化学業界における安全管理の3本柱とは?【化学業界の安全対策 第1回】

2021/06/22

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「化学業界の安全対策」シリーズは、化学会社の新入社員など、若手を対象としています。年長者には当然と思われることも少なくないでしょうが、ご自身が若手に話をする際の参考になれば幸いです。

第1回は、安全管理の考え方、特にプロセス安全について解説します。

連載の目次

第1回:化学業界における安全管理の3本柱とは?

第2回:プロセス安全において変更管理の種類とポイントを押さえる

第3回:設備の老朽化対策の種類とポイントを押さえる

第4回:協力会社にはプロセス安全について何を求めるべきか

第5回:緊急時対応計画と事故調査

第6回:自然災害リスクをどう考え、備えれば良いのか

多くの事故から生まれたプロセス安全

若手の皆さんにとって、化学工場(プラント)の事故がどれほど悲惨な結果をもたらす可能性があるか、身近ではないかもしれません。しかし、過去には多くの命を犠牲にした事故が相次ぎました。

世界最悪といわれる化学プラントの事故は1984年12月にインドのボパールで発生しました。農薬を生産していたプラントからシアン酸メチルという非常に危険な物質の蒸気が周辺地域に流出し、一夜にして2000人以上が死亡し、最終的には1万人以上の死者を出したといわれています。

この他にも、1974年のイギリス、フリックスボローの事故、1976年のイタリア、セベソの事故、1984年メキシコシティ―のペメックスの事故など、化学プラントの大きな事故が発生して、欧米では大きな社会問題になりました。

ヨーロッパでは化学プラントの事故防止を目的として「セベソ指令」が発令され、危険な化学製品を取り扱う会社が規制を受けています。イギリスでは、COMAH(重大事故災害管理規則)という法律が施行されました。アメリカでは、1985年にAIChE(米国化学工学会)がCCPS(化学プロセス安全センター)という組織を編成し、化学プロセスによる大事故を防止する活動を開始しました。1992年には、労働省に当たるOSHA(米国労働安全衛生管理局)からPSM(プロセス安全管理)に関する法律が出され、化学プロセスの安全が法制化されました。

日本でも、経済産業省は「スーパー認定事業所制度」の中で、安全管理の優れた事業所を優遇するなどしています。また、中央労働災害防止協会(中災防)も、欧米のプロセス安全の方法を取り入れた活動を支援しています。ただし、これらの制度や取り組みは、欧米のように法律で強制されていないため、各社が自主的に取り組んでいる状況です。

どの会社も、事故を起こしたいとは思っていません。しかし、会社が置かれた状況によって、プロセス安全への経営資源(人・物・金)の投入の仕方は異なります。皆さんは、その範囲でプロセス安全に取り組むことになります。

プロセス安全はプラントの火災・漏洩・爆発防止が目的

では、「プロセス安全」とは何なのでしょうか。それを理解することで、どう取り組んだらよいかわかるようになります。

「プロセス安全」は、プラントが火災・漏洩・爆発を起こさないことを主目的にしたもので、事業所で働く人たちの怪我や職業病の防止を目的としている「労働安全」とは別の概念です。

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図1 プラントに潜む大事故のリスク

プロセス安全の主目的である、火災・漏洩・爆発などの大事故のリスクからプラントを守るためには、「安全な設備」を「安全に運転」することが必須です。

「安全な設備」とは、設備の設計段階から安全を考慮し、その通りに建設し、安全に保守されている設備です。そのためには、リスクの実態を把握して対策を施し、常に安全性を確保する必要があります。

そして、「安全に運転」するには、運転する人はどのようなリスクが潜んでいて、何をしたら危険なのか、どうすれば安全に作業できるかを知っている必要があります。

このようにして、安全な設備を安全に運転したとしても、それは人間が作った装置であり、人間が行う操作なので、間違いがないとはいえません。したがって、「事故が起こってしまったらどうするか」も考えておく必要があります。また、事故が起こってしまったら、同じ事故を繰り返さないように、安全管理システムの欠陥を把握して正さなければなりません。

これらの活動はすべて、プラントで働く従業員の皆さんが行うべきものです。

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図2 「安全な設備」「安全な作業」「事故の場合」の活動を「従業員」が支える

今後、このシリーズでは、これらをもう少し詳しくお伝えする予定です。

【参考】

AIChE: American Institute of Chemical Engineers アメリカ化学工学会

CCPS: Center for Chemical Process Safety 化学プロセス安全センター

COMAH: Control of major accident hazards 重大事故災害管理規則

OSHA: Occupational Safety and Health Administration 米国労働安全衛生管理局

PSM: Process safety management プロセス安全管理

米国のPSM法規: Process safety management of highly hazardous chemicals.29 CFR 1910.119

【書籍紹介】

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若い技術者のためのプロセス安全入門

原書名:Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers

著者名:化学工学会 SCE・Net 安全研究会 訳  発行元:丸善出版

https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=303093

竹内 亮(Akira Takeuchi)/ SCE・Net

AIChE正会員。化学工学会SCE・Net 安全研究会幹事。早稲田大学理工学部応用化学科卒。米国Drexel University化学工学修士。三井造船株式会社(現 三井E&S)にてプロセス設計、マルチパーパスプラントなど新規事業の開発、デュポン株式会社にて建設プロジェクトの管理、安全コンサルタントなどを経験。埼玉工業大学で、化学工学の非常勤講師を7年間務め、現在は、事故分析・コミュニケーション研究所長としてプロセス安全を中心としたコンサルティング業務に従事。