「除去」に向け、分析法・処理技術・先行事例は全てある【PFAS規制でどうなるフッ素化学品 第4回】
2024/03/26Chematelsの連載「PFAS規制でどうなるフッ素化学品」をお届けしています。ペルフルオロおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS:Per-and polyfluoroalkyl substances)による環境汚染は世界各地で広がっており、除去技術の確立が急務となっています。この技術のポイントは“ナノ”への対応にあります。各国の飲料水規制値は40〜50ナノグラム/リットル(ng/L)ですが、今後は1ng/Lというレベルに厳格化されると予想されます。米国の浄水施設ではすでに、吸着処理設備が導入されています。今回は、除去技術の現状について述べていきます。
目次
本連載で扱う項目
土壌処理よりも飲料水浄化が先行
PFAS除去技術には飲料水の浄化技術と土壌からの除去技術が含まれます。後者の土壌からの除去工程は、汚染土壌の集積、抽出剤による洗浄・抽出、処理後土壌の廃棄からなりますが、土壌収集・廃棄にコストがかかるだけでなく、土地の再利用などの課題もあり、解決に時間を要すると考えられます。
ここでは前者の飲料水の浄化技術に絞って話を進めます。飲料水浄化における技術的な観点には、次のものがあると考えられます。
1.ナノレベルの分析技術はあるのか
2.工業技術として確立された除去技術はあるのか
3.これまでに実施された工業技術の導入例はあるのか
そこで、これらの観点から現状を見ていきます。
ISOにナノメートル・レベルの分析規格あり―分析技術
PFAS問題ではナノメートル・オーダーの分析技術が要求されます。標準的なPFASの分析法は、目的の化合物を不純物から分離する固相抽出を用いての液体クロマトグラフ質量分析法であり、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)による国際標準分析規格ISO 25101として知られており、日本ではこの方法が採用されています。この方法によるPFASの定量限界は 1ng/Lです。
米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は飲料水中のPFASに特化した測定法としてEPA 533および537.1を用いています。
これらの分析法は、表層水、地下水、廃水などの多様な環境水サンプルの分析にも適用可能です。
活性炭吸着、イオン交換樹脂、膜分離の各手法あるが課題も―工業的な除去技術
浄水からのPFAS除去技術については、さまざまな技術が提案されています。すでに技術が確立されている技術に限ると、活性炭吸着法、イオン交換樹脂吸着法、逆浸透膜透過法に絞られます。
これらの技術を比較して、次の表にまとめました。さらに以下で詳しく解説します。

図1:工業的なPFAS処理技術の比較
(出所:水道におけるPFASの処理技術等に関する研究会2023年11月公表「水道におけるPFASの処理技術等に関する資料集」を参照に作成)
まず、「活性炭吸着法」は、PFASを活性炭に吸着させて除去する方法で、吸着剤としては、粉末活性炭と粒状活性炭が挙げられます。活性炭は細孔径の大きいマクロポアと小さいミクロポアを有しており、PFASはこれらの細孔に吸着されます。活性炭の大きな表面積は、原料となる石炭やその加熱生成物チャーの高温処理によって生み出されます。活性炭の吸着性能は、細孔内にPFAS を捕捉する能力で決まり、汚染物質の鎖の長さに応じて変化します。
活性炭は浄水プラントで一般的に採用されていますので、既存の浄水プラントへの適用は容易です。しかし、全てのPFASを除去することは難しく、短鎖PFASの除去には限界があります。吸着法は、比較的簡便で低コストですが、吸着剤の交換が必要で、処理能力が限られるという課題を伴います。
次に、「イオン交換樹脂吸着法」は、PFASをイオン交換樹脂に交換吸着させて除去する方法です。イオン交換樹脂には、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂の2種類があり、PFASの種類に合わせて選択する必要があります。
陰イオン交換樹脂は、水に溶解し、負に帯電したPFOSイオンやPFOAイオンをポリマー樹脂床に埋め込まれた他のアニオン、例えば塩化物などと交換できます。一方、正に荷電したPFASの除去には陽イオン交換樹脂を用います。
イオン交換樹脂は優れた吸着能力を示し、広範囲の PFAS を効果的に除去します。実験室規模での吸着カラムによる除去試験の結果が分かる資料を参考文献2に示しておきます。しかし、イオン交換樹脂のコストが活性炭よりも高価であるだけでなく、除去後の樹脂の処理や再生も必要となるので、吸着法に比べてコストが総じて高いという課題があります。
「膜分離法」は、PFASを膜の透過性を利用して除去する方法です。膜分離法には、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜法や、ナノろ過(NF:Nano Filtration)法などがあります。膜分離では、低濃度のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:Perfluorooctanesulfonic acid)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA:Perfluorooctanoic Acid)についても高性能の分離が可能で、PFOS除去率は99%以上、PFOA除去率は92~97%という結果が報告されています。
膜分離法は、吸着法やイオン交換法に比べて高い除去率を期待できますが、膜のコストが高いという課題を伴います。また、膜性能を長期に維持させるためには厳密な前処理が必要となり、運転コストの増大を招きます。
1. 米国で進む処理設備の運用―導入例
水道における PFAS 除去を目的とした処理技術の導入は、日本国内ではまだほとんど行われていませんが、米国では2016年より、各州の浄水場において処理設備の導入が進められています。次の表は10の水道事業体における処理設備の導入事例をまとめたものです。

図2:米国の浄水施設でのPFAS 処理技術導入例
(出所:水道におけるPFASの処理技術等に関する研究会2023年11月公表「水道におけるPFASの処理技術等に関する資料集」を参照に作成)
このうち、1番目の事例は2022年にノースカロライナ州で導入された水道事業体の結果です。この水道施設では7万7000人の給水人口に対して、1日に16万7000m3の浄水をつくっています。処理技術は粒状活性炭を用いた吸着除去方式で、その建設費は契約ベースで約46億6700万円と報告されています。
この設備の設置後、2022年9月にPFAS濃度を測定したところ、原水中に存在したPFOSは12.1ng/L、PFOAは4.63ng/L、 ペルフルオロブタンスルホン酸(PFBS:Perfluorobutanesulfonic acid)は 6.09 ng/L、またPFOA代替品でPFASの一種であるGenX化合物は5.13ng/Lでしたが、処理後の浄水ではいずれの成分も検出限界以下を示し、処理の有効性が確認されたといえます。
次回のテーマは「フッ素化合物規制の歴史を概観する」の予定です。
参考文献
1.水道における PFAS の処理技術等に関する研究会 2023年11月公表「水道におけるPFASの処理技術等に関する資料集」
https://www.jwrc-net.or.jp/chousa-kenkyuu/p-ken/p-ken_report_rev.pdf
2. 千葉県環境研究センター「イオン交換樹脂による有機フッ素化合物の水処理方法の基礎検討」
https://www.pref.chiba.lg.jp/wit/hai-ka/nenpou/documents/ar2011haika003.pdf
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
