緊急時対応計画と事故調査【化学業界の安全対策 第5回】
2021/08/17
「化学業界の安全対策」シリーズは化学会社の新入社員など、若手を対象としています。
前回は、協力会社のプロセス安全について解説しました。
今回は、「緊急時対応計画と事故調査」について考えましょう。
どんなに設備の安全性を高め、作業手順を安全に定めても、それらは全て人間が作ったものです。人間は完璧ではないので、何か間違いを起こすことがあります。それは設計や建設でのミスかもしれないし、設備を運転中のミスかもしれません。ミスのために火災・漏洩・爆発といった大事故が発生するかもしれないと考えるのがプロセス安全です。
事前に事故を想定して緊急時対応計画を立てる
万一、大きな事故が発生してしまったら、プラントにいる人たちはどう行動すべきでしょうか。事故の拡大を止めるために何をするのか、火災の場合は誰が消防署に連絡するのか、プラントの中の人たちはどう避難するのか、プラントの外に影響を及ぼした場合はどうするのか、などさまざまな問題が考えられます。
これらを事故が発生してから考えたのでは、後手後手に回り、第二、第三の事故を起こしかねません。多くの工場では、地震や火災が発生した場合に備えて避難訓練を行っています。

図1 何が起こり得るかを想定して、緊急時対応計画を立てる
危険な化学物質を扱っている化学プラントでは、それらが火災・漏洩・爆発となった場合を想定して「緊急時対応計画」を立て、万一それが現実になったときに、慌てずに正しく行動できるようにすることがプロセス安全で求められています。
事故調査の目的は安全管理システムの弱点を把握して再発を防止すること
不幸にして火災・漏洩・爆発などの事故が現実となった場合は、プロセス安全管理の方法に見落としや間違いがあった証拠です。したがって、事故調査を行って事故の根本原因、すなわち安全管理システムの弱点を把握して改善することで、事故の再発防止をしなければなりません。そのためには、現実をしっかりと把握して、事故がなぜ発生したかを分析し、現実的な対策を作成しなければなりません。
事故の分析手法はいろいろありますが、フォルトツリー解析(FTA)という方法をお勧めします。FTAは、最も厳密に事故を分析するのに適しています。ただ、厳密である分、少し勉強しなければなりません。

図2 FTAで改善すべきポイントを探す例
FTAでは、なぜ事故が起きたか、その直接原因となった事象(危ない状態や行動を含む)を少しずつ過去に遡りながら探します。ANDの記号は、下の事象が全てそろった場合に上の事象が起こることを表します。ORの記号は、下の事象のどれか一つでも起これば上の事象が生ずるものです。このように探していくと、実に多くの事象が事故に関わっていたかがわかります。
図2の例では、事故の原因事象が4つあることを示しています。しかし、洗い出した原因事象全てに対策を打つ必要はありません。本質的な問題を解決して再発防止ができれば良いのです。このFTAでは左から2番目の事象が起こらないように対策することで事故の防止が可能になります。ANDの下の事象を一つだけ、完璧に防止が出来れば、事故は再発しないからです。
このように、事故には多くの事象が関わりますが、「どの事象が起こらないようにするのか」を考えるのが、事故調査の目的です。そこでポイントとなるのは、安全管理システムの問題点を探し出すことが大切で、「人がミスをした」で止めてはならないことです。事故を起こそうとして行動する人は誰もいません。その人にそうさせた原因があるはずです。誰も教えていなかったか、安全教育のやり方に問題があったのかもしれません。
安全管理システムのどこに事故の原因があったかを把握したら、その解決策を作ってすぐに実行しなければなりません。なぜなら、ぐずぐずしているうちに同様の事故がまた発生する可能性があるからです。
実は、事故調査は大きな事故が発生しなくても行うことがあります。例えば、危うく事故になるところだったが、誰かが機転を利かせて事故を防いだとします。しかし、他の人だったら事故になっていたかもしれません。このように、事故にならなかったが危なかった経験はヒヤリハットと呼ばれますが、このとき事故調査をすることで、重大事故を未然に防ぐことに役立ちます。
次回は、自然災害への備えについて解説します。
【書籍紹介】
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若い技術者のためのプロセス安全入門
原書名:Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers
著者名:化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳 発行元:丸善出版
竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net
AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。
