脳より感覚より肉体こそ命【部下に話したくなるロボット最新技術の話 第1回】
2021/09/14
前回、ロボットの進歩を支えてきたのは産業用ロボットだと説明しました。しかし、一般にはあまり馴染みのない分野であるため、その功績や価値がどこにあるのか、分かりにくいと思います。そこで今回は、産業用ロボットの果たしてきた役割と市場について解説します。
特集の目次
- 第1回:産業用ロボットに愛を!
- 第2回:脳より感覚より肉体こそ命
- 第3回:「第二十感」まで働かすロボットの感覚能力
- 第4回:きれいな部屋こそロボットの職場
- 第5回:「ロボ先生の手術だから安心」という日がくるかも
- 第6回:そうさロボットは人間じゃない
正確な位置に素早く到達!
ロボットマンガ(アニメ)初期の傑作である『鉄腕アトム』では、「ロボットは心をもつのか?」といった哲学的な疑問がコンセプトの一つになっていました。作者の手塚治虫はロボットを新しい人類として描きたかったので、そこが気になったのでしょう。
しかし、現実的なロボットの開発においては、課題は別のところにあります。それは、「求められる場所にできるだけ正確に、できるだけ素早く到達し、作業を終える」ということです。そして、このほうが、もしかすると心をもたせるより難しいかもしれません。
例えば、自動車製造用の溶接ロボットについて考えてみます。どんな大きなクルマでも個々の部品の設計はコンマ1ミリ以下の精度で行いますから、溶接箇所の誤差も±0.1mm以内に収めなければなりません。しかも、1カ所を溶接したらできるだけ短時間でアームを移動させ、別の場所を正確に溶接します。このスピードが速いほど大量生産につながり、ロボットの価値を高めるのですから、開発のポイントは精度と速度になるのです。
ちなみに、ロボットの本体の多くは鋼鉄でつくられますが、長さ1mの鉄材は温度が10℃上昇するごとに約0.1mm伸びます。溶接という過酷な作業環境に加え、モーターなどによる内部からの発熱も影響し、長いアームであれば数ミリ単位の誤差が生じるのです。それでも先端部分の位置は常に要求通りの場所に高速で合わせなければいけないのですから、いかにすごい技術か分かるでしょう。
成功した産業用ロボットメーカーの多くは、前段として工場向けの加工機械の開発や生産を手がけてきた経験があります。そこで培ってきた「駆動系」の技術の上に、ロボット特有の「知能・制御」「センサ」を加えることで、今日の地位を築き上げました。
前回、説明したロボットの3要素のうち、多くの人は「知能・制御」(頭脳と神経)と「センサ」(感覚器)ばかりに目が行き、「駆動系」(肉体)を軽視しがちです。しかし、実は最初の2つの技術はお金さえ出せば簡単に買えるのに対して、「駆動系」はノウハウの塊(*1)であり、手に入れるのは簡単ではありません。
ロボットの半分以上は日本メーカーの製品
それでは、そんな「機械技術の塊」ともいえる産業用ロボットをつくっているのはどんな会社なのでしょうか。この業界で「4大メーカー」と呼ばれるのが、日本の安川電機とファナック、スイスのABB、ドイツのKUKA(クーカ)です。それぞれの特色は別表にまとめておきました。

表 世界の主な産業用ロボットメーカー
日本のメーカーは4強の半分を占めているのに加え、事業規模から「5強」の一つに数えられることもある川崎重工業、またファクトリーオートメーション(*2)で世界トップの三菱電機、自動車分野に強い不二越やデンソーウェーブといった有力メーカーの活躍により、世界シェアは6割近くに及びます。
さらに、汎用ロボットに独自のシステムを加えてスペシャル製品に仕上げる利用技術に長けた企業なども加えると、日本には優に100社を超えるロボットメーカーがあるのです。

図 世界の産業用ロボットの年間販売台数
(出所:IFR World Robotics 2018を参照に編集部作成)
今後、ロボットの用途はますます広がり、市場は拡大していきます。そのとき、力を発揮するのは「駆動系」をベースにした基礎技術の蓄積と、「知能・制御」「センサ」の技術をどう活用するかといったカスタマイズ能力になるはずです。
そういった点でも、産業用ロボットはコツコツ研究するのが得意な日本人にとって向いた分野であり、新興国の台頭にも対抗できる貴重な産業分野だと信じています。
*1:「駆動系」はノウハウの塊
自動運転車の開発が進むと、「これからの自動車は車輪付きのスマホみたいなものだから、IT企業が自動車産業の主役になる」と自信ありげに述べている人がいました。しかし、IT企業には高性能の車体を大量生産する技術はないので、せいぜい、「出入りのシステム業者」くらいにしかなれません。
*2:ファクトリーオートメーション(FA)
工場における生産工程を自動化するシステムのことです。高度なロボットからシンプルなベルトコンベアまで多様な機器を組み合わせて最適化を図ります。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
