空気もCO2も圧力をかければ「高圧ガス」に―高圧ガス保安法【ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守 第3回】

2026/02/03

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製造業の現場経験と自治体での環境行政の実績を持つ筆者がお届けする「ポイント解説!安全衛生管理と法令遵守」。化学工業の設備や物質に関する法令を毎回ひとつ取り上げて解説していきます。第3回のテーマは「高圧ガス保安法」です。製造業、特に化学分野では、高圧ガスを扱う場面が多く、高圧ガス保安法の理解は不可欠です。一方で、関連する規則も多く、すぐに全体像をつかむのは容易ではありません。本記事では、高圧ガス保安法を学ぶ入り口として、まず押さえておきたい考え方を分かりやすく解説します。

目次

本連載で扱う項目

酸素・窒素・水素などの産業ガス、高圧での利用が一般的

酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス、ヘリウム、水素など、製造業の現場では多くの産業ガスが使用されています。溶接や熱処理から分析、反応工程に至るまで、その用途は幅広く、現場の生産活動を支える重要な存在といえます。

これらの産業ガスは、一般に高い圧力をかけた状態で圧縮、あるいは液化された状態で扱われます。一方、取り扱いを誤ると、破裂や爆発による創傷、ガス漏えいによる中毒や窒息など、大きな労働災害につながるおそれがあります。

高圧ガスによる災害の防止が法の目的…政令・省令もあり

高圧ガス保安法は、こうした高圧ガスによる災害の発生を防止することを目的とする法律です。その法令は、法律や政令に加え、複数の規則によって構成されています(図1)。

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図1:高圧ガス保安法の体系
⁠⁠(出所:大阪府「高圧ガス保安法の概要」を参考にChematels編集部作成)

自社の事業活動にどの規定が関係するのかを正確に把握するためには、まず高圧ガスとは何か、どのような考え方で規制されているのかといった全体像をつかむことが重要です。

温度・圧力の「状態」で高圧ガスかどうかが決まる

高圧ガス保安法では、高圧ガスとして「圧縮ガス」「圧縮アセチレンガス」「液化ガス」「政令で定める液化ガス」の四つが定義されています(図2)。

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図2:高圧ガスの定義
⁠(出所:経済産業省「高圧ガス保安法逐条解説―その解釈と運用―」における図を元にChematels編集部作成)

また、高圧ガスか非高圧ガスかを判定するためのフローが確立されています(図3)。

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図3:高圧ガスの判定フロー
⁠(出所:経済産業省「高圧ガス保安法逐条解説―その解釈と運用―」における図をChematels編集部改編)

ここで重要なのは、高圧ガスの定義が、ガスの種類そのものではなく、「一定の温度と圧力にある状態」に着目して、なされている点です。例えば、窒素や酸素といった身近なガスであっても、一定以上の圧力で圧縮されていれば高圧ガスに該当します。まずはこの考え方を押さえておくことが重要です。

製造から廃棄までの各工程で規制あり

高圧ガス保安法では、高圧ガスの「製造」「貯蔵」「販売」「移動」「消費」「廃棄」といったライフサイクル全般にわたって規制が課せられています。それぞれの工程について、許可や届出の要否、技術上の基準、検査、保安教育などが定められています。ここでは、特に製造業の現場に関係が深い「製造」「貯蔵」「消費」について解説します。

高圧ガス保安法における「製造」は、一般的な意味での「物を作ること」とは異なります。圧力を変化させるなどして高圧ガスの状態を作り出すことや、容器に充填することが「製造」に該当します。これらを行う場合、ガスの種類や1日の処理能力に応じて、許可または届出が必要です。

「貯蔵」は、容器や貯槽に充填した高圧ガスを、一定の場所に停滞させて保管することを指します。輸送の途中であっても、長時間おなじ場所に置かれている場合は、貯蔵とみなされることがあります。貯蔵量やガスの種類によって、許可や届出の対象となります。

「消費」とは、高圧ガスを燃焼や反応、溶解などの目的で使用し、減圧して高圧ガスではない状態にすることを指します。中でも、圧縮水素や圧縮天然ガス、液化酸素など、政令に定められた一部のガスは「特定高圧ガス」と呼ばれ、消費開始前に届出が必要です。これに該当しない場合でも、可燃性ガスや毒性ガス、酸素、空気については、使用場所や数量、取り扱い方法に関する技術上の基準が定められています。バルブの開閉方法や転倒防止など、現場で日常的に行われている安全対策の多くは、これらの規定に基づくものです。

高圧ガスの種類によって規制内容が変わることも

実務においては、自社で扱う高圧ガスがどの工程に該当するかに加えて、ガスの種類も確認しておく必要があります。高圧ガスの種類によって、適用される基準や要件が異なる場合があるためです。

例えば、「製造」や「貯蔵」に関する規定では、ヘリウムなどの不活性ガスや空気といった比較的安全なガスを「第一種ガス」、それ以外を「第二種ガス」とする区分があり、それぞれで許可要件などが異なります。また、可燃性ガスや毒性ガスなど、物性による区分では、適用される技術上の基準が異なる場合があります。

このように法令上の区分を押さえ、自社で扱う高圧ガスがどの区分に該当するかを把握しておくことは、関係する規制を確認する上で重要です。

法令理解を組織で深めることが事故防止につながる

高圧ガス保安法の規定は多岐にわたり、それぞれを正確に読み解くには一定の時間と経験が必要です。企業として法令遵守を徹底するためには、担当者個人に任せきりにするのではなく、組織としての体制づくりが欠かせません。

法令への理解を組織で深めていくとともに、一人一人が自ら保安意識を持って行動することが、事故を未然に防ぐことにつながります。

次回の第4回では「毒物及び劇物取締法」についてポイントを解説する予定です。

※ 本記事は、厳密さよりも分かりやすさを重視して情報提供することを目的としています。実際の高圧ガス保安法の運用については、法令の原文を確認の上、必要に応じて行政へ問い合わせてください。また、法改正などにより内容が変更される場合がありますので、経済産業省のホームページなどで最新情報をご確認ください。

参考文献

  1. 高圧ガス保安法(e-Gov)
    ⁠⁠https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000204
  2. 経済産業省「高圧ガス保安法逐条解説―その解釈と運用―」
    https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/hipregas/files/20220328chikujo1_hou_rei.pdf
  3. 大阪府「高圧ガス保安法の概要」
    https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/34715/koatsugas_gaiyo2.pdf
  4. 富山県高圧ガス安全協会「高圧ガス製造許可申請等の手引き」
    https://www.toyama-kak.jp/guideline/guideline-list

和地慎太郎(わちしんたろう)

ライター(元技術系公務員)。東北大学大学院応用化学修了後、大手製造業で電子材料などの製造開発に従事。その後、地方公務員の化学技術職として、製造業者など多数の企業に対し、廃棄物処理など環境分野での施策を実施。環境省認定制度脱炭素アドバイザー、公害防止管理者、廃棄物処理施設技術管理者の各資格を保有。ビジネス系webメディアや製造業者のwebサイトなどで主に執筆。新著に『ビジネス教養として知っておくべきカーボンニュートラル』(ソシム)がある。