プラントの安全対策は企業経営の一部【設備老朽化の心得と管理 第1回】
2022/08/23
連載の目次
- 第1回 プラントの安全対策は企業経営の一部
- 第2回 管理者は安全に対するコミットメントを!
- 第3回 大規模な設備投資の時期を見計らう
- 第4回 分析手法を使って老朽化対策の立案を!
- 第5回 メトリクスの活用で改善を確実なものに
- 第6回 使わなくなった設備の廃棄も適切に
Chematelsの新連載「設備老朽化の意思決定と管理」は、化学会社の経営者や管理職の皆さんを対象として執筆するものです。経営者・上司の皆さんは、設備老朽化への心構えや準備を固められるでしょう。従業員の皆さんは、経営者・上司がどのような情報を必要としているかを知ることができるでしょう。
設備老朽化の管理責任は経営者にあり
企業を経営するということは、リスクをコントロールして利益を上げながら、社会に貢献することだといえます。経営者にとり、リスクは一言では表せないほど多く存在します。今後の経済動向の変化を読んで会社をどの方向に導くか。競合他社はどのような戦略でシェアを拡大しようとしているか。新規参入企業が自社の既存製品のシェアを荒らすのではないか。これらは全てリスクであると認識されています。
では、自社の工場・プラントで大事故が発生して、従業員や周辺住民に被害が及ぶことはリスクとして認識されているでしょうか。2022年7月13日、東京電力の元会長ら4人に13兆円に及ぶ賠償命令を出した東京地裁の判決は、経営者に安全上の責任があることを明示したものとなりました。「しょせん、安全対策は工場の問題であり、経営の問題ではない」と考えている経営者は、肝をつぶした判決だったのではないでしょうか。安全を現場任せにしていることは、目をつぶってリスクをとっているようなものです。
経営者にとって工場・プラントの安全に関わるリスクは、そこで働く中間管理職や従業員、場合によっては協力会社の人たちの助けを借りれば、コントロールが可能です。この連載では、特に設備の老朽化問題を中心に、リスクコントロールについて解説してまいります。
リスクは小さくして取るもの
始めに記した通り、経営にはリスクが伴います。リスクのないビジネスなら誰にでもできるわけですから、「リスクのない所には利益はない」といってもよいでしょう。
フェイスブック(現メタ)創設者マーク・ザッカーバーグの言葉「最大のリスクは、一切のリスクをとらないこと。非常に変化の早い世界で、唯一失敗が保証されている戦略はリスクをとらないことだ」は有名です。しかし、この言葉はリスクに目をつぶって無謀なことをしようといっているわけではありません。あなたは「虎の穴に入って虎児を得る」とするなら、親トラがいないことを確かめてから入るのではないでしょうか。工場・プラントの安全管理も同じことです。

図1:リスクは小さくして取る
プロセス安全管理という概念があります。リスクを取れるレベルに小さくしてから取ろうというものです。プロセス安全の世界では、リスクは「失敗したときの影響の大きさ(影響度)×失敗する確率(発生頻度)」で計算します。
虎の穴に入るときに親トラが穴にいないこと、そして近辺にもいないことを確認しておくのが、親トラに出くわす可能性を小さくする方法です。一方、親トラに出くわしても大丈夫なように防護服を着用してトラと戦える武器を持つことは、戦ってけがをするかもしれないが、親トラに殺されるという被害を小さくするものです。
プロセス安全の大原則は、「安全な設備を安全に運転する」ことです。この連載で取り上げる「設備の老朽化管理」は、設備の安全を維持するための「設備の健全性」(Mechanical Integrity)というプロセス安全管理の一要素です。
ここで大切なことは、あらゆるリスクを小さくしようとするのではなく、取れないほど大きなリスクは十分に小さくして取ろうということです。限られた経営資源を効率的に使って、リスクコントロールをしましょう。
次回テーマは、「管理者は安全に対するコミットメントを!」です。ご期待ください。
竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net
AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。
