オゾンホール、温暖化……PFAS以外にもあるフッ素化合物の環境問題【PFAS規制でどうなるフッ素化学品 第5回】
2024/04/09Chematelsの連載「PFAS規制でどうなるフッ素化学品」の最終回をお届けします。これまでお話ししてきたように、フッ素化学製品は「小さいサイズで強固な結合力」を持つという特徴から「光と影」を持っています。「光」の部分としては機能性材料としての多様な用途、また生物活性や薬理の効果が知られています。一方「影」の部分にあるのは環境問題です。これまでオゾン層破壊や環境ホルモンが環境問題となってきましたが、PFASをめぐっても影の部分が次第に大きくなっています。最終回に、フッ素化学品をめぐる環境問題の歴史をたどって、連載を締めくくります。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 フッ素化学業界の現状と基礎知識を理解する
- 第2回 PFASの概要を把握する
- 第3回 PFAS規制の現状と今後を展望する
- 第4回 PFAS規制の対応策を見出す
- 第5回 フッ素化合物規制の歴史を概観する
フロンにより破壊されたオゾン層、まだ完全復旧へは道なかば
地球環境問題には主に、オゾン層破壊と地球温暖化という二つの異なる問題があります。このうち、最初に問題が提起されたのは、オゾン層破壊です。地球を取り巻くオゾン層が特定フロンにより連続的に反応消失する現象です。
オゾン層破壊のメカニズムを代表的なフロン類(CFCs:Chlorofluorocarbons)であるR-11(CFCl3)を例にして、図1に示します。なおフロン類は、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS:Per and Poly FluoroAlkyl Substances)と同様、有機フッ素化合物の一種ですが、PFASの定義には含まれません。

図1:特定フロンによるオゾン層破壊のメカニズム。R-11(CFCl3)の例
(出所:気象庁「フロンによるオゾン層の破壊」を参考に作成)
R-11(CFCl3)は大気中で長期間残留し、紫外線によって分解され、塩素原子(Cl)を放出します。塩素原子は高空のオゾン層に拡散し、オゾン分子(O3)と反応することで酸素分子(O2)と一酸化塩素 (ClO)を生成します。一酸化塩素(ClO)はさらに酸素原子(O)と反応することで、塩素原子(Cl)と酸素分子(O2)を生成し、オゾン分子の消失反応が連続して起こります。
この破壊現象は南極でより顕著に認められ、オゾン層の濃度が下がって穴があいたようになったオゾンホールと呼ばれる空間が南極上で観測されました。オゾン層は紫外線を遮蔽する効果があるため、オゾン層が破壊されると人体への健康被害などをもたらすことになります。
オゾン層の破壊は気象衛星の観測などで常時監視可能で、経時的な変化を捉えることができます。米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)などの観測で、オゾン層の破壊が進んでいることが確認された結果、1987年、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択されました。フロン類の使用を制限し、オゾン層破壊作用の小さいハイドロフルオロカーボン類(HFCs:Hydrofluorocarbons)への切り替えが求められるようになったのです。
2020年には特定フロンの全廃が実現し、オゾンホールの拡大防止が確認されています。しかし、大気中でのフロン類の消失速度は遅く、オゾンホールの縮小には至っていません。完全な復旧にはさらに40~50年は要すると多くの科学者は考えています。
「代替フロン」が地球温暖化の原因と認識され削減へ
次に、地球温暖化の問題が顕在化しました。地球温暖化は温室効果の高いガスの増加によって引き起こされる現象と理解されています。メタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)は知られていますが、フロン類も温室効果が大きい物質です。前述のように、オゾン層破壊問題を契機に特定フロン分子(CFCs)の塩素を水素に置き換えたHFCsが製品化されましたが、多くのHFCsは温暖化効果が高いという欠点を持っていました。代表的なHFCsにはR-32と呼ばれるジフルオロメタン(CH2F2)や、R-125とも呼ばれるペンタフルオロエタン(C2HF5)があります。これらはフロンを代替する物質ということから「代替フロン」と呼ばれています。
HFCsは大気中に放出されると、地球温暖化を促進します。HFCsが地球温暖化の原因物質であるとの認識から、最近ではさらにHFCsの代替として温暖化係数の低いハイドロフルオロオレフィン類(HFOs:Hydrofluoroolefins)や非フロンへの切り替えの検討が進んでいます。
これらのフロンの使用の流れを数値的に理解するため、使用時系列順にフロン類のR-12(CFCs)、その代替物質のR-134a(HFCs)、さらにその代替物質のR-1234yf(HFOs)について、オゾン破壊係数(ODP:Ozone Depletion Potential)と地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)を図2にまとめました。

図2:フロンと代替フロンの物性
(出所:山辺正顕監修『とことんやさしいフッ素の本』p71を参考に作成)
また、フロン類の規制の動きを図3にまとめました。

図3:地球環境問題に関わるフロン類の規制。HCFCはハイドロクロロフルオロカーボン(Hydrochlorofluorocarbon)
(出所:NISSHAエフアイエス「冷媒についての世界的な取り組み」を参考に作成)
国際条約で50程度の物質が残留性有機汚染物質の対象に
フッ素化合物は、「環境ホルモン」の問題にも関係しています。前回までにPFASの健康被害を述べてきましたが、この健康被害は2001年5月に採択された「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」で規定される残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)と密接に関係するものです。PFASは、内分泌かく乱物質(ホルモン類似物質)として作用するからです。
POPsは、環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるものであり、ストックホルム条約において50程度の物質が対象となっています。対象のPOPsとして有名なのは、ポリ塩化ビフェニル(PCB:Polychlorinated biphenyl)や、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT:Dichlorodiphenyltrichloroethane)などですが、PFASについてもペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:Perfluorooctanesulfonic acid)やペルフルオロオクタン酸(PFOA:Perfluorooctanoic acid)の他、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS:Perfluorohexanesulfonic acid)、またペルフルオロオクタンスルホン酸フルオリド(PFOSF:Perfluorooctane sulfonyl fluoride)が指定されています。
これらのPOPsに対して、製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物の適正処理などが規定されています。
より安全な社会へ、情報の蓄積と政策への活用を
最後になりますが、PFASの人体への影響については、まだ十分に解明されていない部分もあります。より安全な社会の実現に向けて、今後もさらなる情報を蓄積し、環境政策に活かしていくことが期待されています。
「PFAS規制でどうなるフッ素化学品」は今回で終わりです。ご愛読ありがとうございました。
参考文献
1. 山辺正顕監修、F&Fインターナショナル著『トコトンやさしいフッ素の本』(日刊工業新聞)
2. 代替フルオロカーボン国際共同環境受容研究(AFEAS:The Alternative Fluorocarbons
Environmental Acceptability Study)「世界における主要なフロンの生産量の推移」(環境省サイト)
https://www.env.go.jp/earth/report/h16-01/3_09.pdf
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
