「フロー合成」は有機化学産業の革新技術【バッチ式と連続式がわかるプロセスの話 第5回】
2024/07/04目次
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Chematelsの連載「バッチ式と連続式がわかるプロセスの話」の最終回をお届けします。今回は、まず、バッチ式と連続式の生産性や効率性を比較した事例をまず示します。そして、いま有機化学産業に革新をもたらすと注目されている「フロー合成」あるいは「フローケミストリー」と呼ばれる技術について、従来プロセスとの比較や、実際の仕組みの紹介などを踏まえ、その特徴を挙げていきたいと思います。
バッチ式と連続式、生産性・効率性の比較例を見る
バッチプロセスと連続プロセスの生産性や効率性を具体的に比較した事例は、なかなか見当たりません。そうした中、皆さんの参考になりうる情報を以下に紹介します。
年間2000トンの錠剤医薬品を合成・製造する場合、連続プロセスの投資資本額はバッチプロセスより76%低く、運転費用は40%低くなるという試算があります。
ジエチル2-エチル-2-フェニルマロン酸を年間1400トン製造するための時間は、連続プロセスの導入で従来の34時間から5時間に短縮されたとのことです。また、エネルギー消費量は約80%削減されたといいます。
年産50〜1200kgの製造規模のモノクローナル抗体のバイオ医薬品製造において、1グラム当たりの売上原価(COGS:Cost Of Goods Sold)の試算結果があります。それによると、1グラム当たりバッチ式で99ドルであるのに対し、連続プロセスでは51ドルでした。
高い収率と安全性、「フロー合成」の革新性
近年、化学プロセスの分野をめぐる新技術として、「フロー合成」と呼ばれる方式が注目されています。「フローケミストリー」とも呼ばれます。
フロー合成は、バッチプロセスではなく連続プロセスの一つに位置づけられ、管型反応器で実行される革新的な有機合成技術といえます。反応プロセスを高い収率と安全性で、安価に実行します。
第3回「反応から熱交換まで、方式が違えば効率も違う」で、管型反応器の解説をしていますが、フロー合成分野では、ガラス基板製の「マイクロリアクター」と呼ばれるマイクロメートル径の微小流路や、「チューブリアクター」と呼ばれるミリメートル径のチューブ、また触媒などが充填された「カラムリアクター」と呼ばれる円筒管を用いた反応器があります。
バッチ式の100倍近い反応効率、医薬業界などで注目の的に
バッチプロセスとの比較から、フロー合成の特徴をのべていきます。
まず、反応化学量は、バッチ生産では原料濃度とその体積比により定義されますが、フロー合成では濃度とそれらの流量の比率によって定義されます。フロー合成では、非定常渦流動によって、効果的な物質移動と熱移動を達成できるため、反応効率がバッチプロセスの100倍近く向上します。
滞留時間については、バッチ生産では容器が所定の温度になる時間によって決まりますが、フロー合成では反応器の体積と全体の流量の比率によって決まります。
装置の単位体積あたりの比表面積は、バッチ反応器と比べてフロー合成では格段に大きくなり、迅速かつ効率的に加熱または除熱が可能です。耐圧性も高く、高温・高圧反応が可能です。
スケールアップ性については、フロー合成では反応機構がラボ機と実機で変わらないため、複雑な試行が不要です。
以上のことから、フロー合成には、バッチに比べて、投入エネルギーに対する生産性が高い、労働力を低く抑えられる、結果として安価な製造コストで済ませられるなどの、高い効率性があるといえます。他にも、高い安全性や、廃棄物の少なさからくる低環境負荷性などのメリットを見出せます。フロー合成は医薬業界を中心に大いに注目されているのです。
生産規模が限られるといった課題も
一方で、フロー合成には課題もあります。工業規模にスケールアップするに当たり、いくつかの技術的課題を解決する必要があります。送液ポンプに脈動があると反応性が低下してしまうため、高精度の無脈動ポンプが必要です。また、流路の目詰りや汚染が生じうることも実用化への障害となっています。
最も大きな課題は、反応器がマイクロサイズあるいはミリサイズのため大規模化に向いておらず、生産規模が制限されていることにあります。
課題はありながらも、フロー合成の市場規模は2021年の約8000万ドルから年平均成長率13%で成長しており、2028年には1億9000万ドルに達すると予測されています。フローケミストリー技術はその革新性から、小さな製造スペース、高い生産性、廃棄物とコストの削減を実現するため、ここ10年で創薬、化学プロセス開発、医薬品の生産において重要な役割を果たし、製薬分野で広く採用されることになりそうです。
工業規模のフロー反応器がすでに稼働中
フロー合成の反応器はどういったものでしょうか。図1は、化学メーカーのJNCの製品説明図を参考に作成したフロー反応器の仕組みの例です。

図1:フロー反応器の仕組みの例。コンパクトフローと呼ばれ、年間生産能力は8トン
(出所:JNCサイト「コンパクトフロー」紹介ページを参考に作成)
写真も紹介します。図2左は、G4とも呼ばれるコーニング社のフロ-反応器です。G4で年間2000トン、さらにG5では年間1万トンのスループットできる能力を持ち、バッチ式リアクターと比較して混合性を100倍、また熱伝達性能を1000倍向上させているとのことです。また図2右は、カネカの製品で、1時間に11kgの生産能力を持ちます。

図2:フロー反応器の実機
(左写真提供:コーニング、右写真提供:カネカ)
フロー合成と親和性ある反応・蒸留装置、連続式晶析装置
フロー合成の実現と普及の背景にあるのは、適合する技術の進歩です。誘電体加熱、ジュール加熱、超音波、流体力学的キャビテーション、反応蒸留、連続晶析やプラズマといった、代替エネルギー源の応用が革新をもたらしました。また、インライン監視および自動化ツールや分析ツールの支援により、フロー合成のプロセスを最適化することができます。
ただし、フロ-反応器の適用は、純溶液の反応工程のみにとどまります。ろ過・分離、混錬、晶析などの下流側の連続化は、スラリーや粉体を扱うこととなるため、別途、検討すべき課題となります。第3回「反応から熱交換まで、方式が違えば効率も違う」で、各工程の詳細を説明していますので参考にしてください。
最後に、フロー合成の実用化に合わせて導入が進んでいる工程を二つ紹介します。
「反応・蒸留」は、第3回の最後にも記したように、「反応」と「蒸留」を一つの装置で行う複合単位操作です。反応生成物を反応場から分離することによる反応率向上や、反応熱のダイレクトな有効利用などに利点があります。エステル化反応のような平衡反応や、逐次反応における中間目的物を抜き出すときなどに用いられます。
また、「連続晶析」も導入されています。晶析プロセスを連続化する際、1槽の大型撹拌槽を連続式反応器(CSTR:Continuous Stirred Tank Reactor)として用いますが、反応流体および結晶粒子の反応器内滞留時間に分布が生じ、製品結晶径がばらつくという問題があります。その点、連続式晶析装置においては、小さな撹拌槽を多数連結したような多段式CSTRの滞留時間分布となり、段階的に結晶成長を起こすことになるため、結晶成長の促進効果が見込めます。原薬の精製では、バッチ晶析で9時間40分かかるのに対し、連続晶析では12分だったという驚くべき報告もあります。
「バッチ式と連続式がわかるプロセスの話」は今回で終わりです。ご愛読ありがとうございました。
鹿子島 達志(Tatsushi Kagoshima)/ SCE・Net
1949年生まれ。九州大学工学部卒。鐘淵化学工業(株)(現カネカ)他2社を経験。生産技術や調達部門にて多くの大型海外工場建設の責任者として従事。マレーシアにエンジ会社のMD(社長)として2年間駐在。化学工学会のコストエンジニアリング部会員で活動、SCE・Net会員。現在、生産技術コンサル業のイーグレテック代表。
