「PFAS最少限化」への歩みは着実に進んでいる【PFAS規制でどうなるフッ素化学品 第3回】

2024/03/07
Image

Chematelsの連載「PFASでどうなるフッ素化学品」をお届けしています。ペルフルオロおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS:Per- and polyfluoroalkyl substances)は、難分解性であることから土壌などの環境中に残留するだけでなく、飲食で体内に取り込まれ臓器に蓄積し、健康障害を引き起こします。PFASの環境問題は世界的に注目されており、規制の強化が多くの国で進行中です。今回の第3回では、世界と日本におけるPFASの規制動向について述べていきます。

目次

20世紀末から企業は製造中止、「自主削減」へ

PFASの歴史は1938年、米デュポン社が「テフロン」と呼ぶフッ素樹脂を開発したことから始まります。1950年以降、米3M社がペルフルオロオクタン酸(PFOA:Perfluorooctanoic acid)、ならびにペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:Perfluorooctanesulfonic acid)を開発したことにより、撥水・撥油剤としての用途が広まりました。

しかし、1980年ごろからPFASを製造していたデュポン社や3M社で健康被害についての懸念が生じ、従業員に対しての健康調査や、ラットを用いた動物試験が行われました。1990年代に入ると工場周辺住民からの訴訟が起こり、PFASへの懸念がさらに深まりました。これらの動きを踏まえ、3M社は2000年、PFOAならびにPFOSの製造を中止することになりました。

事態を深刻に受け止めた米国環境保護局(EPA:Environmental Protection Agency)は「PFOA自主削減プログラム(PFOA2010/2015スチュワードシップ・プログラム)」を立ち上げ、業界主要8社との間で、2015年にPFOAならびにPFOSを廃絶することに合意しました。また、欧州や日本においても規制の動きが広まり、法令による規制が実施されてきました。

1990年以降の規制の流れのうち、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)排出の廃絶・低減などを図る国際条約「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)での取り組みを図1にまとめました。

Image

図1:PFAS規制の流れ(POPs条約での取り組み)
⁠(出所:日本フルオロケミカルプロダクト協議会ウェブサイト「環境規制について」

欧州で先行する規制の取り組み、日本は化審法を適用

PFOAやPFOSなどは、POPs条約で、難分解性、高蓄積性、長距離移動性および人や生物への有害性を持つものとして「特定PFAS」に指定されました。特定PFASが健康に有害であることは各国の認めるところですが、その規制には二つの観点があります。

一つは有害なPFAS、あるいは有害の可能性のあるPFASについて、「製造や使用を制限すること」です。もう一つは、有害PFASによって「すでに汚染された地域における飲料水の水質基準を定めること」です。前者については、欧米や日本ですでに規制がなされており、今後のさらなる規制も検討中です。

欧州連合(EU:European Union)では「化学品の登録、評価、認可及び制限に関する規則」(REACH(Registration, Evaluation, Authorisation, Restriction and Chemicals)規則)による規制がなされています。REACH規則は、EU域内で製造・輸入される化学物質を対象としていますが、2023年3月、欧州化学品庁(ECHA:European Chemicals Agency)は規制案を公表し、特定のPFAS製造や使用を原則禁止するとともに、一部の用途について制限することとしました。

米国でも環境保護局(EPA)が、PFASの環境汚染問題に関する調査を進めた結果、2023年7月、PFOSとPFOAの製造や使用を原則禁止する規制案を発表しました。

日本では「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)という法律による規制が進んでいます。化審法は「人の健康や環境に影響を及ぼす可能性のある化学物質」を規制する法律ですが、この法に基づき、PFOSが2010年、またPFOAが2016年、第一種特定化学物質として指定を受け、製造や輸入が禁止されました。

飲料水の基準値は厳格化の方向

PFOAならびにPFOSの製造はすでに禁止されていますが、過去に製造・使用されたこれらのPFASは製造工場周辺や基地を含む空港施設周辺での環境汚染の原因となり、地下水や土壌を介して浄水施設への流入が懸念されています。

飲料水のPFAS濃度については各国が基準値の制定を進めています。

米国環境保護局(EPA)は2016年、飲料水の勧告値を制定し、PFOSとPFOAの合算値として、「水道水1リットルあたり70ナノグラム」(70ng/L)と設定しました。この数値の根拠は、「1日に2リットルの水を70年間飲み続けても健康問題が起こらない」との試算に基づくものです。同局は2022年6月に規制を強め、PFOS、PFOAともに「4.0 ng/L」という基準値を提示しました。基準値変更の理由は、摂取量がゼロに近い量でも健康に悪影響を及ぼす可能性があるという科学的根拠に基づくものです。さらに法的強制力はありませんが、この基準値の100分の1程度の「健康勧告値」も示しています。これに対し、米国化学工業協会(ACC:American Chemistry Council)は、健康勧告値の水準まで濃度を引き下げることは現在の技術では不可能であり、濃度検査方法も確立されていないため採用すべきでないと反論しています。

EUは2022年7月、従来の基準値を見直し、「4.4ng/L」を採択しています。日本は水質汚濁防止法に基づき2023年4月、水道水の基準として1リットル中のPFOSとPFOAの許容濃度を合算で「50ナノグラム以下」と設定しました。各国の飲料水についてのPFAS基準値を図2にまとめました。

Image

図2:各国の飲料水に対するPFOS・PFAS規制値。米国は環境保護局(EPA)、欧州は欧州化学品庁(ECHA)2022年によるもの
⁠(出所:日本フルオロケミカルプロダクト協議会ウェブサイト「環境規制について」を参考に作成)

欧州、早ければ2027年「PFAS全廃」掲げる制限を実施へ

デンマーク、ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルウェーの5カ国は2023年1月、「PFAS全廃」を掲げる厳しい制限案を提出しました。この制限案は科学的に因果関係が十分証明されなくても規制措置を可能にする「予防原則」に基づき、難分解性物質の制限を政策決定できるものとなっています。これには、PFOAのようなすでに制限されたPFASに代わって、制限されていない別のPFASが使用されてしまうのを避けるため一つのグループとして制限するという考え方が採用されています。

制限案は今後、2025年の欧州委員会の採択と議会の承認を経て、早ければ2026年後半にも採択され、18カ月の移行期間を経て施行される見通しです。ただし、この案は、例外措置として、用途により一定の猶予期間での使用を認めるものです。代替物質が開発段階にある場合や代替物質が見出されていない場合については、5年または12年の猶予期間があります。5年猶予物質には、PFASポリマー製造時の重合助剤、特殊用途向けろ過・分離膜用繊維、工業・事業用食品製造向け接触素材などが例示され、12年猶予物質には冷却遠心分離機の冷媒、工業用精密洗浄液、クリーン消火剤、埋め込み型医療機器などが例示されています。

欧州で進行中のPFAS規制の流れを図3に示します。

Image

図3:欧州でのPFAS規制スケジュール(見通し)
⁠(出所:欧州化学品庁(ECHA)「Registry of restriction intentions until outcome」を参照に作成)

基準・評価や技術開発の点で課題も

各国での規制動向における論点として、PFASの影響評価や規制基準の設定、汚染地域の対策、代替品の開発などが挙げられます。課題としては、全てのPFASに対する規制基準の設定や評価が困難であること、除去技術の改善やコスト削減が途上であること、廃棄物処理法の確立を要することなどが挙げられます。また、国際的な規制基準の統一や情報共有も重要となります。

これらの解決には、科学的なデータの蓄積と共有、技術の改善が不可欠であり、国際的な協力によってリスクを最小限に抑える努力を続けることが重要となります。

次回のテーマは、「PFAS規制の対応策を見出す」です。

参考文献

1.欧州化学品庁(ECHA)「Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS)」
⁠https://echa.europa.eu/hot-topics/perfluoroalkyl-chemicals-pfas

2.カナダ保健省(Health Canada)「 Per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS)」
⁠https://www.canada.ca/en/health-canada/services/chemicals-product-safety/per-polyfluoroalkyl-substances.html

3.日本エヌ・ユー・エス「令和4年度化学物質安全対策(規制化学物質に関する国際的な動向調査)報告書」
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000291.pdf

中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net

1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。