めざせ発電都市!「フィルム型」でビル壁・窓を電力供給源に【ペロブスカイト太陽電池の現在地 第3回】
2025/11/13Chematelsの連載「ペロブスカイト太陽電池の現在地」をお届けしています。第3回は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を用いた都市部での発電技術についてです。ビルの窓や壁を発電の場にするなど、多様な設置形態を実現できると期待されています。東芝エネルギーシステムズの戸張智博氏が寄稿します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 太陽光発電の課題とペロブスカイト太陽電池への期待
(日本政策投資銀行・堀克紀氏) - 第2回 ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の開発
(パナソニックホールディングス・松井太佑氏) - 第3回 フィルム型ペロブスカイト太陽電池の当社取り組みと展望
(東芝エネルギーシステムズ・戸張智博氏) - 第4回 複合機の有機感光体技術を生かしたペロブスカイト太陽電池の開発
(リコー・利根哲也氏 兼為直道氏 田中裕二氏) - 第5回 ペロブスカイト太陽電池の特許を巡る動向と知財戦略
(SK弁理士法人・奥野彰彦氏)
従来型の限界を超える革新的な太陽電池として注目
地球温暖化が進み、またエネルギー安全保障の重要性も高まる中、再生可能エネルギーの導入拡大は国際的な喫緊の課題です。特に都市部における発電手段の多様化が求められる中で、ペロブスカイト太陽電池は、従来の太陽電池の限界を超える性能と柔軟な設置性を兼ね備えた革新的な技術として注目されています。
ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」ともよばれる灰チタン石と同じ結晶構造をもつ半導体材料を光吸収層に用いた太陽電池であり、以下のような点を特長とします。
- 高効率化
シリコン(Si)基板とのタンデム構造により、従来の結晶シリコン太陽電池の限界を超える30%以上の変換効率が実現可能。 - 低温製造
100~150℃程度で製造可能なため、製造時のエネルギー消費が少なく、環境負荷を大幅に低減することが可能。 - 透過性・意匠性
建材と一体化した設置が可能で、窓や壁面などへの設置により都市景観との調和を実現することが可能。
フィルム型は設置が難しかった場所への導入も可能

図1:フィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置例
日本は2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、再生可能エネルギーの導入量を飛躍的に増加させる必要に迫られています。しかし、地理的制約や土地利用の制限により、従来型の太陽電池では設置が困難な場所も多く存在しています。
こうした状況に対し、フィルム型ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつフレキシブルな特性を生かし、これまで設置が難しかった場所への導入を可能にします。政府も、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて企業などを支援するグリーンイノベーション(GI:Green Innovation)基金事業や、グリーントランスフォーメーション(GX:Green transformation)分野のサプライチェーン構築を支援するGXサプライチェーン構築支援事業などを通じて、量産技術の確立、生産体制の整備、需要創出を積極的に支援しています。
屋外用途でも耐久性を維持するための技術開発を進める
ペロブスカイト太陽電池は高効率化やカーボンフットプリント低減、用途拡大の可能性を有する一方で、耐久性向上や低価格化をいかに実現するかといった課題を抱えています。耐久性の点では特に、水分や酸素の影響を受けやすく、性能劣化が進行しやすいことが知られています。さらに、フィルム型の場合、高い耐久性を維持するためにガスバリア性の高いフィルムが必要であり、当社グループでは水蒸気透過率として1日・1平方メートルあたり0.0001グラムのレベル以上のバリア性能が好ましいと考えています。しかしながら、屋外用途で活用できるバリアフィルムの種類は限定的で高価なものが多いため、新たな開発が求められています。
当社グループはこれらの課題を解決する手段の一つとして、塗布型・低コストのガスバリア膜をGI基金事業のコンソーシアムにおいて山形大学と連携し、開発しています。山形大学での小型試作で水蒸気透過率1日・1平方メートルあたり0.000018グラムを達成*1し、現在この性能を維持した大型化技術の確立に取り組んでいます。
また、別のアプローチとして、市販品のバリアフィルムを採用し、封止構造設計および封止剤最適化を統合して気温85℃・相対湿度85%の高温高湿条件下で評価した結果、2000時間後の出力劣化率5%以内という結晶シリコン太陽電池の特性に近い記録を30センチメートル角サイズで達成しました。
今後も、開発品と市販品のバリアフィルムを継続評価することで耐久性に優れる標準的な部材の採用拡大を目指し、信頼性と価格競争力を両立する太陽電池を提案していきます。
実証実験スタート、内窓設置などで実用性を評価
フィルム型ペロブスカイト太陽電池の設置場所は、既存の太陽電池の設置適地としては工場や倉庫の屋根が想定されています。ペロブスカイト太陽電池の特長を生かした新しい設置場所・手段としては、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:net Zero Energy Building)*2対応としてのビル壁面・窓や、事業継続計画(BCP:Business Continuing Plan)対策としての自治体公共インフラなどが挙げられます。普及に向けて、補助金を活用しながら太陽電池システムの検証を行い、設置場所を拡大させる必要があります。結晶シリコン太陽電池の現状コストを踏まえつつ、輸送費、設置費、廃棄費などを低減することで発電コストを抑制し、さらにカーボンフットプリント低減などの付加価値で評価を高めることが普及の鍵となるでしょう。
フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用性を検討する取り組みの一つとして、東京都港湾局、YKK AP、関電工、東京テレポートセンター、当社は協定を締結し、2025年8月5日から臨海副都心青海地区のテレコムセンタービルにて太陽電池の実証を開始しました。ペロブスカイト太陽電池の内窓設置における発電継続性や熱線反射ガラス*3越しでの実用性を評価し、新しい発電方式の実現可能性を検証します。これにより、都市部における新しい再生可能エネルギー導入モデルの確立を目指します。

図2:内窓設置のイメージ。Airソーラーは東京都によるペロブスカイト太陽電池の愛称
都市部での発電・利用を「軽量・フレキシブル」で実現させていく
太陽電池は人々の生活空間で直接的に電力を創出できる数少ないデバイスであり、その中でもフィルム型ペロブスカイト太陽電池は都市部で発電し、利用することができる次世代型太陽電池です。軽量・フレキシブル化は、多様な設置形態の実現を可能とし、再生可能エネルギーの普及拡大に大きく寄与する潜在力を有しています。
今後、強力な政府支援のもと産官学が一体となり普及に取り組むことで、脱炭素社会実現とエネルギーの安定供給に向けた新しいエネルギー利用モデルを確立できると期待されています。当社は、研究機関や大学、ビジネスパートナーと連携することでその実現に貢献していきます。
次回は、複合機の有機感光体技術を生かしたペロブスカイト太陽電池の開発について、リコーの利根哲也氏・兼為直道氏・田中裕二氏が解説する予定です。
注釈
*1:水蒸気透過率1日・1平方メートルあたり0.000018グラムを達成
気温40℃、相対湿度90%の条件での記録。詳細な報告が下記の論文にあります。
Luyang Song, He Sun, Yoshiyuki Suzuri, Polysilazane-Coated Films Achieving Record-High Moisture Barrier Performance with Sub-10 Seconds Densification Using High-Power VUV Irradiation ,ADVANCED SCIENCE,22 February 2025.
*2:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:net Zero Energy Building)
年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物。
*3:熱線反射ガラス
太陽光を反射して熱の透過を抑え、冷房負荷を軽減する省エネ効果のある窓ガラス。
戸張智博(とばり ともひろ)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 エネルギーアグリゲーション事業部 次世代太陽電池開発部 部長
東芝入社後2017年10月、東芝エネルギーシステムズ株式会社エネルギーアグリゲーション統括部。2022年10月より現職。
