インクジェット技術で「発電するガラス」を開発【ペロブスカイト太陽電池の現在地 第2回】
2025/10/23Chematelsの連載「ペロブスカイト太陽電池の現在地」をお届けしています。第2回は、ペロブスカイト太陽電池を建材ガラスに直接塗布し一体化することで、ビルの窓やガラス外壁から発電する技術についてです。パナソニックホールディングスの松井太佑氏が寄稿します。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 太陽光発電の課題とペロブスカイト太陽電池への期待
(日本政策投資銀行・堀克紀氏) - 第2回 ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の開発
(パナソニックホールディングス・松井太佑氏) - 第3回 フィルム型ペロブスカイト太陽電池の当社取り組みと展望
(東芝エネルギーシステムズ・戸張智博氏) - 第4回 複合機の有機感光体技術を生かしたペロブスカイト太陽電池の開発
(リコー・利根哲也氏 兼為直道氏 田中裕二氏) - 第5回 ペロブスカイト太陽電池の特許を巡る動向と知財戦略
(SK弁理士法人・奥野彰彦氏)
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を開発
ペロブスカイト太陽電池は塗布型で高効率な太陽電池である特徴を生かせることから、さまざまな用途展開を期待されています。パナソニックでは建材ガラス上にペロブスカイト太陽電池を直接塗布し、建材化することで、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池として、ガラスが使われ得るあらゆる箇所を発電ガラス化することを目指しています(図1)。

図1:ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池
(a)実用化イメージ(b)モジュール構造 (c)層構造
シリコン型で困難だった「一品一様」のサイズ・デザイン対応を実現
建材一体型太陽電池(BIPV:Building integrated photovoltaic)をめぐっては、これまでさまざまな太陽電池を用いて開発され、実用化がなされてきました。代表的なものでは結晶シリコン太陽電池や、薄膜シリコン(アモルファスシリコン)太陽電池が用いられています。
BIPVへの応用においては、通常の太陽電池で必要な変換効率やコストに加えて、建物に調和する意匠性や、建造物の寸法に合わせた、一品一様のサイズ対応が重要になりますが、従来の技術ではそれらの両立が困難でした。ペロブスカイト太陽電池は、高効率かつ薄膜塗布で形成可能なため、加工がしやすく、これらの課題を一挙に解決できると考えられています(図2)。

図2:各種太陽電池を用いたBIPVの比較
インラインでのサイズやデザインのカスタマイズが可能
当社は、有機ELディスプレイの生産で培ったインクジェット塗布装置を活用することで、BIPVで重要なサイズフリー生産に対応することができます。また、形成したペロブスカイト太陽電池層をレーザー加工することで、さまざまな透過率やデザイン性をもつパネルの作製が可能です。従来の結晶シリコン太陽電池の場合、こうしたサイズやデザインのカスタマイズに対応して生産するには自動化が困難でしたが、当社のペロブスカイト太陽電池の場合は、インクジェット塗布装置の川幅調整*1やレーザー加工装置のプログラム入力によってカスタマイズできるため、インラインでのカスタマイズ対応が可能となる点が強みといえます。当社のペロブスカイトBIPVの製造プロセスを図3に示します。

図3:パナソニックのペロブスカイトBIPVの製造工程
また、作製した30cm角モジュールの外観を図4に示します。

図4:30cm角モジュールの外観
実証実験や展示の実績を重ね、2026年度からテスト販売開始へ
当社では、三井不動産レジデンシャルの連携協力を得て、神奈川県藤沢市のFujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)内で、バルコニーのガラス手すり部分と一体化したペロブスカイト太陽電池の実証試験を実施しました(図5(a))。実際の適用環境に設置することで、発電性能や耐久性の確認に加えて、BIPVに重要な外観の検証やお客さまからのご意見を反映しながら、開発を推進しています。
また、国内外の展示会ではビルの窓・ガラス外壁への適用を想定した、1.0m×1.8mの大面積シースルーモジュールの展示を行いました(図5(b)(c))。

図5:実証試験と展示(a)Fujisawa SSTのバルコニーにおける実証試験。2023年8月~2025月8月に実施 (b)2024年10月開催のCEATECにおけるシースルーパネルの展示(c)2025年1月開催のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)における間取り用を想定したBIPVモジュールの展示
今後は、2026年度からテスト販売を開始し、数年後の量産・販売を目指して開発を推進していきます。
次回は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の開発と展望について、東芝エネルギーシステムズの戸張智博氏が解説する予定です。
脚注
*1:川幅調整
幅が異なる基板に対して、インクを塗布する幅を調整することをいいます。インクジェット装置は小さなインクジェットノズルが幅方向に多数並べた構造になっているので、幅に応じて必要なノズルからのみインクを吐出させることで、容易に調整が可能です。
松井太佑(まつい たいすけ)
パナソニックホールディングス株式会社
技術部門 ペロブスカイトPV事業推進室 先行技術開発課 課長
有機EL照明デバイスの開発を経て、2014年よりペロブスカイト太陽電池の開発に携わる。2014年から2年間、同分野で世界最高峰の研究機関であるスイス連邦工科大学ローザンヌ校にて高効率化、高耐久化を実現。Science、Nature含む論文発表27件、被引用数約16000件。
