代表はテフロン、特殊用途で「F」が現代を支えてきた【PFAS規制でどうなるフッ素化学品 第1回】
2024/02/01フッ素化学製品はさまざまな用途に利用され、現代社会を支えるのに不可欠な材料として広く認識されています。ところが近年、フッ素を含む「PFAS」とよばれるペルフルオロおよびポリフルオロアルキル化合物(Per- and polyfluoroalkyl substances)がもたらす環境への影響が危惧され、社会問題となっています。みなさんも規制などの動向を気にしているのではないでしょうか。そこで、今回よりChematelsの連載「PFAS規制でどうなるフッ素化学品」をみなさんにお届けします。PFAS問題はフッ素化合物の特異な性質が裏目に出たものですが、これについては次回以降で詳しく説明します。第1回では、まずフッ素製品の現状を述べてみます。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 フッ素化学業界の現状と基礎知識を理解する
- 第2回 PFASの概要を把握する
- 第3回 PFAS規制の現状と今後を展望する
- 第4回 PFAS規制の対応策を見出す
- 第5回 フッ素化合物規制の歴史を概観する
緻密で剛直な結合ゆえに耐熱性や耐候性などの特長多数
フッ素は原子番号9のハロゲン族元素です。原子の大きさが水素原子に次いで小さく、電気を引き付ける力を意味する電気陰性度が全原子中で最大という特徴を持ちます。また、炭素との結合エネルギーが大きいという特徴も持ちます。
これらの特徴があることから、フッ素製品はさまざまな特性を発揮します。代表的なものとして、耐熱性、耐薬品性、耐候性、撥水・撥油性、電気絶縁性、誘電特性、潤滑性などが挙げられます。フッ素製品の特徴と分子構造の関係を図1にまとめました。

図1:原子・結合の特性からくるフッ素製品の特長
無機と有機に大別できるフッ素製品の工程・用途
フッ素製品の国内の需給動向は無水フッ化水素酸(AHF:Anhydrous hydrofluoricacid)換算値で示されますが、供給はアシッドグレード蛍石とフッ化水素の合計で表されます。直近10年間の供給量は年間8.8~14.7万トンで推移し、平均で年間11.6万トンとなります。需要としては、フルオロカーボンに代表される「有機フッ化物」と、高純度フッ化水素などの「無機フッ化物」の比率が、およそ6対4となります。有機フッ化物の代表であるフッ素樹脂の生産量は10年平均で約3万トンです。これはポリエチレンなどの汎用樹脂の0.3%に過ぎませんが、耐熱性や耐薬品性に優れているため特殊な用途に使われています。
フッ素製品は蛍石ともよばれるフッ化カルシウムが出発原料ですが、フッ化水素(HF:Hydrogen fluoride)の形成後、無機フッ化物と有機フッ化物に分かれる形で製造されます。各種製品の製造工程を図2に示します。

図2:フッ素化学製品の製造工程と系統図
無機フッ素化合物からは、フッ化水素の形で用いた洗浄剤やエッチング剤だけでなく、フッ化水素を電気分解して得られたフッ素(F2)ガスをもとに遮断器や変圧器などに用いられる六フッ化硫黄(SF6)、また五フッ化リン(PF5)と反応させてリチウムイオン電池の電解液に用いられる六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などが作られます。
一方、有機フッ素化合物からは、エアコンに用いられる冷媒や洗浄用溶剤などが作られます。フッ素と炭素からなる有機フッ素化合物はフルオロカーボン(FC:Fluorocarbon)とよばれます。また、フッ素と炭素に加えて、塩素が含まれるクロロフルオロカーボン(CFC:Chlorofluorocarbon)、水素と塩素が含まれるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC:Hydrochlorofluorocarbon)、水素が含まれるハイドロフルオロカーボン(HFC Hydrofluorocarbon)なども有機フッ素化合物です。これらは、ハロゲン化炭素をフッ化水素と反応させることなどで製造されます。
有機フッ素製品の工業応用の例を挙げてみます。ハロゲン化炭素の一種クロロホルム(CHCl3)をフッ化水素(HF)と反応させることで、クロロフルオロカーボンの一種クロロジフルオロメタン(HCFC-22:Hydrochlorofluorocarbon-22、CHClF2)を作ることができます。さらにこのHCFC-22を650℃程度の温度で加熱することにより、テトラフルオロエチレン(TFE: Tetrafluoroethylene、C2F4)を作ることができます。このTFEを水中で重合することにより、商品名「テフロン」でフッ素樹脂の代表格ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)を製造できます。また、TFEをさまざまなモノマーと組み合わせることで、フッ素ゴムやイオン交換樹脂などの機能性樹脂の製造が可能です。
主な産業用途はフッ素樹脂など
フッ素製品は特殊用途で使われています。フッ素製品の市場と製造企業の現状を図3にまとめました。

図3:主なフッ素製品と製造企業(日本国内)
原料のフッ化水素は、セントラル硝子、三菱マテリアル電子化成、AGCで製造されています。無機フッ素製品の主な用途は、半導体製造や太陽電池製造におけるシリコンウェハーのウェットエッチングであり、2012年のフッ化水素出荷先の39%を占めています。この用途ではEL(ELectric)グレードとよばれる高純度フッ酸や、55%フッ酸が使用されています。高純度フッ酸には電子部品向けの12N(99.9999999999%)と、50%フッ酸およびバッファードフッ酸の2種が使用されています。
その他の無機フッ素製品にはリチウムイオン電池に用いられる六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)や、半導体製造装置の洗浄に用いられる三フッ化窒素(NF3)などが挙げられます。製造企業としてはステラケミファ、森田化学工業、関東化学工業などがあります。
有機フッ素製品に用いられるフッ化水素(HF)のうち、フルオロカーボン類の合成用途で国内需要向け出荷先の約50%を占めています。ジフルオロメタン(HFC-32)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、また両者混合ガス(HFC-410A)などのフルオロカーボン類は、冷媒、エアゾール、発泡剤、洗浄剤などの用途で使用されています。
フッ素樹脂はフルオロカーボンを経由して、重合や共重合などにより製造されています。原料として、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)や、1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(HCFC142b)、また 1,1-ジフルオロエタン(HCFC-152a)などのフルオロカーボンが使用されています。フルオロカーボン類およびフッ素樹脂の国内主要生産企業はAGC、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカルなどです。
次回のテーマは「PFASの概要」の予定です。ご期待ください。
参考文献
1.F&Fインターナショナル著、山辺正顕監修『トコトンやさしいフッ素の本』(2012年、日刊工業新聞社刊)
2.石油天然ガス・金属鉱物資源機構「鉱物資源マテリアルフロー2013 フッ素(F)」https://mric.jogmec.go.jp/public/report/2014-06/28.20140601_F.pdf
3.化学工業日報 2023年7月4日付「フッ素ケミカル特集」
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
