適地減少、中国依存…課題直面で期待高まる柔軟・軽量の国産太陽電池【ペロブスカイト太陽電池の現在地 第1回】
2025/10/16次世代の太陽電池として、世界中から熱い視線を集めている「ペロブスカイト太陽電池」(PSC:Perovskite Solar Cell)。現在、中国や欧州をはじめとする世界各国で研究開発競争が激化しており、日本においても、官民一体となった早期の社会実装が急がれています。今回からスタートする連載「ペロブスカイト太陽電池の現在地」では、目まぐるしく進展するペロブスカイト太陽電池の最新動向について取り上げます。第1回は、太陽光発電の課題と、官民一体の取り組みによる開発の一層の発展への期待について、日本政策投資銀行の堀克紀氏が寄稿します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 太陽光発電の課題とペロブスカイト太陽電池への期待
(日本政策投資銀行・堀克紀氏) - 第2回 ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の開発
(パナソニックホールディングス・松井太佑氏) - 第3回 フィルム型ペロブスカイト太陽電池の当社取り組みと展望
(東芝エネルギーシステムズ・戸張智博氏) - 第4回 複合機の有機感光体技術を生かしたペロブスカイト太陽電池の開発
(リコー・利根哲也氏 兼為直道氏 田中裕二氏) - 第5回 ペロブスカイト太陽電池の特許を巡る動向と知財戦略
(SK弁理士法人・奥野彰彦氏)
シリコン系は設置、系統、サプライチェーンの諸課題に直面
太陽光発電は、比較的導入が容易で発電コストも低く、国内外で最も導入が進む再生可能エネルギー電源です。日本では、第7次エネルギー基本計画にて、2040年度までに発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を4~5割まで高める方針が示されており、今後さらなる太陽光発電の導入が求められています。
一方で、現在主流のシリコン系太陽電池(以下、シリコン系)は、設置適地の減少や系統混雑の増加、製造サプライチェーンの中国依存といった課題に直面しています。日本では国土面積の約4分の3を山地や丘陵地が占め、すでに平地面積当たりの太陽光パネル導入容量は主要国の中で最大となっており、追加導入可能量は限定的であるといえます。
加えて、固定価格買取制度(FIT:Feed-In Tariff)・フィードインプレミアム(FIP:Feed-In Premium)制度やオフサイト電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement)を活用し、送配電網が十分に整備されていない土地に太陽光発電所が多く導入された結果、発電所と需要地を結ぶ送配電網の増強が必要となるなどし、系統全体に関わるコストが増加しています。
送配電網の混雑緩和には、電力消費地にパネルを設置して自家発電・消費を拡大することが有効ですが、シリコン系の荷重に耐え得る設置先は限定的です。さらに、シリコン系は、シリコン調達・ウエハー製造・パネル組立のいずれの領域も中国企業への依存度が高く、安全保障の観点でも課題があります。
ペロブスカイトが耐荷重や形状の問題を解決、自家消費増加へ

図1:ペロブスカイト太陽電池。大阪・関西万博のバスターミナルに設置された
これらの課題を解決し得る次世代技術が、「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を持つ化合物を用いたペロブスカイト太陽電池です(図1)。
従来のシリコン系と比べて柔軟性・軽量性などに優れ、理論上の変換効率も高いことから、これまで耐荷重や形状の問題から設置が難しかった場所への導入や、設置面積当たりの発電量増加が見込まれています。特に、電力需要地である住宅やオフィス・工場の屋根・壁面・窓への導入により電力自家消費が増加すれば、系統混雑の緩和やコスト抑制が期待できることも利点といえます。自家消費は、送配電網の使用時に発生する託送料金や再生可能エネルギー賦課金などが生じないため、需要家にとっても電気料金の低減というメリットが存在します。
また、ペロブスカイト太陽電池においては主原料のヨウ素を始めとした関連部材についても日本企業が競争力を有しており、サプライチェーンにおける中国依存は低いといえます。これは日本政府が掲げる、カーボンニュートラル実現と日本の産業競争力の強化を両立させるというグリーン・トランスフォーメーション(GX:Green transformation)戦略の考え方にも合致しています。
さらに、製造コストについても、中長期的にはシリコン系と比較して低減が期待されています。各素材の使用量が少なく、材料費はシリコン系の半分程度に抑制可能と見込まれるほか、製造工程は素材の塗布・印刷が中心のため量産効果が発揮しやすいという特長があります。
これらの太陽電池の課題と、それらに対するペロブスカイト太陽電池への期待を図2にまとめました。

図2:シリコン系の課題とペロブスカイト太陽電池への期待
支援策整備、事業拡大…官民一体の取り組みに期待
GX実現におけるペロブスカイト太陽電池の重要性に鑑み、日本政府による政策的支援の枠組みも整いつつあります。2023年、岸田文雄首相(当時)は、2030年を待たずに量産体制を構築することを宣言しました。2024年11月には経済産業省が主導する官民協議会にて「次世代太陽電池戦略」が策定され、2040年の20ギガワット程度という導入目標や、生産体制整備・需要創出の両面に対する支援の方向性など、中長期的な道筋が示されています。具体的な政策として、メーカーの技術開発に対するグリーンイノベーション(GI:Green Innovation)基金を通じた支援や、量産化に向けたGX経済移行債を原資とする支援などが進んでいます。
技術開発面では2025年10月、GI基金事業の対象に、ペロブスカイト型とシリコン系を組み合わせたタンデム型が加わり、累計支援額が800億円まで拡大する予定です。また量産化については、2024年12月に積水化学工業が支援対象として選定され、段階的な事業拡大を目指しています。
今後も、官民一体の取り組みにより、ペロブスカイト産業の一層の発展が期待されます。
次回は、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の開発について、パナソニックホールディングスの松井太佑氏が解説する予定です。
堀克紀(ほり かつとし)
株式会社日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役
2021年日本政策投資銀行入行。エネルギー業界における投融資などに従事した後、2025年4月より現職。エネルギー業界のアナリストとして、業界マクロトレンドのフォローや革新技術の調査を行う。
