遠からず!? 回転寿司で「ゲノム編集ネタ」が運ばれる日【5分で5年後も見えてくる!世界と日本の食糧事情 第2回】

2022/05/31
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連載の目次

Chematelsの連載企画「5分で5年後も見えてくる! 世界と日本の食糧事情」の第2回は、「品種改良」がテーマです。2050年には世界の人口が約100億人になると推定されており、効率のよい食糧生産ができるような品種改良が求められています。

21世紀の品種改良で間違いなく注目されているキーワードが「ゲノム編集」です。今回は、品種改良の歴史を振り返りながら、ゲノム編集の特徴や実用化事例を紹介します。

これまでの品種改良を振り返る

そもそも品種改良とは、「野生生物を人間が管理しやすく、そしておいしく食べられるように変えること」です。古代から人類は、野生植物を農業として安定的に生産できるよう品種改良に取り組んできました。

キャベツは最たる例の一つです。お店で見るキャベツのように葉が折り畳まれた姿は、自然界では光合成の効率が悪過ぎて生き延びるのに適さないため、まずあり得ません。

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図1:自然界からすればあり得ないような異様な形状をしているキャベツ(筆者撮影)

キャベツは、和名で「ヤセイカンラン」と呼ばれるアブラナ科の植物「ブラシカ・オレラセア」(Brassica oleracea)をもとに、可食部分である葉を多くつくる個体が選別されて生み出されました。ちなみに、ブロッコリーやケールの起源も、キャベツと同じヤセイカンランです。

近代・現代になると、すでにある農作物を掛け合わせて2種類以上の特長を兼ね備える品種をつくり出してきました。例えば、ブランド米である「青天の霹靂」は、気温が低い青森県でも生育できるよう、「ひとめぼれ」を含む8品種を掛け合わせてつくられたものです。

実用化されるようになったゲノム編集

品種改良では、見た目の特徴や味に注目していますが、これらは突き詰めると「遺伝子の違い」に帰着します。ということは、遺伝子を人為的に変えることができれば、品種改良はよりスピードアップするはずです。

数十年前から、放射線や化学物質を使ってランダムに遺伝子を変え、その中から新しい品種になりそうなものを選別する方法が使われるようになりました。「ゴールド二十世紀」という梨は、放射線をあてて、病気に強い品種を探す中で見つかったものです。

さらに、遺伝子を直接扱う「遺伝子組換え」という方法が登場しました。海外では遺伝子組換え作物が主流になっている国もあり、日本も飼料のためや加工用として多く輸入しています。

そして、ピンポイントに遺伝子を変える画期的なテクノロジー「ゲノム編集」が、現在最も注目されている品種改良の方法となっています。ゲノム編集の技術的な解説や、遺伝子組換えとの違いは、Chematelsのこの記事で紹介しています。

【化学業界と「農薬」のこれから】第9回 ざわつく農業界・気になるワード(4) ゲノム編集

日本では2021年に、筑波大学発のスタートアップ企業であるサナテックシード社から、γ-アミノ酪酸(GABA:Gamma Amino Butyric Acid)を多く含むトマトがゲノム編集食品として初めて発売されました。

ゲノム編集を使った品種改良のメリットは、正確性とスピードです。掛け合わせや放射線などの方法は、どの遺伝子が変わるかわからず、偶然に頼っています。どの遺伝子がどう変わっているのかわからないまま生産、出荷されているものも多くあります。また、選別に10年以上かかることも珍しくありません。その点、ゲノム編集の場合は、変える遺伝子を指定でき、数年で品種を確立できます。

なお、ゲノム編集を食品として販売する場合、他に変わってしまいそうな別の遺伝子が変わっていないか、またアレルギー原因物質や毒性物質がないかなどを事前に確認する必要があります。

品種改良は農作物だけではない

ゲノム編集は、原理上あらゆる生物に使えます。つまり、農作物以外の品種改良にも活用できる可能性を秘めています。

漁業関係では2021年に、京都大学発のスタートアップ企業であるリージョナルフィッシュ社が、肉厚の「22世紀鯛」と、成長が早い「22世紀ふぐ」を発売しています。

また、基礎研究段階ですが、養殖の網にぶつかってマグロが死亡する事故を防ぐために、おとなしいマグロの開発を水産研究・教育機構が進めています。他に、「スシロー」などを展開するFOOD & LIFE COMPANIES社も、ゲノム編集などを活用した魚類の品種改良に取り組んでいます。

林業でもゲノム編集が注目されています。スギ花粉に関係する遺伝子をゲノム編集によって変えることで、「無花粉スギ」をつくることができるかもしれません。スギ花粉症の人にとっては期待が高まるばかりですね。

次回は、「包装で延ばそーう! 消費期限と賞味期限」の予定です。どうぞご期待ください。

主な参照先
⁠・World Resources Institute 「Creating a Sustainable Food Future: A Menu of Solutions」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
⁠・青天の霹靂ウェブサイト
http://seitennohekireki.jp
⁠・農林水産省「遺伝子組換え農作物をめぐる国内外の状況」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/zyoukyou/index.html
⁠・サナテックシード「ゲノム編集トマト青果物の販売開始のお知らせ」
https://sanatech-seed.com/ja/20210915/
⁠・リージョナルフィッシュ「リージョナルフィッシュ・オンライン」
https://regionalfish.online
⁠・水産研究・教育機構 西海区水産研究所「世界初、ゲノム編集による「おとなしい」マグロ仔魚の作出に成功 ~マグロの衝突死の軽減や防除に大きく前進~」
http://snf.fra.affrc.go.jp/seika/maguro/maguro.html
⁠・FOOD & LIFE COMPANIES、プラチナバイオ、リージョナルフィッシュ「魚類の品種改良に係る 3 社共同研究を開始」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3563/ir_material6/171803/00.pdf
⁠・森林研究・整備機構 森林総合研究所森林バイオ研究センター「世界初スギのゲノム編集技術を開発 -針葉樹の品種改良の期間を大幅に短縮する新技術として期待-」
https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/research/documents/sugigenomu.pdf

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。