そうさロボットは人間じゃない【部下に話したくなるロボット最新技術の話 第6回】
2021/10/12
特集の目次
ロボットの技術と現状について解説してきた連載の最終回として、今後、ロボットがどういう方向で開発され、どのような分野で活躍していくのか、考えていきたいと思います。
回転寿司のカウンターで考えたこと

図1 回転寿司店はロボット? ロボットでない?
最近の回転寿司店(*1)では、カウンターやテーブルに設置されたタブレット端末で注文でき、レーン上を自走する台によって自動的に料理が運ばれてきます。食べ終わった皿を投入することで会計できるシステムを採用しているところもあり、ほとんど人の手を煩わせません。一昔前なら「まるでSFの世界だ!」と驚きそうですが、すでにあたりまえの光景なのか、みんな平然としていますね。
それでは、ここで考えてみましょう。このような回転寿司店はロボットなのか、ロボットでないのか?
これだけのシステムを完成させるには、「知能・制御」「センサ」「駆動系」の高度な技術が必要ですし、料理を運ぶ装置は自律的です。そして何より、本来、店員たちが行っていた仕事の多くを代替してくれるという点において、回転寿司店全体が一種の「人造人間」になっています。つまり、見た目以外は完全なロボットなのです。
以前、二足歩行ロボットの開発で先行していた企業のメインスタッフにインタビューしたことがあります。そのとき、なぜ、ヒューマノイド、つまり人間型のロボットにこだわるのかという質問に、こんな答えが返ってきました。
「自動車や家電品など世の中の多くの道具は人が操作することを前提につくられています。従って、人と同じ形、同じサイズのロボットができれば、いろいろなものを自動化できるのです」
一理はあるものの、ただそのときも、これは一つの口実に過ぎないと感じました。実際には、二足歩行システムの研究をするためにヒューマノイド型を選んだだけで、人造人間の完成が最終目標ではない。それは、現在、開発中の自動運転車にドライバーロボットが乗っていないことでもわかると思います。
話を回転寿司店に戻しましょう。寿司レストランをできるだけ少人数で運営しようとしたとき、「それでは完璧な人造人間を開発して店員の代わりに投入しましょう」と考えるのは、あまり現実的ではありません。それよりも、「注文をとる」「料理をつくり・運ぶ」「会計をする」といった作業ごとに最適な装置を考え、自動化していったほうがいいはずです。
ロボットという概念は長く「人造人間」という意味で認識されてきました。しかし、産業用ロボットの進歩と普及が進むにつれ、研究・開発の主流は「機能別の最適化システム」に移ってきています。そういう意味では、いまだにヒューマノイドロボットにしか目がいかないマスメディアは完全に時代遅れですね。
専門家でも読みにくいロボットの未来
次に、前回の第5回で紹介した手術支援ロボット【リンク:https://chematels.com/article/ckturjemo1bgg0a82xtwj8ynd】についても考えてみます。医療ロボットの代名詞になっている「ダビンチ」ですが、これも回転寿司店と同じで、とてもロボットとは思えません。なぜなら、手術用のアームは医師の操縦に従って動くだけなので自律的とはいえないし、見た目も複数の装置が並んでいるだけで、ロボットというより「工場によくある機械」のよう。そこに人造人間を投影することはできないのです。
しかし、人と寄り添うロボットの未来を想像した場合、むしろ、こっちが正解ではないかと思っています。盲導犬の代わりをするロボットを開発するのに、「まず犬型ロボットを完成させ……」とはならないですよね。それより、身体に着けるウェアラブル式にしたほうが使い勝手はよさそうです。そのうえに360度全方向型の視覚センサ(*2)を付ければ後ろも見えて、人の目より感知できる範囲は広くなります。さらに、電波および音波式レーダーや赤外線センサも装備すれば安全性は増すでしょう。あとは、センサからの情報を的確に処理し、何らかの方法で装着者に伝えられればいいのです。
ウェアラブル式、つまり身につけられる形式のロボットはすでにいくつか実用例があります。たとえば、筋肉の動きを支援して重い物を持ち運びできるようにしたり、足腰の弱った人が歩けるようにするのです。この方向で技術進歩が続けば高機能な義手や義足などにもつながり、障害のある方にとっては大いに役立つでしょう。おもしろいのは、あまりロボットらしくないウェアラブル式の支援装置をつくっているうちに、いつのまにか人造人間の一部を完成させているという点です。

図2 筋肉の動きを支援する各種マシン。ウェアラブル式のロボットも実用されている
この連載の第1回【リンク:https://chematels.com/article/ckro9um1ck4yk0b4046m13frg】に、ロボットを定義する最も重要な言葉として「自律性」を挙げました。また、単機能ではなく多様な作業ができる対応力の高さもロボットの必須条件でした。その理由は、できるだけ人に近いマシンをつくることが理想だったからです。
ところが、実際の動向を見ていると、自律性や多機能であることにあまりこだわらず、「必要とされる機能をどうやって実現するか」といった目的先行の視点で開発が進められているように感じます。
産業用として実用化されてからすでに60年経ち、これからのロボットは、従来、設定された枠組みを超えて大きく進化していくのかもしれません。そしてその未来は、専門家であってもわからないのです。
*1:回転寿司店
料理が回転するといえば中華料理店のターンテーブルがありますが、あれは中国発祥ではなく日本人が発明したものです。もちろん回転寿司も日本で生まれたわけで、「新しい道具で世の中を便利にしたい」と思う人の多いところが日本のロボット技術を支えているように感じます。
*2:全方向型の視覚センサ
「人の目の再現」にこだわって眼鏡に視覚センサを付けたくなりますが、ロボットでは眼の数に制限はないのですから、いろいろな場所にたくさん付ければいいのです。さらに周囲の監視カメラとも連動させれば、遠くから近づいてくる自動車も素早く感知できます。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
