危険な劇物、もっと危険な毒物…管理の形骸化は大敵―毒物及び劇物取締法【ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守 第4回】
2026/02/17製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者がお届けする「ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守」。化学工業の設備や物質に関する法令を毎回ひとつ取り上げて解説していきます。第4回のテーマは「毒物及び劇物取締法」です。普段、化学薬品を扱う方であれば、「毒物」「劇物」の表示を目にする機会も多いのではないでしょうか。「毒物」と「劇物」はこの法律により毒性の強さに応じて区別されています。本記事では、毒物及び劇物取締法の初学者の方たちに向けて、法令の基本的な考え方や、実務で押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 労働安全衛生法
- 第2回 消防法
- 第3回 高圧ガス保安法
- 第4回 毒物及び劇物取締法
- 第5回 化学物質管理
毒物・劇物の取り扱いや管理方法を規制…盗難防止も目的
毒物及び劇物取締法(以下「毒劇法」)は、日常で流通する化学物質のうち、急性毒性によって人の健康に被害を及ぼすおそれが高い物質を「毒物」または「劇物」に指定し、その取り扱いや管理方法を規制する法律です。
毒劇法の目的は、毒物・劇物の漏えいや流出、盗難や紛失を防止し、事業所内にとどまらず、第三者への健康被害を未然に防ぐことです。
毒物・劇物は産業活動に欠かせない一方、管理を怠れば事故や犯罪につながるリスクが伴います。法令で定めるルールを厳守し、日常的な管理を徹底することが重要です。
「毒物」と「劇物」の違いは毒性の強さ
毒劇法では、化学物質を毒性の強さに応じて「毒物」と「劇物」に区分しています。毒性がより強いものを毒物とし、その中でも特に強いものは「特定毒物」として位置付けられています(図1)。
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図1 特定毒物・毒物・劇物の該当品目の例と根拠条文
毒物・劇物に該当する化学物質は多岐にわたり、法第二条別表および「毒物及び劇物指定令」に定められています。これらの規定では、「化学物質名のみ」で指定されているものと、「化学物質名およびこれを含有する製剤」として指定されているものがあります。ここでいう「製剤」とは、希釈や混合により調整されたものを指し、「〇%以下を除く」とない限り、その化学物質を少量でも含んでいれば毒物・劇物に該当します。
化学業界の企業では、日常的に使用している化学薬品の中に、毒物・劇物が含まれるケースも少なくありません。
登録を受けなければ「製造」「販売」「輸入」できない
毒劇法では、毒物・劇物の「製造」「販売」「輸入」を原則として禁止しています。これらの行為を行うには、国や都道府県などの登録を受ける必要があります。
登録を受けるためには、漏えいや盗難を防止するための対策が講じられた施設であることなど、一定の基準を満たさなければなりません。また、製造業や輸入業は5年ごと、販売業は6年ごとに登録の更新が必要です。
登録を受けた事業者は「毒物劇物営業者」と呼ばれ、毒物劇物取扱責任者の設置のほか、譲渡手続きや安全データシート(SDS:Safety Data Sheet)の提供など、さまざまな義務が課せられます。
一方、製造や販売などを行わない場合でも、業務上、毒物・劇物を扱う場合には「業務上取扱者」に該当します。毒物劇物営業者と同様に、漏えいや盗難の防止、毒物・劇物の表示、運搬・貯蔵・廃棄に関する基準などを遵守する義務があります。
毒物劇物営業者および業務上取扱者に課せられる規制の概要を図2に示します。
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図2:毒劇法の規制の概要
(出所:厚生労働省「化学物質の適正な評価・管理を推進し、安全性を確保すること(施策番号Ⅱ-4-1)」を参考にChematels編集部作成)
正確な把握、形骸化の防止、事故時の適切対応が実務のポイント
毒劇法を適切に運用するために、実務として特に意識しておきたいポイントを3点、解説します。
一つ目は、毒物・劇物を正確に把握することです。毒物・劇物に該当するかを調べるには、法令の確認に加え、製品評価技術基盤機構(NITE)の「化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)」を活用すると便利です。物質名やCAS番号*1から検索でき、他法令での規制対象かどうかも確認できます。判断が難しい場合は、自己判断せず、行政機関に相談することが確実です。また、法令改正により新たに指定される物質もあるため、厚生労働省の審議会資料などを参考に、最新情報を把握しておくことが重要です。
二つ目は、管理を形だけにしないことです。毒物・劇物による漏えいや盗難に関する事故は、全国で毎年発生しています。設備の腐食や破損、作業手順の誤り、施錠や帳簿管理の不備など、さまざまな要因が背景にあります。日常業務として慣れている作業ほどリスクへの意識が薄れやすいため、毒物劇物管理責任者を中心に、管理体制が形骸化していないか、リスクが潜んでいないかを定期的に確認することが、事故防止につながります。
三つ目は、事故時に迷わず動けることです。毒物・劇物の盗難や紛失が発生した場合には警察署への通報が義務付けられており、漏えいや流出時には、状況に応じて警察署、消防署、保健所などへの通報が必要です。被害状況によっては、中和剤や除害剤による応急措置や、周辺住民への周知や退避が求められる場合もあります。こうした対応経過や通報時刻は行政に記録され、事後に公表される可能性もあります。事故を起こさないことが前提ですが、万一に備え、平時から対応手順を確認しておくことが、毒劇法を適切に運用する上で欠かせません。
次回の第5回では、労働安全衛生法における「化学物質管理」についてポイントを解説する予定です。
※ 本記事は、厳密さよりも分かりやすさを重視して情報提供することを目的としています。実際の毒物及び劇物取締法の運用については、法令の原文を確認の上、必要に応じて行政へ問い合わせてください。また、法改正などにより内容が変更される場合がありますので、厚生労働省のホームページなどで最新情報をご確認ください。
注釈
*1:CAS番号
アメリカ化学会 (ACS:American Chemical Society) 発行の雑誌『ケミカル・アブストラクツ』(Chemical Abstracts)で使用される化合物番号。英語では、Chemical Abstracts Service Number。化学物質を特定するために最大10桁からなる番号が使われています。
参考文献
- e-Gov法令検索「毒物及び劇物取締法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000303/20220617_504AC0000000068 - 厚生労働省「毒物劇物対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/dokugeki.html
- 厚生労働省「毒劇物盗難等防止マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/manu.pdf - 厚生労働省 2025年1月20日更新「毒物及び劇物取締法Q&A」
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001606253.pdf
和地慎太郎(わちしんたろう)
ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。
