その化学物質、大丈夫? 2,900物質への対象拡大に備え、把握・整備・アセスの3ステップを―化学物質管理【ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守 第5回】

2026/03/03

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製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者がお届けする「ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守」。化学工業の設備や物質に関する法令を毎回ひとつ取り上げて解説していきます。最終回となる第5回のテーマは「化学物質管理」です。労働安全衛生法ではこれまで、国が定めた特定の化学物質を中心に管理が行われてきました。2022年の法令改正により、こうした従来の仕組みに加えて、職場で使う化学物質を自分たちで把握し、安全性を考えて管理していくことが求められるようになりました。本記事では、これから学び始める方に向けて、事業者が押さえておきたい化学物質管理のポイントを紹介します。

目次

新制度導入、2026年4月には対象が改正前の4倍以上の約2,900物質に

「法律で規制されていない化学物質だから安全」とは限りません。国内で製造、輸入、使用されている化学物質は数万種類にのぼりますが、そのすべてが法律で規制されているわけではなく、危険性や有害性が十分に分かっていない物質も多く含まれています。

化学物質を原因とする労働災害の件数は、毎年およそ450件で推移しています。事故としてすぐに表面化するものだけでなく、数年後、数十年後になって健康影響が現れるケースもあります。その背景には、化学物質の危険性や有害性に関する情報が、必ずしも十分に共有されてこなかったという側面があります。

こうした状況を踏まえ、2022年5月に労働安全衛生法関連法令が改正され、新たな化学物質管理の制度が導入されました(図1)。この改正では、従来の規制に加え、事業者が職場で取り扱う化学物質を自ら把握し、管理していくことが求められるようになりました。対象となる化学物質は段階的に拡大されており、2026年4月には改正前の674物質の4倍以上となる約2,900物質に広がる予定です。

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図1:改正に関する国のリーフレット
⁠(出所:厚生労働省「新たな化学物質規制が導入されます」より一部抜粋)

以下では、事業者が取り組むべき化学物質管理の流れを、三つのステップに分けて整理します。

ステップ1:取り扱う化学物質を把握する

法令改正前、ラベル表示や安全データシート(SDS:Safety Data Sheet)による通知、リスクアセスメントの実施が義務付けられていた化学物質は上記の通り674物質でしたが、現在はその範囲が大きく広がっています。

これまで管理対象ではなかった製品や薬品が、新たに対象となる場合もあるため、事業場で取り扱っている化学物質を改めて把握する必要があります。

製品のSDSがある場合は、第3項「組成及び成分情報」や第15項「適用法令」などから含有成分を確認します。SDSから情報が得られない場合は、製品の提供元に問い合わせます。こうして得られた情報を基に、化学物質をリストアップします。

次に、これらが「リスクアセスメント対象物」に該当するかを確認します。対象物に該当する場合、ラベル表示やSDS交付、リスクアセスメントの実施が義務付けられています。厚生労働省が公表するリストやCAS番号*1で確認できます。

対象物に該当しない場合でも、危険性や有害性がある化学物質については、リスクアセスメントなどの実施が努力義務とされており、対応を検討することが求められます。

ステップ2:管理体制を整備する

次に行うべきことは、化学物質管理の体制を整備することです。リスクアセスメント対象物を製造したり取り扱ったりする事業場では、「化学物質管理者」を選任する必要があります。

一定の経験を有する者や、所定の講習を修了した者の中から、化学物質管理者を選任します。選任した人物には、リスクアセスメントの実施や管理、ラベル表示やSDSの内容確認など、化学物質管理の実務における中心的な役割を担ってもらうことになります。

また、リスクアセスメントの結果、労働者に保護具を使用させる場合には、「保護具着用管理責任者」を選任します。

これらの担当者を中心に、事業場の責任者や安全衛生管理担当者が関与し、労働者への周知や理解促進を進めることで、事業場全体として化学物質管理に取り組む体制を整えていくことが重要です。

ステップ3:リスクアセスメントを実施する

労働安全衛生法に基づくリスクアセスメントとは、リスクアセスメント対象物の危険性や有害性を特定し、それに基づいてリスクを見積り、必要なリスク低減措置を検討する一連の取り組みを指します(図2)。

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図2:リスク低減のための手順におけるリスクアセスメント
⁠(出所:労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所「ケミサポ」を参考にChematels編集部作成)

リスクの見積りは、物理化学的な危険性と健康有害性の両面から行います。危害の発生可能性と重大性を組み合わせて評価する方法や、数理モデルを用いる方法などがあり、具体的な方法は事業者の判断に委ねられています。実施にあたっては、厚生労働省が提供する支援ツール「CREATE-SIMPLE」などを活用することも有効です。

リスク低減措置には種類と優先順位があり、より信頼性が高い措置から検討します(図3)。具体的には、化学物質の使用中止や変更といった本質的な安全対策、設備による衛生工学的対策、作業手順の改善などの管理的対策、保護具着用の順です。

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図3:リスク低減措置の種類と検討の優先順位
⁠⁠(出所:労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所「ケミサポ」を参考にChematels編集部作成)

リスクアセスメント後は、必要な措置を講じるとともに、結果の記録や保存、労働者への周知を行うことが求められます。こうした対応は、衛生管理者や産業医の専門的な知見も踏まえながら進めていくことが重要です。

今日から始める、先取りの安全対策

現時点で危害が発生していなくても、化学物質には潜在的な危険性や有害性が存在する場合があります。それらを把握しないまま使い続ければ、労働災害につながるおそれがあります。

多種多様な化学物質が使用され、そのリスクが多様化している現在では、事故や健康被害が起きてから対応するのではなく、先取りした安全衛生対策を行うことが重要です。

まずは自社で取り扱う化学物質のリストアップから始めてみてください。公的機関が公開している情報や支援資料も参考にしながら、段階的に対応を進めていきましょう。

「安全衛生管理と法令遵守」は今回で終わりです。各回ともお読みいただきありがとうございました。

※ 本記事は、厳密さよりも分かりやすさを重視して情報提供することを目的としています。実際の化学物質管理の運用については、法令の原文を確認の上、必要に応じて行政へ問い合わせてください。また、法改正などにより内容が変更される場合がありますので、厚生労働省のホームページなどで最新情報をご確認ください。

注釈

*1:CAS番号
アメリカ化学会 (ACS:American Chemical Society) 発行の雑誌『ケミカル・アブストラクツ』(Chemical Abstracts)で使用される化合物番号。英語では、Chemical Abstracts Service Number。化学物質を特定するために最大10桁からなる番号が使われています。

参考文献

  1. 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html
  2. 労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所「ケミサポ」
    https://cheminfo.johas.go.jp/
  3. 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001091755.pdf

和地慎太郎(わちしんたろう)

ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。