「ロボ先生の手術だから安心」という日がくるかも【部下に話したくなるロボット最新技術の話 第5回】
2021/10/05
特集の目次
- 第1回:産業用ロボットに愛を!
- 第2回:脳より感覚より肉体こそ命
- 第3回:「第二十感」まで働かすロボットの感覚能力
- 第4回:きれいな部屋こそロボットの職場
- 第5回:「ロボ先生の手術だから安心」という日がくるかも
- 第6回:そうさロボットは人間じゃない
現在、主流である産業用ロボットは製造業の要望に応えて開発されてきたものです。最近では、そこで培った技術やノウハウを生かし、医療やサービス業向けのロボットを普及させていこうという動きが活発になってきました。そのいくつかを紹介しましょう。
医療ロボットの先駆けとなったダビンチ

図1 医療ロボットのイメージ
医療ロボットとしてもっとも早い時期に実用化され、多くの実績をもつのが手術支援ロボット「ダビンチサージカルシステム」です。開発が始まったのは1980年代末の米国で、当初の目的は軍事用でした。米軍の軍隊は世界各地に派遣されているため、負傷者や急病人が出たとき、本土または空母などで待機する医師が遠隔操作により手術を行うためのロボット開発だったのです。その後、プロジェクトは民間のインテュイティブサージカル社に引き継がれ、1999年に最初の製品が完成しました。
「遠隔操作」を課題に開発が進められたダビンチですが、やがて、他にも複数のメリットが見いだされます。それは、より正確で精密な手術の実現と、患者の負担軽減です。このシステムを使う治療では、医師は3D立体映像モニターを搭載したコンソールという装置の前に座り、コントローラを使って離れたところにある3本のアーム(*1)を操作します。その動きは細かく、毛筆で米に字を書くこともできるレベルだとか。振動を抑える装置なども組み込まれているので、人のように手ぶれを起こすこともありません。アームの先は細く、切開箇所も小さくて済むので、術後の回復も早いのです。
ダビンチの信頼度は改良が加えられるごとに高まり、今では日本を含む多くの国の医療機関に導入されるようになりました。安全性が実証されてきたことで、より難しい手術への使用も認められるようになっています。いずれはみなさんも、お世話になるかもしれません。
医療ロボットに関しては新たな動きも見られます。初期に出願されたダビンチ関連特許の有効期間が徐々に切れていくことから、多くの競合企業や研究機関がこの分野に参入してきました。開発の担い手が増えれば価格も下がりますし、新しい技術が投入され、飛躍的な進歩を遂げるでしょう。
現在の手術支援ロボットは、何らかの事故が起きたときにリカバリーができない点や、アームの先に付ける鉗子などの交換に人の手を借りなければならない点から、医師などの医療スタッフがそばにいるという条件で使用されています。
しかし、いずれはロボットがカバーできる範囲が広がり、最終的には自動手術ロボットができるはずです。そうなれば、大きな病院から離れたエリアでも最新の治療が受けられるわけで、ロボットのありがたみを実感できるのではないでしょうか。
掃除ロボットはエレベーターまで操作する
医療ロボットの話が少し長くなってしまったので、ここからは、すでに実用化されているか、もうすぐ実現しそうなサービスロボットについて簡単に説明します。
清掃(掃除)ロボットは、現時点では家庭向けの「ルンバ」がおなじみですが、今後、業務用の分野で活動範囲を広げていきそうです。最大の特長は、自律移動走行制御システムを搭載していることで、人が監視していなくても勝手に走り回り、床掃除を行います。中には、エレベーターを操作して複数のフロアをカバーできるものもあり、オフィスビルや工場、空港などさまざまな施設で活躍しているのです。

図2 実用化されている清掃ロボット。マクニカがサービス提供する自動清掃ロボット「Neo」
(写真提供:マクニカ)
同じように普及が期待される警備ロボットでは、先ほどの自律移動走行制御システムを搭載した自走式と、操縦者を必要とする遠隔操作式の、二つのタイプが考えられています。これらは別々に導入するのではなく、組み合わせて使用すると効果的です。まず、自走式ロボットが「動く監視カメラ」として効率よく状況を調査し、その内容に合わせて遠隔操作式ロボットが現場に向かう(*2)のです。

図3 実用化されている警備ロボット。セコムがサービス提供する「セコムロボットX2」。このロボットは自律走行により巡回監視などを行う
(写真提供:セコム)
サービスロボットを紹介するニュースでは接客案内ロボットもよく登場しますが、個人的にはあまり期待していません。なぜなら、受付作業であればわざわざロボットを使わなくてもタッチパネル式の応対装置などで十分ですし、より丁寧な接客が必要ならロボットなどのマシンではなく人に任せるべきだと思っています。それより「危険な場所で作業する」とか「重い物を持ち運ぶ」といった人の不得意な分野にこそ、ロボットの活躍できる領域があるのではないでしょうか。
*1:3本のアーム
これだけでも、2本の腕しかない医師より多くの作業を効率的にできることがわかります。将来的にはワイヤレスの超小型手術ロボットが体内を自走することになるのでしょうか。
*2:現場に向かう
最近ではドローン式の警備ロボットも考案されています。さまざまなタイプのロボットが次々と現場に到着するような施設であれば泥棒も近づかないでしょうから、導入しただけでセキュリティ効果はありそうです。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
