「使わなくなった設備の廃棄も適切に」です。ご期待ください。

竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net

AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。