自然災害リスクをどう考え、備えれば良いのか【化学業界の安全対策 第6回】

2021/08/31

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「化学業界の安全対策」シリーズは化学会社の新入社員など、若手を対象としています。

前回は、緊急時対応計画と事故調査について解説しました。

今回は、「自然災害への備え」についてです。

自然災害というと、津波による福島第一原子力発電所事故を思い起こす人も多いかと思います。しかし、化学工場も同じように自然災害の脅威にさらされています。工場を建設する場合、自然災害の可能性も考慮して建設場所を検討するのが理想ですが、なかなか難しいことです。また、建設済みの工場も、自然災害を受けやすい立地かもしれません。

用地の選定と設計時の考慮

これから工場用地を選定する場合は、ビジネスに都合が良いことはもちろんですが、その場所の自然災害のリスクも考えておくべきです。狭い日本では、生産や出荷に都合がよく、自然災害の心配がないという場所はそうはないでしょうし、予算の都合もあります。

そこで、工場を建設する際には、どのような自然災害を受ける可能性があるかを考えておくのが、プロセス安全の考え方です。まず、工場の敷地の地理的条件や過去の災害の記録を確認して、設計に反映します。最近は「今までに経験したことのない○○」といった大きな自然災害が頻発しています。洪水や津波などは、広範囲の影響を考慮しなければなりません。

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図1 工場敷地の地理的条件

例えば、図1の③の場所は裏山が崩れてくるかもしれません。その他の場所は津波や高潮の影響を受ける可能性があります。②と③は川の氾濫も考慮しなくてはならないでしょう。

既存設備の対策は現状把握から始める

既に建てられた多くの工場は、自然災害リスクの問題を十分に考慮した設計になっていません。そこでまず、現在の工場はどのような自然災害に備えた設計になっているのかを確認することから始めましょう。もし、現在の状態が近い将来の災害に十分ではないと判断された場合は、その予想被害の大きさを考慮して対策を打つ必要があります。

自然災害を2種類に分けて考える

では、どのような自然災害が存在するかを考えてみましょう。ここでは、短期的(突発的)なものと、長期的なものとに分けることにします。

短期的なものには、地震とそれによる津波、豪雨や長雨による河川の氾濫や土砂崩れ、台風などによる強風や高潮、火山の噴火による噴石や火山灰、豪雪による雪崩や建物の倒壊、山火事による延焼などがあります。

一方、長い期間をかけて被害が進むものには、地盤沈下や地滑り、動植物による侵食、潮風による金属腐食などが挙げられます。

自分の工場がどの自然災害の危険にさらされているかを把握して、対策を講ずることが大切です。

短期的対応のために日頃から備えておく

全ての自然災害に完璧に対応した設計ができている工場はありません。そこで、もうすぐ来るとわかった自然災害に対して一時的な対策を行うことがよくあります。

最近は天気予報の精度が上がり、台風の接近や豪雨・豪雪については事前に情報を得ることができるので、対策を講ずる時間があります。浸水の可能性を考慮して濡れさせたくない物を高い場所に移動したり、水の侵入口をふさいだり、強風で物が飛ばされたり、飛ばされた物で装置を壊されないように保護したり、壊れる可能性のある容器や配管から危険な化学物質を抜き取ったりする、などの対策が考えられます。

これらの対策は、予報を聞いてからではなく、平時から考えておけば、慌てずに正しい行動を取ることができます。対策のために、必要な道具や装置をあらかじめ用意することも可能です。家庭で防災用品をそろえておくのと同じ考えです。

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図2 短期対策のための準備も必要

「化学業界の安全対策」シリーズの最後に

「化学業界の安全対策」シリーズはこれで終わります。これからプロセス安全に取り組む皆様に、ほんの入り口部分を紹介しました。安全はまず、自分自身の安全を考えて行動し、次に仲間の安全、工場の安全、地域の安全、と広げて考えるアプローチが大切です。皆様が事故に遭わず無事に業務を遂行できることを祈ります。

【書籍紹介】

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若い技術者のためのプロセス安全入門

原書名:Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers

著者名:化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳  発行元:丸善出版

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=303093

竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net

AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。