プロセス安全において変更管理の種類とポイントを押さえる【化学業界の安全対策 第2回】
2021/07/06
「化学業界の安全対策」シリーズは化学会社の新入社員など、若手を対象としています。
今回は、安全管理システムが機能している中で、「変更管理」が果たす役割について説明します。
連載の目次
第2回:プロセス安全において変更管理の種類とポイントを押さえる
第3回:設備の老朽化対策の種類とポイントを押さえる
第4回:協力会社にはプロセス安全について何を求めるべきか
第5回:緊急時対応計画と事故調査
第6回:自然災害リスクをどう考え、備えれば良いのか
プラントでは「変更」が珍しくない
前回では「安全な設備」を「安全に作業」することが大事故を防ぐために必要で、それを行っていたとしても、人は間違えるものであることから「事故の場合」も想定しておく必要があること、そして、それらの活動は従業員の活動によって支えられていることを説明しました。
第1回はこちら:化学業界における安全管理の3本柱とは?
今回は、プロセス安全における「変更管理」について解説します。プラントは「新規技術」の導入、「老朽化対策」、「人事異動」、事故後の「再発防止」などのために「変更」が必要になる場面が少なくありません。いずれの場合も、変更の内容を把握して管理することが、安全な設備において安全に作業するために欠かせません(図1)。それぞれについて解説します。

図1 変更管理が守る「安全な設備」と「安全な作業」
変更管理1 新規技術
ビジネスの世界は競争社会です。どの会社も、ライバルよりも優れた製品を世に出して売り上げを伸ばしたいと考えています。また、製造コストを下げてより良い製品をより安く提供できれば、会社も利益を増やし、社会にも貢献できることになります。そのため、多くの会社は技術開発にしのぎを削っています。
この努力によって、新たな製品を製造することになった場合、新たな原料を用いたり、製造プロセスを変更したりする可能性があります。新たな原料を使う場合、それは現在の設備の安全性に影響を与えないだろうか、人への健康被害の可能性はないだろうか、工場内にある他の物質と危険な反応をすることはないだろうか、などを検討しなければ、知らないうちにハザードを工場内に持ち込むことになります。
これらの検討は、プラントを建設したときと同じように、ハザードの特定からリスク分析、設備面の対策と作業面の対策の立案と実行によって実現します。
変更管理2 老朽化対策
設備を長く使用していれば、メンテナンスを行っていても、その寿命を迎えます。設備が壊れて使えなくなる場合もあれば、陳腐化して部品供給が困難になる場合もあります。
老朽化対策では、プラントをすべて建て直すこともありますが、多くの場合はプラントの一部を更新する方法をとります。その場合、古い部分と新しい部分が混在することになるので、それぞれの部分の安全は確保されていても、その境界箇所に思わぬハザードが生じる可能性があります。
変更管理3 人事異動
プラントの設備が老朽化するように、作業を行う人も歳を取ります。経験を積めば、昇進して監督者として働くことになるかもしれません。そうすると、それまでの知識や経験だけでなく、より広い知識やスキルが必要になるので、安全面でもトレーニングが必要になります。また、その人が行っていた仕事を別の人が行うことになるので、その人にも適切な安全教育が必要になります。企業同士の合併や吸収の際には、人事異動が付き物ですが、安全教育に手落ちがあってはなりません。
変更管理4 再発防止対策
事故やヒヤリハットを分析した場合は、その原因を把握して再発防止を行うことが大切です。再発を防止するとは、今まで通りではなくなるということです。設備に安全対策を施したり、作業手順を変更したりします。このときも、その変更により新たなハザードが生じないかを確認する必要があります。
「何が変更か」を認識することが重要
このように、「変更」は様々な種類ときっかけがあります。そこで大切なことは、「何が変更であるか」を認識することです。
何かを取り換えれば必ず「変更」かといえば、そうではありません。老朽化した部品を全く同じメーカーの同じ型番の部品に交換することは「同種の置き換え」といって、「変更」に含みません。なお、「同種の置き換え」は英語で Replacement-in-kind と言われ、RIKと略されることもあります。

図2 「同種の置き換え」でなければ「変更管理」が必要
プラントで働く人は誰も、何がRIKで何が「変更」かを理解しておく必要があります。例え、人事、購買、経理だとしても。
次回は、設備の老朽化対策について詳しく説明します。お楽しみに。
【書籍紹介】

若い技術者のためのプロセス安全入門
原書名:Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers
著者名:化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳 発行元:丸善出版
竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net
AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。
