職場での安全を保つ基本ルール、法と政令・省令を確実に読み解く ―労働安全衛生法【ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守 第1回】

2025/12/18

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製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者が今回より「ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守」をお届けします。化学工業の設備や物質に関する法令を毎回ひとつ取り上げて解説していきます。第1回のテーマは「労働安全衛生法」。「安衛法(あんえいほう)」とも呼ばれるこの法律は、現場で働く人が日々安全に仕事をするための基本ルールを定めています。「聞いたことはあるけれど、中身はよく知らない」という方も多いかもしれません。そこで安衛法のポイントと、条文を読み進めるコツを分かりやすく解説します。

目次

本連載で扱う項目

  • 第1回 労働安全衛生法
  • 第2回 消防法
  • 第3回 高圧ガス保安法
  • 第4回 毒物及び劇物取締法
  • 第5回 化学物質管理

労働者の安全と健康、快適な職場環境を確保しなければならない

製造業の現場では、安全啓発の掲示物が日常の風景となっており、最近は官公庁が人気キャラクター「仕事猫」とコラボした安全ステッカーも登場しています(図1)。

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図1:農林水産省の作業安全ステッカーの例

⁠(出所:農林水産省「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策」)

こうした取り組みが続く一方で、労働災害は後を絶ちません。その要因の多くは「業務に関する知識や経験の不足」といわれています。こうした災害を防ぎ、労働者の安全と健康、快適な職場環境を確保するためのルールを定めているのが「労働安全衛生法」(以下、安衛法)です。

新入社員のうちは会社のルールに従えばよい場面が多いものの、立場が変わると、安衛法に基づいて会社としてのルールを整え、周囲に守らせる役割が求められます。そのためには、法令を正しく読み取り、根拠に基づいて判断する力が必要です。

安衛法は範囲が広く、表面的な理解では誤った判断につながるおそれがあります。災害が起きれば労働基準監督署の調査が入り、「知らなかった」では済みません。罰則もあるため、日頃から根拠条文を確認しておくことが重要です。

安衛法の全体像を把握することから始める

安衛法を理解するには、全体像をつかみ、章ごとの役割を押さえることが大切です(図2)。そのうえで、自分の業務に関係する章から重点的に確認すると効率的です。

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図2:労働安全衛生法の全体像

以下では、製造業の現場で特に関わりの深い章の概要を紹介します。

「第三章 安全衛生管理体制」では、安全管理者、衛生管理者、作業主任者、産業医などの選任や、安全委員会の設置などについて定めています。事業規模や業種によって求められる内容が異なります。

「第四章 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」のうち、危険や健康障害の防止に関連する部分では、機械・設備、爆発性・発火性の物、電気・熱、墜落などの危険に対して、事業者が講じるべき措置を定めています。また、酸素欠乏、粉じん、放射線、騒音・振動など、健康障害の防止に関する内容も含まれています。

「第五章第一節 機械等に関する規制」では、ボイラーやクレーンなどの「特定機械等」を対象に、製造時の許可や検査義務が規定されています。

「第五章第二節 危険物及び有害物に関する規制」では、化学物質について、製造許可、ラベル表示、安全データシート(SDS:Safety Data Sheet)の交付、リスクアセスメントなどを定めています。2022年の規則改正により、表示やリスクアセスメントなどの義務が強化されました。化学物質を扱う企業にとって特に関わりの深い章です。詳しくは本連載第5回で解説します。

「第六章 労働者の就業に当たつての措置」では、雇い入れ時の安全衛生教育や、特定の作業に従事する際に必要な免許や技能講習について定めています。

「第七章 健康の保持増進のための措置」では、作業環境測定、一般健康診断、特殊健康診断、快適な職場環境の形成など、労働者の健康管理に関する規定です。

「第十二章 罰則」では、管理者の選任義務違反、安全衛生教育の未実施、必要な検査の未実施など、多くの罰則が設けられています。法令違反にならないよう確実な対応が必要です。

実務に必要なルールは政令・省令で確認

全体像をつかんだら、法律の条文を確認し、それに紐づく「政令」「省令」の順に読み解いていきます。安衛法では、政令にあたる「労働安全衛生法施行令」、省令にあたる「労働安全衛生規則」「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」「特定化学物質障害予防規則(特化則)」などが設けられています。このほか、必要に応じて告示や指針などで詳細が補われる場合もあります。厚生労働省のホームページ「厚生労働省法令等データベースサービス」に、関連する規定が掲載されていますので、ご参照ください。

実務で必要な具体的なルールの多くは、これらの政令や省令に示されています。どの規定が自分の業務に適用され、何を守る必要があるのかを把握しておくことが重要です(図3)。

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図3:労働安全衛生法の法体系

「作業主任者の選任」を法・政令・省令のステップで読み解いてみる

例として、労働安全衛生法第三章の第十四条「作業主任者の選任」を、どのように読み解くかを解説します(図4)。

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図4:作業主任者の選任に関係する法・政令・省令の例

法第十四条では、政令で定める作業について作業主任者を選任するよう定められています。そこで政令を見ると、政令第六条に選任すべき具体的な作業が示されており、さらに省令では、労働安全衛生規則第十六条に作業ごとの資格要件が定められています。

加えて、作業の種類ごとに個別の規則にも要件が示されており、例えば、有機溶剤を扱う作業では、有機溶剤中毒予防規則第十九条に有機溶剤作業主任者の選任に関する規定があります。

関連する規定は複数あるため、しっかりと確認することが重要です。例えば、上記の場合では、全条文が書かれた政令や省令のページ上で「法第十四条」「令第六条」などと検索すれば、規定のある箇所を把握することができます。

法令は随時改正されるため、最新の条文にあたり、正確なルールを把握する必要があります。条文を読み解く作業は慣れるまで負担に感じるかもしれませんが、一度身につければ他の法令にも応用できます。安衛法を正しく読み解く力は、業務上の判断や現場の安全確保に大きく役立ちます。

次回の第2回では「消防法」についてポイントを解説する予定です。

※ 本記事に記載した内容は、厳密さよりも分かりやすさを重視して情報提供することを目的としたものです。実際の労働安全衛生法の運用については、法令の原文を十分確認し、行政への問い合わせなどにより対応してください。また、法改正などにより、記事掲載内容から制度が変更されている場合がありますので、厚生労働省のホームページなどで最新情報をご確認ください。

和地慎太郎(わちしんたろう)

ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。