不都合な特性は「安定性」の裏返し【PFAS規制でどうなるフッ素化学品 第2回】
2024/02/20Chematelsの連載「PFASでどうなるフッ素化学品」をお届けしています。この第2回より、いよいよPFASの話題に深く入っていきます。PFASは簡単にいうと有機フッ素化合物の総称であり、炭素原子とフッ素原子が非常に強く結合するため、耐候性、撥水性、耐熱性などの優れた特性を持っています。一方、強い安定性がある故に環境中で分解されにくく、さらに生体に蓄積しやすいという不都合な特性を併せ持っています。今回は、PFASに分類されるフッ素化合物の特徴とその不都合な特性について詳しく述べていきます。
目次
本連載で扱う項目
15のグループに大別できる
PFASとはPer-and polyfluoroalkyl substancesの略称で、「完全にフッ素化されたメチルまたはメチレンの炭素原子を少なくとも一つ含むフッ素化合物」という経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)の定義が広く用いられています。骨格の炭素とフッ素が強力に結びついた分子構造を有しています。
現在、4700種類以上のPFASが存在していますが、図1に示すように大別すると15のグループに分類されます。それらは大きく4グループ、すなわち「ペルフルオロアルキル酸(PFAA:Perfluoroalkyl acids)」「ポリフルオロアルキル酸(PolyFAAs: Polyfluoroalkyi acids)」「PFAA前駆体」「その他」に分類されることもあります。

図1:主要なPFASと用途
(出所:OECD. Series on Risk Management No. 68, 2022 “Fact Cards of Major Groups of PFASs”/日本フルオロケミカルプロダクト協議会ウェブサイト「環境規制について」を参考に編集部作成)
代表的な製品はPFOSとPFOA
環境問題で特に取り沙汰されるPFASは、炭素数8のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:Perfluorooctanesulfonic acid)とペルフルオロオクタン酸(PFOA:Perfluorooctanoic acid)です。PFOAとPFASの構造と特徴を、類似物質であるペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCAs:Perfluoroalkyl carboxylic acids)それにペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS:Perfluorohexane sulfonic acid)とともに図2にまとめました。

図2:代表的なPFASの分子構造
(出所:化学工業日報2023年9月21日記事を参考に編集部作成)
PFOAは、米国デュポン社の登録商標「テフロン」の名で知られたポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)樹脂製品の普及とともに、1950年以降広範に使われてきました。
PFOSは、界面活性機能が高いことを生かして、撥水加工の雨具や、防汚性カーペットなどに使用されるだけでなく、空港、基地、石油コンビナートなどに出荷され、火災拡大防止目的の泡消火剤としても使われてきました。
しかし、この2種類のPFASについては健康への悪影響が広く認識され、2000年ごろより各国で製造が中止されることになりました。
強い安定性が難分解性と生物蓄積性に直結
PFASは、炭素とフッ素の強い結合力による難分解性、耐熱性、耐候性などの優れた特長を持っています。しかしながら、結合の安定性は「不都合な性質」も与えます。その不都合な性質とは難分解性と生物蓄積性であり、環境汚染と健康被害をもたらします。
環境汚染については、PFOSやPFOAが自然界で分解されにくい性質だけでなく、水に溶けやすい性質を持ち合わせていることも原因となります。PFASは難分解性であるため、環境中では長期間残留する性質があります。そのため、フッ素製品製造工場の周辺では、知らないうちに高濃度のPFASが環境中に流出することになります。図3にPFAS製造工場から環境に流出する直接的な経路と、製品として出荷されたフッ素製品から二次的に排出される間接的な経路を示します。

図3:PFASの流出経路(工場周辺住民と一般消費者の暴露)。実線は主に直接的な経路。破線は主に間接的な経路
(出所:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(JEPA:Japan Endocrine-disruptor Preventive Action)パンフレットを参考に作成)
直接的な経路については、工場排水や工程廃棄物を取り扱う処理場からの流出だけでなく、基地などで保管されている泡消火剤が使用時に流出し、周辺の地下水や河川を経由して浄水施設に流れ込むことが含まれます。その結果、水道水を利用する工場周辺の住民などが飲食時にPFASを取り込むことになります。
間接的な経路については、さまざま考えられます。例えば、PTFE樹脂として出荷された原料がフライパンや撥水繊維などの機能製品に加工される際、PFOAなどを加えられます。一般消費者がこれらの製品を使用するとき、これらPFASの暴露を受けたり環境への放出をもたらしたりすることになります。
ヒトの体内でとりわけ残留しやすい
一方、PFASが健康に影響を及ぼす機構については完全には解明されていないものの、体内に取り込まれたPFASの体内残留性が深く関係しています。
ヒトでのPFOAの体内半減期は4.4年*1と報告されています。他の動物の体内半減期、例えばマウスの30日などより遥かに長いことが特徴です。体内半減期が長い理由の一つとして、PFOAの腎臓でのろ過特性を表す指標である腎クリアランスが、ヒトでは極めて低いことが挙げられます。
サルなどの他の動物と比較するとヒトのPFOA腎クリアランスは300分の1~1000分の1であり、ヒトの腎臓ではPFOAが積極的に排泄されないことを示唆しています。従って、微量のPFOAであっても体内に取り込まれると長い期間、体内に留まり、健康を害してしまうことになります。
飲料や食品として体内に取り込まれたPFOAは、血液中のアルブミンと結合します。アルブミンは肝臓で作られるたんぱく質で、血液中のさまざまな物質を運んだり、体液の濃度を調整したりする働きを有しています。アルブミンと結合されたPFASは肝臓や他の臓器に運ばれ、長期間にわたって臓器に留まり、腎臓がんや肝疾患などの健康障害の原因となると考えられています。
次回のテーマは「PFAS規制の現状と今後」の予定です。ご期待ください。
参考文献
*1:ヒトでのPFOAの体内半減期は4.4年
日本薬学会 環境・衛生薬学トピックス 2022年3月1日 掲載「Forever Chemicals, PFOAの有害性とは?」
https://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/topics/topics69.html
中尾 眞(Makoto Nakao)/ SCE・Net
1948年生まれ。東京大学大学院化学工学修了。旭硝子(株)にて研究開発部、化学品営業部などに在籍し、イオン交換膜法食塩電解技術関連の開発・営業およびPEM燃料電池開発に従事。2006年より(公社)化学工学会SCE・Netの活動に参加し、現在代表幹事を務める。
