「段ボールに傷」で商品弁償も…荷主至上主義に振り回される現場【元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実 第4回】
2023/12/14Chematelsの連載「元トラックドライバーが解説! 2024年問題の真実」をお届けしています。第4回の今回は、執筆者でライターの橋本愛喜さんが、「荷主至上主義」で生じているドライバーへの過剰なまでの負担の中身を一つずつ伝えます。
目次
本連載で扱う項目
- 第1回 問題の要点と長時間労働の要因
- 第2回 メディアや世間の誤解
- 第3回 ズレ感ある国の政策パッケージ
- 第4回 荷主至上主義に振り回される現場
- 第5回 解決に必要なたった二つのこと
第1回「把握しない荷主、運転手の長時間労働を助長」では、トラックドライバーが課せられる「荷待ち」の視点から「荷主至上主義」をお伝えしましたが、今回はそれ以外にも現場を疲弊させている事例をいくつかご紹介したいと思います。
運送業界の中で最も顕著で分かりやすい「荷主至上主義」は、やはり「荷待ち」でしょう。

図1:荷待ちがある1運行の平均拘束時間と内訳。2021年1月から3月、トラックドライバーへの調査で、有効回答3,993名
(出所:国土交通省2021年7月公表「トラック輸送状況の実態調査結果」を元に編集部作成)
図1のように平均は約1.5時間というデータも出ていますが、私がいままで取材した中では、平均3~4時間。最長は21時間半だったということを第1回でお話したと思います。
しかし、ドライバーが対峙せざるをえない「荷主至上主義」ゆえに強いられる作業はこれだけではありません。
「付帯作業」もその一つです。
運転業以外の負担がのしかかる
付帯作業とは、荷主先で強いられる「運転業以外の作業」のことを指します。
中でも多いのが、図1のグラフにもある「荷役」。これは現場のほとんどでドライバーがごく当たり前のようにさせられている「積み降ろし作業」のことです。
フォークリフトで一気に荷物を積み降ろしするだけでなく、中には「パレット部分の空間を作らずに運びたい」「パレットの返却をしなくてはならない」などの理由から、ドライバーに手で積み下ろしをさせる現場が少なくありません。
ドライバーにどんなものを積んでいるか尋ねると、その内容に驚かれると思いますが、「5000個の段ボールを炎天下の中で積み降ろし」「ジャガイモなら10kgを1200ケース」「30kgの米俵を800袋コンテナに積んだ」などの声が大量に集まります。

図2:袋入りラーメンの入ったカートンを満載したトラック
(筆者撮影)

図3:30kgの米俵440袋。本文のケースとは別現場
(筆者撮影)
スーパーの陳列まで強制、その原因は規制緩和にあり
ドライバーに強いられる付帯作業はこれだけではありません。
荷降ろしの際、仕分けや検品、ラベル貼り、棚入れ、中にはスーパーマーケットでの陳列までさせられることもあります。
棚入れの際は、使用期限や消費・賞味期限が早いものを手前にしておく必要があるので、わざわざ在庫を一度出して、ドライバー自身が運んで来たものを奥に入れ、棚入れをしなおすという作業まで発生するのです。
これほど過酷な作業が、多くの現場では「無料」でさせられている現状。その原因になったのが、第3回「ズレ感ある国の政策が現場の首を絞める」で紹介した「1990年以降の規制緩和」なのです。荷物の奪い合いによって運賃は安くなり、付帯作業は当然のように無料のサービスとして提供するようになったわけです。
ダンボールの傷だけで返品、さらに弁償までも
さらに、もう一つ、昔からの商習慣により起きている理不尽な「荷主至上主義」をご紹介しましょう。
それが「段ボールの傷問題」です。
荷物の運搬の際、よく梱包材として使われる段ボール。ご存じのとおり、この段ボールには荷物をまとめたり保護したりする役割がありますが、実は運搬時に少しでも傷をつけると、中身はたとえ無傷でも、その荷物を返品させるというとんでもない実態があります。
当然、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで商品を陳列すれば、段ボールは一瞬のうちに不要物になります。それでも、擦れた跡があったり、角が潰れていたりするだけで、返品になることがあるのです。

図4:ダンボールの傷で返品のおそれも
(筆者撮影)
中でも現場から「厳しい」という声が聞こえるのは「飲料」系、「医薬品」系の荷物です。
「わずかな段ボールの傷で返品」というのも十分に理不尽ですが、さらに問題なのが、返品ではなく「弁償」させるケースです。各運送事業者は荷物保険に入っていることがほとんどですが、免責分がドライバーの弁償になり、それが高額になった場合、退職金で相殺させられることも少なくありません。
念を押しますが、中身は無傷です。
理不尽はこれだけに終わりません。
弁償させておきながら、その商品はドライバーに手渡されないケースまであるのです。
その理由を荷主に聞くと、「非正規のルートで流通した商品に責任が取れないから」と言いうのですが、ならば段ボールの傷ぐらいでドライバーに弁償させる「荷主至上主義」を改めればいいと心から思います。
長時間労働だけが改善すべき問題ではない
トラックドライバーの労働環境にでは、「2024年問題」が注目されて以降、「長時間労働」ばかりにスポットが当てられています。けれども、長年現場を取材している立場からすると、長時間労働さえ改善すればドライバーの労働環境が改善されると思ったら大間違いだと感じます。
まずは、「見えない化」してしまっている「ドライバーの価値」を、しっかり世間や荷主が認識する必要がある。ドライバーの過酷な労働環境に目を向けるたびに、そんな思いになるのです。
次回のテーマは「解決に必要なたった二つのこと」です。ご期待ください。
参考文献
1. 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議 2023年6月2日公表「『物流革新に向けた政策パッケージ』のポイント」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/seisaku_package.pdf
橋本 愛喜(Aiki Hashimoto)
フリーライター。大阪府生まれ。工場経営者、トラックドライバー、日本語教師を経てライターに。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上の工場へ配達。現在はブルーカラーの労働環境、国際文化ギャップ、ジェンダー、差別、誹謗(ひぼう)中傷などに関する社会問題を中心に執筆。メディア出演・講演なども行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書、2020年)。
