中国の猛威に対抗策は…特許ポートフォリオ強化で競争優位の確保を!【ペロブスカイト太陽電池の現在地 第5回】

2025/12/09
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Chematelsの連載「ペロブスカイト太陽電池の現在地」をお届けしています。第5回は、ペロブスカイト太陽電池の特許動向と知財戦略についてです。勢力の著しい中国をはじめとする各国との国際競争はすでに激化しており、日本は、強みを生かす知財戦略で競争優位性を確保することが求められます。SK弁理士法人の奥野彰彦氏が寄稿します。

目次

激化する国際競争、日本はIPFで優位に立つが…

ペロブスカイト太陽電池は、軽量・柔軟といった特徴から、従来の太陽電池では設置が困難だった場所での利用拡大が期待される次世代型技術であり、世界中で研究開発競争が激化しています。特に、日本はペロブスカイト太陽電池の技術の発祥国として、国際的な知財競争において重要な位置を占めています(文献1)。

ペロブスカイト太陽電池関連技術における国際競争力を示すとされている国際展開発明件数(IPF:International Patent Family)では、日本国籍が30.3%と首位を占めており、日本が一定程度の優位性を保っていることが示唆されています(図1)。技術区分別でも、ほとんどの区分において日本のIPF件数が最も多く、日本の技術優位性が明らかです。出願人ランキングにおいても、富士フイルム、パナソニックなど、上位20者中9者が日本国籍の出願人です(文献1)。

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図1:出願人国籍・地域別IPF件数推移および件数比率。出願先:日米欧中韓国 国際特許出願(WO)、優先権主張2009〜2022年。2021年以降は、データベース収録の遅れや特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく出願の各国移行のずれなどにより、全データを反映していない可能性がある
⁠(出所:特許庁 2025年3月公表「令和6年度 特許出願技術動向調査報告書(要約)-ペロブスカイト太陽電池関連技術-」をもとにChematels編集部作成)

中国が脅威に…材料などの要素技術を席巻する勢い

しかし、直近の動向には注意が必要です。特許出願の先行指標となる学術論文の発表件数では、中国籍が約49%と圧倒的な1位であり、日本籍の比率3.7%は中国の13分の1程度に留まっています(文献1)。また、国際競争力を示すとされているIPFではなく、単なる特許出願(PF:Patent Family)の総数でみると、中国籍の出願が全体の約56%を占めており、特に2015年頃から急激に増加しています(図2)。

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図2:出願人国籍・地域別非IPF特許出願件数の比率および推移。出願先・優先権主張期間・注記などは図1と同様
⁠(出所:特許庁 2025年3月公表「令和6年度 特許出願技術動向調査報告書(要約)-ペロブスカイト太陽電池関連技術-」をもとにChematels編集部作成)

中国は過去に国内特許出願に偏重していましたが、2020年代に入り、品質向上の指導と外国出願支援の強化により、海外への出願を急増させています。この傾向は、数年のタイムラグを経て、国際的な特許ポートフォリオにおいても、中国勢が材料などの要素技術を席巻する可能性を示唆しています(文献1)。

特に、直近のIPF分析では(図3)、中国が「生産技術」の分野で日本のシェアを直近期間で2%ほど上回っています。また、「セル技術」や「モジュール化技術」においても差が縮まっており、セル構造ではp型半導体層・i型ペロブスカイト多結晶層・n型半導体層からなるPIN構造、ペロブスカイト層の材料ではオール無機、生産技術ではペロブスカイト層形成工程といった重要技術区分で、中国の注力度と伸び率が日本を上回り、数年後の脅威となる可能性が指摘されています(文献1)。

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図3:ペロブスカイト太陽電池経済安全サプライチェーン関連特許の国籍別シェア。下段の分析対象期間は2009〜2022年
⁠(出所:特許庁 2025年3月公表「令和6年度 特許出願技術動向調査報告書(要約)-ペロブスカイト太陽電池関連技術-」をもとにChematels編集部作成)

中国勢は、特に、既存のシリコン太陽電池にペロブスカイト太陽電池を積層し変換効率を高める「タンデム型」に注力しており、これはメガソーラーの設備更新など大規模市場での勝機を見出そうとした結果と分析されています。中国の協鑫光電(GCL Perovskite)は2025年内の香港での新規株式公開を目指し、ペロブスカイト太陽電池の分野で世界初の上場企業となる見込みです(文献2)。

中国企業はさらに、酸化物ナノ粒子コーティング技術や革新的な不活性化技術を開発し、大面積での均一な成膜や薄膜の寿命理論値20年以上を目指すなど、量産化と効率・安定性の課題を急速に克服しています。最大2400mm×1215mmの量産レベルの薄膜形成装置を開発するスタートアップも資金調達を完了しており、製造装置分野での追い上げも顕著です(文献3・4・5)。

日本は独自の知財戦略で競争優位性の確保めざす

国際競争が激化する中で、日本企業は独自の知財戦略を構築しています。それは大きく次の四つにまとめられます。

第一は、安定性・耐久性および特定用途への強みです。日本勢は、ペロブスカイト太陽電池の安定性や耐久性に資する材料関係の技術に強みをもっています。特に、耐候性の向上や耐久性の向上といった分類では、日本のIPF件数でのシェアが40%を超えており、安定性向上への課題に対して積極的に特許出願がなされています。

また、ペロブスカイト太陽電池の特性を生かすことのできる特定用途においても優位性があります。建物利用に関する工場・倉庫では日本のシェアが46%で優位性を確保しており、住宅でも米国が追随しているものの件数で1位です。さらに、低照度/屋内/環境光利用といった分野でも、日本がIPF件数で優位にあることが示されています(文献1)。

第二は、サプライチェーンと経済安全保障です。ペロブスカイト太陽電池の主要原材料であるヨウ素について、日本は約26%という世界第2位の生産量比率を占めており、海外に依存していたシリコン型とは異なり、原材料の安定確保という点で経済安全保障上の優位性をもつ可能性があります(文献1)。

第三は、製造プロセスにおける基本特許戦略です。日本の知財戦略の注目を集めている成功事例として、京都大学・若宮研究室の技術シーズをもとに起業した大学発ベンチャーのエネコートテクノロジーズ(本店京都府久御山町) が保有する基本特許群が挙げられます。

特に、溶液法による発電層塗布プロセスに関する特許ポートフォリオが次にあるように強力です。

  • JP6362868B2は、ハロゲン化鉛などのペロブスカイト原料の水分含量を200ppm以下に脱水することを特徴とする製造方法を保護しています。
  • JP7389018B2は、スズ系ペロブスカイト層の製造において、特定の温度(45℃〜100℃)に温めた貧溶媒を塗布する工程を含む製造方法に関する特許です。
  • JP7432088B2は、スズ系ペロブスカイト層の製造方法において、特定の還元剤とフッ化スズを添加してペロブスカイト前駆体溶液を得る工程を特徴としています。
  • JP6902269B2は、ロール・トゥ・ロール製造などに適した特定の錯体(ペロブスカイト前駆体)を保護する物質特許です。

これらの特許は、ロール・トゥ・ロールによるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の市場参入を目指す企業に対して、慎重な回避設計を要求する「待ち伏せ」特許戦略の勝利と評されており、トヨタグループの豊田合成がエネコートテクノロジーズに投資した背景の一つと見られています。

一方で、競合他社であるPXP(本社神奈川県相模原市)は、エネコートテクノロジーズの溶液法の基本特許を回避するために、技術的に優れているものの高コストな蒸着法を採用するという対抗戦略を取っています。PXPには豊田通商が投資しており、トヨタグループは両社に投資を行うという、したたかな「両建て戦略」を展開しています。

第四は、侵害検証の容易な特許への着目です。中国の追い上げに対し、特許侵害に対応しやすい特許、すなわち外部から侵害を確認しやすい電極、モジュール構造、セル接続・配線などの技術区分での出願が重要となります。日本国籍の出願人は既にこれを意識している可能性があり、特に電極で33.0%、またモジュール構造で31.8%といったように、IPFにおいて高いシェアを占めています(文献1)。

中米の「パワーサイエンス」に特許ポートフォリオ強化などで対抗を

日本政府は、ペロブスカイト太陽電池を国際競争力および経済安全保障の観点から重要視し、グリーンイノベーション(GI:Green Innovation)基金において次世代太陽電池の開発に648億円の予算を付けたのに加え、2025年度からペロブスカイト太陽電池の設置補助事業に50億円を計上したほか、固定資産税の軽減措置の対象に追加する決定をしています(文献6、文献7)。ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン太陽電池と異なり、主要原材料であるヨウ素が日本国内で安定調達可能な点も、経済安全保障を考慮した場合のサプライチェーン上の大きな強みであるためです(文献8)。

日本企業としては、過去のシリコン太陽電池産業における技術流出や国際競争力喪失の反省を踏まえ、材料加工・成形および製造プロセスに関わるノウハウを競争力の源泉とするフィルム型ペロブスカイト太陽電池の特性を生かし、中国や米国が行うような「パワーサイエンス」、すなわち巨額予算と人材による強引な短期間での産業化に対抗していくことが重要といえます。とくに日本勢の強みである材料加工・成形、温度・湿度の管理などを、特許とブラックボックス化したプロセスで守り抜くことが肝要です。

特に、完成品市場で競争に敗れたとしても生き残れるよう、材料・部品領域の特許ポートフォリオを強化し、半導体業界で日本が部品・材料および製造装置で圧倒的な存在感を発揮している成功パターンをペロブスカイト太陽電池でも再現すべきです。大企業としては新規事業リスクを回避するために、例えばエネコートテクノロジーズなどの大学発スタートアップとの事業提携を積極的に行い、オープンイノベーションの成果を事業化につなげる取り組みが重要となります(文献9)。

「ペロブスカイト太陽電池の現在地」は今回が最終回です。お読みいただきありがとうございました。

参考文献

  1. 特許庁 2025年3月「令和6年度 特許出願技術動向調査報告書(要約)-ペロブスカイト太陽電池関連技術-」
    ⁠https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/2024_01.pdf
  2. 36Kr Japan 2025年5⽉20⽇「ペロブスカイト太陽電池で 世界初の上場、中国『協鑫光電』が名乗り ⼤量⽣産へ」
    ⁠https://36kr.jp/341912/
  3. 36Kr Japan 2024年11⽉19⽇「注⽬のペロブスカイト太陽電池、シリコンと組み合わせ変換効率アップ 中国・益恒光伏」
    ⁠https://36kr.jp/308358/
  4. 36Kr Japan 2025年6⽉16⽇「中国チーム、ペロブスカイト太陽電池で量産技術を確⽴ 発電所建設も進展」
    ⁠https://36kr.jp/351213/
  5. 36Kr Japan 2025年5⽉7⽇「ペロブスカイト太陽電池量産のボトルネック解消へ。中国・凱伏緑能、薄膜形成装置で資⾦調達」
    ⁠https://36kr.jp/343302/
  6. 日本経済新聞2025年5⽉4⽇「曲がる太陽電池、⼤都市圏に導⼊⽬標 東京都は55万世帯分構想」
    ⁠https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88477960V00C25A5MM8000/
  7. 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会 2024年11月「次世代型太陽電池戦略」
    ⁠https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
  8. 日本経済新聞 2024年11⽉25⽇「ペロブスカイト太陽電池、家庭電⼒の1割賄う 政府⽬標」
    ⁠https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA14ADC0U4A111C2000000/
  9. 日本経済新聞 2025年3⽉19⽇「曲がる太陽電池搭載『無充電のEVを』エネコート加藤⽒」
    ⁠https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1781F0X10C25A2000000/

奥野彰彦(おくの あきひこ)

SK弁理士法人代表社員。弁理士
⁠サントリー株式会社、深見特許事務所、プライムワークス国際特許事務所、大野総合法律事務所、園田小林特許事務所を経て2008年S&K特許事務所を設立。2022年5月、SK弁理士法人に改組 。