昆虫食、ゲテモノからスグレモノに進化中!【5分で5年後も見えてくる!世界と日本の食糧事情 第5回】

2022/06/21
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連載の目次

Chematelsの連載企画「5分で5年後も見えてくる! 世界と日本の食糧事情」。最終回のテーマは、昆虫食です。かつては「ゲテモノ料理」として罰ゲームなどで食べさせられることもありましたが、最近では未来の食糧不足解消の切り札として注目されています。

なぜいま昆虫食なのか。過去の昆虫食文化や最新のテクノロジーも交えながら分析します。

日本のイナゴ、中国のアリ、東南アジアのカメムシ…

昆虫食はいまに始まったことではありません。チンパンジーが巣に枝を差してシロアリを食べるように、人類も誕生したときから何らかの昆虫を食べていたと考えられています。旧約聖書にも、食べてもいい昆虫としてイナゴが書かれています。

イナゴといえば、日本では長野県を中心に「イナゴの佃煮」が郷土料理として知られています。また、蜂の子も同様です。⁠

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図1:筆者が長野県で食したイナゴの佃煮(筆者撮影)

世界を見渡すと、昆虫食は立派な食文化として定着しています。中国では、「擬黒多刺蟻(ぎこくたしあり)」というアリの粉末が滋養強壮剤の成分として使われています。また、大型のカメムシであるタイワンタガメは、東南アジアではポピュラーな食材で、メスのタイワンタガメを蒸したり揚げたりするとチーズのゴルゴンゾーラのような味がするそうです。さらにメキシコでは、イモムシの一種であるマゲイワームを素揚げにしてスナック菓子感覚で食べる習慣があります。

食糧不足や畜産業の「福音」になるかもしれない

昆虫食が注目されている理由は、未来の食糧不足解消への期待があるからです。2050年には世界の人口は約100億人になると推定されています。100億人の胃袋を満たすようなタンパク質の供給源の候補として、昆虫が挙がっているのです。昆虫は、実は鉄分やカルシウムも豊富で、栄養バランスも悪くありません。

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表1:動物肉と食用昆虫の利用成分比較
⁠(出所:ジーナ・ルイーズ・ハンター著、龍和子訳『昆虫食の歴史』より)

ウシやブタと比べて昆虫では飼育スペースが小さく、水や飼料も少なく済むため、効率のよい飼育が可能です。飼育システムが洗練されれば、南極のような極限環境や宇宙ステーション内部でも飼育できそうです。そうした閉鎖的環境でもタンパク質生産が自己完結できるかもしれません。

また、ウシのゲップには温室効果ガスのメタンが含まれていますが、牛肉食に代わり昆虫食が増えればメタン産出量を抑えることができると期待されています。気候変動対策にも一役買えるのです。

もちろん、肉牛や肉豚などの畜産業がなくなることはまず考えられませんが、飼料となる魚粉の価格は高騰しており、また日本では大豆を輸入に頼っているのが現状です。国内生産した昆虫の粉末を飼料にすることで、畜産業のコスト削減や輸入リスク回避にもつながります。

ゲノム編集による昆虫食の品種改良も

昆虫食の中でも特に注目されているのが、コオロギです。雑食で育てやすく、また餌によって味を変えやすく、大量生産を目的とした食料品に適しているためとされています。

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図2: 昆虫食の自動販売機でもコオロギのラインナップが充実している(筆者撮影)

日本では、徳島大学発のスタートアップ企業であるグリラス社が食用コオロギの生産や研究開発を行っています。また、無印良品が販売して話題となった「コオロギせんべい」は、同社が作るコオロギパウダーを使ったものです。さらに、内閣府によるムーンショット型農林水産研究開発事業「地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料生産システムの開発」では、コオロギとミズアブを研究材料としています。

ただし、昆虫食にも課題があります。事業として展開するためには、安定した生産量と品質を保つ必要があります。地域の食文化のように、「時期によって収穫量や味が変わるのも一興」というわけにはいきません。

また、食用コオロギについては、エビやカニなどの甲殻類アレルギーをもつ人は懸念するかもしれません。実際、エビアレルギーをもつ人の血液検査では、コオロギにアレルギー反応を示したという研究があります。この問題を解決するため、アレルギー反応を起こさないようにゲノム編集で品種改良する取り組みもあります。

フードテックで未来の食文化を切り拓け

5回にわたって、さまざまな「食糧事情」の情報をお届けしてきました。全5回で共通していることは、「テクノロジーを使って食品ロスや生産量を増やそう」ということです。

食の可能性を広げるための最先端の科学や技術を「フードテック」といいます。農業・漁業・畜産業などの過去の経験も生かしながら、新たな技術や素材を使って食品産業を変革することが、まさにいま行われています。

特に新規素材については、化学産業が得意とするものです。フードテックを活用して、化学産業が未来の食文化を切り拓く時代となっているのです。

「5分で5年後も見えてくる! 世界と日本の食糧事情」のご愛読、ありがとうございました。

主な参照先
・ジーナ・ルイーズ・ハンター著、龍和子訳『昆虫食の歴史』(原書房)

・ムーンショット型農林水産研究開発事業「地球規模の食料問題の解決と人類の宇宙進出に向けた昆虫が支える循環型食料生産システムの開発」
https://if3-moonshot.org

・グリラスウェブサイト
https://gryllus.jp

・Kamemura N, et al. Cross-allergenicity of crustacean and the edible insect Gryllus bimaculatus in patients with shrimp allergy. Mol Immunol. 2019 Feb;106:127-134.

島田 祥輔(しまだしょうすけ)

サイエンスライター 1982年生まれ。名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻修了。特に遺伝子に興味があり、遺伝子の研究によって医療や生活がどう変わっていくのかに注目している。また、腸内細菌検査サービス「マイキンソー」のオウンドメディア「Mykinsoラボ」の編集長を務める。