きれいな部屋こそロボットの職場【部下に話したくなるロボット最新技術の話 第4回】
2021/09/28
特集の目次
- 第1回:産業用ロボットに愛を!
- 第2回:脳より感覚より肉体こそ命
- 第3回:「第二十感」まで働かすロボットの感覚能力
- 第4回:きれいな部屋こそロボットの職場
- 第5回:「ロボ先生の手術だから安心」という日がくるかも
- 第6回:そうさロボットは人間じゃない
この連載では、「市販されるロボットのほとんどが産業用」ということを説明してきました。それでは、「彼ら」はどのような「職場」で働いているのでしょうか。その実態と今後の動向予測をしてみます。
「3K職場」の省人化が最初のロボット需要
最初にグラフを見てください。日本国内における産業用ロボットの業種別出荷台数、つまり「就職先」です。もっとも多いのは「電気機械」ですが、IT機器から映像・音響機器、家電品など多様な製品を含む合計値なので、あまり参照になりません。単独の業種でいえば、やはり「自動車」(完成車および部品)がダントツです。

図1 産業用ロボットの業種別出荷台数(2020年、国内出荷)
(出所:一般社団法人日本ロボット工業会の資料をもとに編集部作成)
これには理由があります。産業用ロボットというのは、もともと自動車業界の需要に応えて開発されてきたものだからです。1970年代、車体組み立てのために導入されたスポット溶接用ロボットが第一号とされます。溶接工場は典型的な「3K職場」であることから省人化を図りたかったのでしょう。それまでも自動溶接機はあったものの、複数の箇所を連続して溶接するような複雑な作業はできませんでした。しかし、ロボットであればプログラムを組むことで、自動的に車体を完成させることができるのです。
ただし、この時代はコントロールするコンピュータも大型マシンが主流でしたし、ロボットを動かすのは電動のアクチュエータ(*1)ではなく複雑な機構をもつ油圧式可動装置でした。当然、ロボット導入のためのコストは膨大になり、確実な収益が期待できる自動車産業のメーカーぐらいしかロボットを買えなかったのです。
産業用ロボットの市場が自動車産業以外にも広がっていったのは、20年くらい経ってのことです。1990年代後半になるとコンピュータ、半導体、アクチュエータ、センサといったロボットの構成パーツが小型・高性能・低価格になり、徐々に手の届く商品になっていきました。Windows95の登場でパーソナルコンピュータが一気に身近になったり、個人でも買えそうな値段のデジタルカメラ(*2)が販売され始めたりといった当時の出来事を考えれば、時代の雰囲気は分かると思います。
それでも、ロボットの進歩を牽引していくのは、やはり自動車産業でした。溶接に続き、塗装、組み立て、搬送……と3K度合いの高い順に自動化され、いまでは大半の工程を、ほぼロボットに任せています。そして、そこで磨かれた技術が他の業界にも生かされ、市場が広がっていったのです。
「クリーン」もロボット導入の理由に
自動車産業に続いて積極的にロボットの導入を進めてきたのが半導体デバイスやIT機器を製造するメーカーです。業界全体に「お金持ち」の会社が多いという強みに加えて、もう一つ重要な理由がありました。そのキーワードが「クリーン」です。
メモリやプロセッサ、ディスプレイなどの半導体デバイスを製造するには、ちりやほこりが入るのを防ぐクリーンルームが欠かせません。しかも、高精細製品を作ろうとするほど空気清浄度は高くなっていくのですが、そのとき、もっともじゃまなのが人間です。私たちは常にさまざまな「不純物」を出し続けているので、できれば工場には入れたくない。それなら、作業の多くをロボットに任せてしまおう……となり、一気にロボットの導入が進みました。細かい製造工程から、「完成品を隣のテーブルの並べていく」といった単純作業まで無人化するにはさまざまなタイプのロボットが必要になり、そのことがロボット製品の多様化を促したのです。

図2 産業用ロボットの用途別出荷台数(2020年、受注・生産・出荷)
(出所:一般社団法人日本ロボット工業会の資料をもとに編集部作成)
この「クリーンつながり(*3)」がロボットの活躍場所を広げています。たとえば食品産業でも工場を無菌化することで安全性が高まりますから、省人化のニーズがあります。さらに、ほとんどの工業製品は「きれいな場所で作るほど品質が上がる」という鉄則があるので、ロボットの価格が下がれば導入したい業種はいくらでもあるのです。
「職場を奪われる」心配はなさらず
なお、こういう話をすると、必ず「ロボットに職場を奪われる」と心配する人がいますが、それは間違いです。工場で行うような作業はできるだけロボットに任せ、従業員は企画やサービスといった「人間が得意な仕事」に就くようになれば、組織としての力は強くなります。
電話、自動車、コンピュータなど、それまで人がやっていた仕事を代行してくれる機械は次々と出現しました。しかし、それによって失業者があふれることはなく、むしろ、新しい産業の誕生につながり、雇用の機会は増えたのです。それなのにロボットだけが労働者の敵になるということはありませんから、安心してください。
第5回は「医療用/サービス用ロボット予定です。
*1:電動のアクチュエータ
電動機というと回転式のモーターを指すことが多いのですが、ロボットでは直線往復運動をする動力装置も多く用いられるので、「モーター」ではなく「アクチュエータ」という呼び方が一般的です。
*2:個人でも買えそうな値段のデジタルカメラ
1994年11月にカシオ計算機から発売された「QV-10」は、それまで数百万、数十万円したデジタルカメラを6万5000円にまで下げ、衝撃を与えました。画素数は25万しかありませんでしたが、ここから視覚センサの大衆化が始まったのです。ちなみに、筆者もパソコン雑誌でレビュー記事を書きました。
*3:クリーンつながり
クリーンの先にあるのが、より高い安全性と「協働」です。つまり、人と至近距離で作業できるようになれば、いまのパソコンやコピーマシンのようにオフィスにも進出できるようにわるわけで、備品の搬送や巡回といった分野でも導入が期待されます。
石川 憲二(いしかわけんじ)
ジャーナリスト、作家、編集者 1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。30年以上にわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する解説記事を書き続けている。扱ってきた領域は、電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、システム、ロボット、エネルギー、生産技術、知的財産、経営、人事、マネジメントなど。
