労働環境と給料…解決に必要な改善はたった二つ【元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実 第5回】

2024/01/18
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ライターとして多数メディアで活躍中の元トラックドライバー橋本愛喜さんに、「物流・運送業界の2024年問題」の真相を解説してもらっています。年が明けて2024年。まさにこの問題は待ったなしの状況となりました。最終回となる今回は、橋本さんが考える「問題解決に必要なたった二つのこと」をみなさんにお届けします。

目次

長時間労働の是正で、安い給料がさらに減ることに

ここまでお話してきた通り、「トラックドライバーの2024年問題」を解決するには、かねてより現場に蔓延する「荷主とのパワーバランス」と「古い商習慣」をまず見直さなければなりません。

この「2024年問題」で最も深刻になるのは「人手不足」です。

数十年にわたり慢性的に続いてきたトラックドライバー不足の中で、さらに労働時間が短くなるわけです。国や荷主、運送企業は何とかトラックドライバーを増やす対策をとる必要があります。

しかし、第2回「『宅配こそ問題』とメディアは誤解する」でもお話したとおり、実は現場のトラックドライバーたちの間では、この「働き方改革」によって、離職を検討する人たちが増加しているのです。

その理由は「給料の更なる減少」の懸念です。

トラックドライバーは、他業種よりも労働時間が長いにもかかわらず、賃金が他業種平均よりも低い状態にあります。歩合制で働くトラックドライバーからすれば、この長時間労働を是正すべく労働時間を減らそうとすると、ただでさえ安い給料がさらに減ることになるわけです。

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図1:トラックドライバーの賃金・労働時間
⁠(出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を参考に編集部作成)

50代以上の人からは、トラックほどは体を酷使しないタクシーやバス、または地場配送の業界に転職するという声が。また、40代からも「年齢的に別業種に転職できる最後のチャンスかもしれない」と、やはりトラックを降りることを検討する声が聞こえてきています。

さらには、少なくなった給料のために増えた休みの時間を利用して副業をしようとする動きも見られます。中にはギグワーク、つまり短時間・単発の仕事として、「ウーバーイーツ」の配達員をすでに始めている人もいるのです。

これではもはや本末転倒です。働き方改革は、いったい何のための、誰のためのものなのでしょうか。

必要な対策は「労働環境の改善」と「運賃・給料の引き上げ」だけ

「2024年問題」、ひいてはトラックドライバーの人手不足を解消する策には、大きく二つしかありません。それは、次のものです。

 ① 労働環境の改善
⁠ ② 運賃・給料の引き上げ

逆にいうと、この二つさえ改善すれば、「絶対に」トラックドライバーになろうとする人は増えます。

ところが、国が掲げた対策は、この2点の解決に対してまったく的を射ていません。

第3回「ズレ感ある国の政策が現場の首を絞める」で紹介した政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」を以下に再掲します。ここで打ち出されているのは、「モーダルシフトの促進」や「女性や若手等の多様な人材の活用」、さらには「高速道路の制限速度の引き上げ」などであり、外堀ばかりに手を出そうとしているのです。

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図2:政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」。再掲
⁠(出所:内閣官房 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議2023年6月2日公表「『物流改革に向けた政策パッケージ』のポイント」)

中でも私が特に懸念しているのは、先の「女性や若者等の多様な人材の活用」の枠で活発化する「外国人労働者の受け入れ」案です。

現在、運送業界では特定技能の外国人労働者を受け入れようという動きが出ています。が、「人が少なければよその国から人材を確保すればいい」という安直な考えは、結果的に現場の労働環境改善を放棄することになりえますし、なにより都合よく外国人労働者を利用するやり方には大きな違和感を抱きます。

他業界では、すでに多くの外国人労働者の受け入れが行われていますが、しがらみのない環境を求めてトラックドライバーになった人たちには、外国人との交流経験が少ないことから、彼らに対する先入観や違和感をもつ人も少なくありません。

また、トラックドライバーの場合、事故が起きる場所は、作業現場ではなく会社から遠く離れた道路であり、被害者は同業者ではなく、その道路を利用する「一般人」の可能性が高くあります。

こうした環境下で事故を起こすと、差別が助長されるおそれもあるのです。

「2024年問題」の対策に、荷主の理解・協力が欠かせない

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図3:深夜の道路を走るトラック

先の政策パッケージの中には、古い商習慣から脱却するための対策や、運賃の引き上げに対しての取り組みもあることにはあります。けれども、よく見てみると、運ぶ側にはしっかり罰則があるにもかかわらず、荷主側に対しては法的措置がないものばかり。荷主が危機感をもって「2024年問題」の対策に取り組む形にはなっていないのです。

今後の人材確保には、労働環境の改善と運賃の引き上げをして、「ドライバーになりたい」という人を増やすことが重要になります。

そしてその「労働環境の改善」と「運賃の引き上げ」には、何よりも「荷主の理解と協力」が必要不可欠になるわけです。

私はいままでずっと、

「2024年問題は運ぶ側の問題ではなく運ばせる側の問題」
⁠「トラックドライバーの働き方改革よりも『運ばせる側の意識改革』が先」

と言いつづけてきました。それは、この2点をクリアする必要があるからです。

これまでこの連載を読んでくださった方にはその荷主さんが多いかと思います。皆さんの現場も大変なことは重々承知しています。ただ、自社の製品を運んでくれるトラックドライバーがいなくなれば、いま以上に大変になるのは自明です。

宅配と違い、普段なかなか目に見えないところで活躍する企業間輸送のトラックドライバー。どうか、彼らの「いま」に、もう少し目を向けてください。

彼らが明日も来年も、そして10年後も、皆さんの荷物を運べていられる未来であることを切に願っています。

「元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実」はこれで終了です。お読みいただき、ありがとうございました。

参考文献
⁠1. 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022」
⁠ https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2022.pdf

橋本 愛喜(Aiki Hashimoto)

フリーライター。大阪府生まれ。工場経営者、トラックドライバー、日本語教師を経てライターに。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上の工場へ配達。現在はブルーカラーの労働環境、国際文化ギャップ、ジェンダー、差別、誹謗(ひぼう)中傷などに関する社会問題を中心に執筆。メディア出演・講演なども行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、2020年)。